ミステリー小説の王道といえば、孤立した山荘での殺人事件ですよね。
今回紹介する東野圭吾さんの「ある閉ざされた雪の山荘で」はまさに王道の設定ですが、持ってき方が上手い作品です。
単純な孤立した山荘ではない一風変わった設定からの、見事なトリック。
映画化もされた一冊をここでは、書評、一部ネタバレありの要約を行なっていきます。
では、いってみましょう!
あらすじ
早春の乗鞍高原のペンションに集まったのは、オーディションに合格した男女7人。
ペンションで行われる舞台稽古を行うのが目的。
「豪雪に襲われ孤立した山荘という設定で、生活をしてくれ」との監督からの指示のみで、7人は困惑しながらも指示通りに生活をする。
だが、一人、また一人と現実に仲間が消えていくについて、彼らの中に疑惑が生まれた。
本当にこの生活は舞台稽古なのか、それとも現実に殺人事件が起こっているのか?
犯人は?誰が芝居で、誰が本物なのか?
本書の概要
ページ数
解説含めず292ページ、全306ページでした。
読むのにかかった時間
大体3時間半ほどで読み切ることができました。
構成
三人称で書かれる部分と、主人公である久我和幸の独白という一人称で書かれる文章が交互になる構成でした。
わかりやすい表現かつ、セリフ多めで読みやすかったです。
ただ、登場人物の誰が喋っているのかがわかりにくい部分もあり、登場人物7人の整理は少し苦労しそうでした。
書評(ネタバレなし)
はぁ、うまいことやったなぁ~というのが僕の正直な感想です。
まず設定から上手い。
俳優たちを集めた上で、稽古という形で山荘に閉じ込めるという設定から、現実にありそうな見事な設定だと思いました。
そして、そこで行われる芝居なのか実際の殺人事件なのかもわからなくなっていく様も見事。
結構ミステリー小説を読んできた僕としては、もうこの設定のうまさだけで素晴らしい作品だと思っちゃいました。
ありそうでない、発想や工夫といういった面でとにかくすごいと思いました。
さらにそこから読者に仕掛けたトリックも見事で、僕は最後の最後までわからないトリックでした。
それも踏まえてトータルずっと上手いことやった作品だという評価です。
残念な点を挙げるなら、殺人事件のトリックがお粗末なところくらいですかね。
説明されても、よくそんなのでうまくいったな、みんな素直すぎるやろ。という感じです。
もっとドロドロした殺人や性格の悪い人が出てきて、ぶつかり合う系が好きな僕としてはちょっと物足りない感じがしました。
最後には感動的な場面もあるので、そこは万人受けしそうだとは思いましたね。
おすすめ度
東野圭吾さんの「ある閉ざされた雪の山荘で」のおすすめ度は、5点満点中4点です。
見事な舞台設定と、読者向けのトリックがある上に物語としても一気に読めてしまうほどのめり込めるため非常に高得点。
殺人事件部分や推理部分に好みと違ったので若干点数を落としていますが、間違いなくおすすめできる一冊です。
最後にかけての盛り上がりも素晴らしく、最終的なオチも綺麗。
読者向けのトリックもあり、伏線回収に慣れていない方なら鳥肌もきっと立つはずです(僕は鳥肌レベルではなかったです笑)
ぜひ、気になる方は読んでみてください。
要約・あらすじ(ネタバレあり)
ここからはネタバレを含みますので、ネタバレが嫌な方はまとめの章まで飛ぶようにしてください。
では、ネタバレありの要約・あらすじからやっていきます。
オーディションに合格した7人の男女は、乗鞍高原のペンションに集められました。
監督から速達で一通の手紙が届く。
「雪で閉ざされた山荘が今回の舞台、ただ脚本も演出もまだ決めていない。7人がそれぞれが脚本家、演出家になり3日間を過ごしてほしい。山荘から外に出ること、外に連絡することは禁止。破った場合は今回の舞台は破棄とする」
7人は困惑しながらも、ひとまず3日間をこのペンションで過ごせばいいのだと考え生活を始める。
そんな1日目、一人の女性の姿が消える。
次の日になり、男女6人となった彼らは、一枚の紙を見つける「首を絞められた遺体、これを発見した人を第一発見者とする」という内容。
いよいよ閉ざされた山荘でのゲームが始まったと解釈した男女は、各々アリバイなどを確認するも夜中の犯行と思われるため、進展はしない。
主人公である久我和幸はそんな中、本多とお互いのアリバイを確実にするため同じ部屋で寝ようと提案する。
承知した本多と共に久我は2日目を終えた。
3日目になり、また一人の女性がいなくなっていることがわかる。
さらに、血のついた鈍器まで見つかり、男女5人に疑念が生まれる。
本当にこれはただのゲームなのか、それとも本当に殺人事件が起こっているのではないかという疑念。
さらに、ペンションのすぐ横に井戸があることを思い出し、遺体は全てそこに投げられている可能性まで考えられた。
疑心暗鬼になっていく男女5人、真剣に推理を展開し動機の線から「麻倉雅美」が重要人物だと考える。
麻倉は、今回のオーディションで素晴らしい演技をしつつも落選した人物で、それを機に自殺を図り下半身付随となってしまっていた。
そのオーディションに合格した、演技は下手ながらも監督と肉体関係を持つ女性、親が大金持ちの女性、二人が行方不明になったことからその推理が濃厚と判断する。
最後の日はみんなで同じ場所に寝ようと提案し、なんとか3日目は犠牲者なく、終わる。
しかし、朝食後男女5人は眠気に襲われる。
そして、ついにもう一人の犠牲者が行方不明になる。
だが、久我がそこで残った全員を遊戯室に集め、推理を始めるのだ。
今回行われていることは、ゲームではなく殺人事件であることを語り始め、さらに実は殺人ではなく全員生きていることも推理で明らかにする。
さらに、ペンション内に麻倉が隠れて自分たちの様子を見ていたことも言い当てる。
麻倉は大人しく、皆の前に現れ、これまで実行犯だった本多とともに全ての真実を語り始める。
三人を恨んでいた麻倉は殺す計画を本多に持ちかけた。
本多は元々好きだった麻倉の計画かつ、麻倉の恨みに同情し実行することに同意した。
ペンションは麻倉の叔父に借り、秘密の部屋などの工夫をしてもらったのだ。
ただ、本多は直前になり殺すのはやり過ぎだと判断し、殺され役三人に全てを話し協力してもらうことにしたのだった。
三人は合意し、麻倉が隠れて見ている中で死んだふりをしていったのだ。
アリバイが完璧に思えた本多も実は、その時は殺され役同士で殺人を演出していただけだった。
こうして、全ての事件が明らかになり、さらに男女7人はそれぞれに反省点を持ち物語は幕を閉じた。
叙述トリックの解説(ネタバレあり)
ネタバレ続きます。
ここでは叙述トリックの解説をしていきます。
叙述トリックはズバリ、三人称視点と一人称視点の書き方でした。
三人称視点で描かれる小説は、読者としては神の視点と言われる登場人物とは全く関係ない視点での語り手という見方をするのが普通ですが。
「ある閉ざされた雪の山荘で」では違いました。
三人称視点が登場人物である麻倉のものだったのです。
三人称視点のところは麻倉視点なので実は限られた場面しか、表現できない(麻倉は四つの部屋を見る穴しかなかったため)
一人称視点である久我に切り替わったのは、実は三人称視点の書き方(麻倉の視点)では見えないところを補完する役割があったのです。
すっかり、三人称視点と一人称視点は単純に表現をわかりやすくしただけかと思いきや、実は作者が仕掛けた読者に向けたトリックだったというわけ。
三人称視点は、ストーリーとは関係ない語り手であるという先入観をついた叙述トリックでした。
まさに読者を巻き込んだ大掛かりなトリックであり、伏線だったのです。
最初からもしかしてこの三人称は誰かの一人称かもしれないとわかっていれば、物語が本物の殺人事件であることがわかったはずでした。
まとめ
ここからはネタバレないので、安心してください。
今回は、東野圭吾さんの「ある閉ざされた雪の山荘で」を紹介してきました。
よくできた設定と盛り上げ方がピカイチで、伏線も見事にある作品に惚れ惚れしました。
映画化もされていますので、面白さの太鼓判済み!
ぜひ、気になる方はチェックしてみてください。
では、皆さんの読書ライフがより良いものになることを祈っています。
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