犯罪を犯したら罰を受ける。
ですがその罰が常に正しいもので、満足できるものとは限りません。
今回紹介する辻村深月氏の「ぼくのメジャースプーン」はまさにその言葉にぴったりの小説でした。
もしも罰を与える力を持った時、あなたならどんな答えを出しますか?
感情移入して苦しくなって、最後には涙するそんな愛と超能力と罪と罰のお話です。
この記事では、「ぼくのメジャースプーン」の書評と簡単なネタバレ要約を行っていきます。
では、行ってみましょう!
あらすじ
主人公ぼくの小学校を震撼とさせた事件が起きた。
これまでテレビで報道されたニュースよりも、その事件は残酷でショックでどうしようもなかった。
その事件をきっかけにぼくの幼馴染のふみちゃんは、心を閉ざし、声を失ってしまう。
犯人は捕まったのだが、その罰には決して満足なんてできない。
彼女のため、ぼくのためにできることがたった一つだけある。
チャンスは一度きり、あとはぼくが力を使うだけ。
そして、どうやって犯人に罰を与えるかだけ。
罪と罰、想いと超能力、全てが入り乱れる中、苦悩する主人公たちの最後の決断にきっとあなたは胸が熱くなることでしょう。
本書の概要
ページ数
解説含めず、507ページです。
解説含めると、514ページとなります。
読むのにかかった時間
ページ数は多いものの会話が多く、どんどん読み進められる作りとなっていて、おおよそ5時間ほどで読み切ることができました。
構成
主人公ぼくの視点で描かれる一人称の書き方が基本になります。
小学生が主人公ということで、使われる言葉はシンプルなものが多く、難しい言葉には補足が入っていて読みやすかったです。
超揚力の条件など少し複雑なところは出てきますが、読み進めるにあたっては気にしなくても大丈夫でした。
書評
「ぼくのメジャースプーン」は一言で言うと、辛い苦しい悲しい、でも素晴らしい作品です。
犯人に与えられた司法の結果は決して納得のいくものではない中、主人公のぼくが持つ「条件ゲーム提示能力」で罰を与えようとする考えさせられる作品になっています。
「条件ゲーム提示能力」を簡単に説明すると、条件を与えてできなければ罰を与えるという力で、相手に強制的に条件のことをやらせたり、罰を与えることができる人知を超えた力です。
例えば、「毎日10km走りなさい」という条件と「そうでないと、一生あなたは太ったままみんなに影で笑われると感じます」という罰。
これを言葉で告げることで、10kmを走らせることができ、毎日できなければ罰が与えられるという超能力です。
これを犯人にどう使うかが、「ぼくのメジャースプーン」での鬼門になります。
「反省しろ、そうでないと死ぬ」という使い方だったりを小学生が真剣に考えるのです。
現実世界にあったらかなり苦悩する能力だと僕は思いました。
強力な力であるが故に、重すぎる罰はおかしいし、軽すぎる罰は決して自分が納得しない。
そんな難しい決断を主人公は迫られるのです。
もちろん、力を使わないという選択肢もあるのですが、なんせ主人公の幼馴染であるふみちゃんは犯人の行いでショックを受け、心を閉ざしてしまっています。
声をかけても反応しない、常にどこか遠くを見ているようになってしまった彼女をみるたびに心が痛みます。
読者として僕も心が痛くなり、さっさと力を使えって思いました。
ですが、書き方がうまい。
簡単で明瞭な罰が決して良いものではないという考え方も紹介されるのです。
そしてまた苦悩する、自分だったらどうするかを考えさせられ、司法の限界や人間が人間に与える罰の難しさを痛感させられる作品でした。
感情移入すればするほど、辛く苦しく悲しい作品ではあるものの、最後の最後の決断や想いによって感動するという作品です。
このあとネタバレを含む要約を行っていきますが、ぜひこの苦悩と決断、悲しくも心温まる小説はあなたの手で読んでもらいたいです。
ネタバレありの要約
ここからは一部ネタバレを含みますので、ネタバレが嫌な方はまとめの章まで飛んでください。
では、ネタバレありの要約から行っていきます。
主人公が出した結論である条件と罰は、「僕の首を絞めろ、そうでないと医学部には戻れない」というものでした。
犯人は大学生で元医学部でした。
犯人は医学部には戻らない、ただただ反省していると言っていたので、主人公はそれを試そうとするというものでした。
自分の命を顧みないあたりはショッキングで、直前まで全く読めない内容で読者として完全に騙されました。
結果犯人は主人公の首を絞める条件の方を選び、主人公は息が止まるところまでいきます。
ですが、その場はなんとか収まり主人公は死なずに済みました。
病院で目覚めた主人公は1週間ほど眠り続けていて、その間ふみちゃんがお見舞いに来てくれていたことを知ります。
そして場面は切り替わり、ふみちゃんの心が少しだけ開き、「ひとりで、だいじょうぶです」という言葉で話は締めくくられます。
長い間読んできた方にとって、最後の言葉は本当に感動で、これからの二人は大丈夫だろうと思え安心しました。
犯人は最終的に首を絞めたということで、見せかけの反省であったことが露見します。
首を絞めたことは殺人未遂に当たり結局は医学部に戻れない結果となったので、主人公的にも読者的のもまぁ及第点かなといったところです。
僕は実はもっと重い罰をするのでは?と思ったのですが、主人公の考え方にぴったりの回答だったと今振り返ると思います。
オチ解説(ネタバレあり)
ネタバレ続きます。
主人公が「僕の首を絞めろ、そうでないと医学部には戻れない」という言葉を選んだ理由を解説していきます。
首を絞めろというのが条件で、医学部に戻れないというのが罰になる「条件ゲーム提示能力」でした。
この条件と罰は天秤の関係になっています。
条件と罰が本人にとって、条件の方が大変だと感じたら罰を率先して受け入れるようになり、罰の方が難しければ条件を満たそうと必至になるというわけです。
これは本心を見抜く際にも役に立つ手法ということになります。
今回は犯人が口先だけで医学部に戻らないと言っているのか、本心で言っているのかを見極めるために使われました。
もしも首を絞めなければ、犯人は罰を選んだ。人の命を奪ってまで医学部に戻る必要はないと思っているということになります。
罰を選ぶと、医学部に行く方が人の命を奪うより良いと考えたということになります。
主人公はここまで考えた上で、犯人の本当の心を試したというわけです。
小学生が考えられるレベルを凌駕していると思いますが、賢いという言葉で今回は目を瞑ろうと思います。
直前まで読者は騙される形となっており、作者もうまくやってくれたなって感じです。
条件と罰をうまく応用した解答で、全く思いもつかない内容と考え抜かれたプロットに感動しました。
まとめ
今回は、辻村深月氏の「ぼくのメジャースプーン」を紹介してきました。
現実にありうる話で感情移入しやすく、超能力という非現実をうまく組み合わせた小説だと思います。
答えは人それぞれ変わるものですし、司法の限界や罰の限界はどうしても存在するので本当に考えさせられる内容でした。
どれも正解がない分非常に難しい問題です。
罪と罰、自分ならどうするか、それを意識して読んでもらいたいです。
小説の答えが決して正解ではない、ベストではないと思えるそんな作品でした。
感動もでき、心が一つ成長するそんな作品で、多くの方におすすめしたいです。
ぜひ、一度お手に取ってみてください。
では、罪と罰のその先でまたお会いしましょう。
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