10分でわかる「名探偵に薔薇を」書評&ネタバレ解説

小説の書評

名探偵になりたいと思うでしょうか?

実は名探偵にも苦悩があるんです。

真相というのが本当に誰しもが望むものとは限りません。

今回紹介する「名探偵に薔薇を」ではそんな名探偵の苦悩と鮮やかな推理、誰も予想しないオチを楽しめるミステリーとなっています。

タイトルという伏線を持つ中々予想を裏切る作品でした。

この記事では、「名探偵に薔薇を」を読んだ感想とネタバレを含みながらの内容考察・解説を行っていきます。

ネタバレ部には注意書きをしていますので、安心して読んでいってください。

では、いってみましょう!

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あらすじ

おとぎ話から始まる殺人事件。

ある日「小人地獄をご存知か?」と声をかけられるところから物語は始まる。

三橋壮一郎は声をかけられたが、もちろん小人地獄のこともそれによってこれから起こる悲惨な殺人事件のことも知らなかった。

第一の殺人は、三橋が通う家庭教師している娘の母親だった。

メルヘン小人地獄というおとぎ話に見立てられた殺人現場に世間が騒ぐ。

そして第二の事件は全く別のところでこれまたメルヘン小人地獄同様に見立てられて殺されていた。

二つの事件のつながりがわからず第三の殺人を仄めかす人物が三橋と家庭教師先の娘のところに来る。

そしてついに三橋は古くからの友人である名探偵に頼ることにする。

果たして名探偵は事件を解決することができるのか。

そして小人地獄殺人事件はあくまでも序章に過ぎないということを読者は知ることになる。

本の概要

ページ数

解説含めず文庫サイズで307ページでした。

解説も含めた全ページは312ページです。

読むのにかかった時間

ほぼ毎日40分ほどの時間をとって大体5日間で読むことができましたので、約3時間ちょっとの時間があれば確実に読み切ることができる内容になっています。

構成

第一部と第二部に分かれていますが、短編ではなく長編ミステリー。

残酷ですが読後感スッキリの前編と二転三転する読めない結末が待つ後編という作りになっていて、登場人物が変わらないのに関わらず飽きずに読み切ることができる作品です。

また三人称で書かれているものの、第一部では三橋の第二部では名探偵の視点で描かれるので、感情移入や状況理解がしやすい作品になっていました。

第一部感想

第一部はまさに凶器とグロさによる金田一少年の事件簿を匂わせるようなミステリーといったところでした。

最終的なトリック自体は決して目新しいものであったり、奇抜なものではないのですが、しっかりと論理づけられた結論と読後感スッキリのラストはよかったです。

殺人事件の惨状はかなりグロテスクで映像化が難しく想像もしたくないようなものですが、それがまた恐ろしさを掻き立てるので最後の事件解決の喜びにつながると感じました。

名探偵が出てくるものの単に犯人を名指しするものではないという点は、名探偵ものにしては珍しいと感じました。

第二部感想

第二部は毒殺事件が誰の手によってどうして行われたのかにフォーカスを当てることが目的の話になっていました。

名探偵視点に立って事件に挑む形なのですが、正直第一部ほどの名推理や読後感は味わえないかなと思います。

ですが名探偵の苦悩や前半部の伏線が全て回収されるという作りになっていました。

二転三転するオチですが、トリック自体は決して驚きのあるものではなく、なんとなくミステリーとしてのレベルは高くないかなと思ってしまいました。

伏線の回収具合と驚き具合

伏線の回収によって鳥肌が立つということはありませんでした。

前半部があって後半部があるという動かない理由というのが主な伏線ということにはなるのですが、決して驚きのあるものや見事すぎる伏線というわけではないと感じました。

驚き部についても第二部の二転三転にも驚きはあったものの、どちらかというと頭がこんがらがってきて、何が真実で何を言いたいのかがわからなくなってくるといった部類になります。

最終的には真実はシンプルなものということで落ち着くのですが、バットエンドやこれまでの常識をひっくり返すようなどんでん返しがないので、不満な部分はありました。

とはいえ、タイトル「名探偵に薔薇を」という伏線は良かったです。

タイトルがこれじゃなきゃいけない理由もわかる気がしました。

最後の最後でどうして後半が必要だったのか、前半はどういう意図があったのかがわかるのはかなり秀逸な出来だったと思います。

僕としてはもうちょい入り組んだ真実に名探偵だけが辿り着くみたいな展開が欲しかったところです。

最終的なオチ第一部(ネタバレあり)

ここからはネタバレを含みますので、ネタバレが嫌な方はまとめの章まで飛ぶようにしてください。

第一部は第一の殺人の犯人が第二の殺人の被害者だったというオチで、第二の殺人の犯人が第一の殺人を利用したという話でした。

第一の被害者:恵子

第一の犯人かつ第二の被害者:国見

第二の犯人:鶴見

恵子を殺した犯人は国見という男で、国見は小人地獄という毒薬を作っていた恵子の父親への恨みを晴らすために恵子の家族全員を殺すという計画を立てましたが、鶴見によって国見自身が殺され計画を途中から乗っ取られてしまった形。

名探偵である瀬川は一瞬でこの事実を看破し見事に事件解決してしまいました。

鮮やかすぎる謎解きに唖然としつつも、納得してしまう内容でした。

鶴見が完璧な第一の殺人にアリバイがあるのにも関わらず、全ての犯行は自分がやったように見せているのを看破した名探偵の理詰めの仕方はまさに圧巻でした。

第一の殺人が実は全く別の計画の元に始まっているというのがトリックになっていて、そこさえ理解できれば解ける謎になっていました。

第一部については三橋が名探偵を呼ぶことで謎が一瞬で解け、万事解決というオチになっていて後味が良い形でした。

最終的なオチ第二部(ネタバレあり)

第二部は小人地獄殺人事件の数年後になっています。

三橋は家庭教師していた娘の父親の会社に就職し出版社で働いている状態。

そんな中、山中という新しい家庭教師が毒で死んでしまうところから第二部は始まります。

どうして殺されたのか、誰に殺されたのかが問題になってくるのです。

そしてその犯人は一人娘の鈴花。

しかも理由は至ってシンプルで第一部の事件を鮮やかに解く名探偵瀬川の姿に惚れてしまって、もう一度その姿を見たいから事件を起こしたというものでした。

名探偵・瀬川はこの結末に最後まで気づかず、こんなことのために殺人をしてしまった罪悪感と脳腫瘍の手術の恐ろしさから娘鈴花は自殺して最後は締めくくられます。

第一部で見事な推理を披露した瀬川でしたが、第二部では三橋や鈴花と両親がついた嘘によってミスリードされ間違った推理を何度も披露してしまうということをしてしまいました。

元々鈴花が妹に似ていたということもあり、冷静な推理ができていなかったんでしょう。

全体を通した伏線と予想外の展開について(ネタバレあり)

前半部の謎解きによって惚れてしまった鈴花が名探偵に会いたいがために後半部の事件を起こしてしまうという衝撃の事件だったわけですが、鳥肌レベルのものではないと僕は思いました。

伏線としては、鈴花が瀬川に会う時顔を赤らめたり、おそらく服を着替えているであろう時に部屋に入るのを拒んだりしていたというのはありました。

でも「あーそうだったのね」くらいの感想で「やっべー!!」とはなりませんでした。

タイトルの伏線というのも薔薇は愛という花言葉があり名探偵に愛の告白をしているという暗喩が込められていたのです。

名探偵が第二部になってポンコツの推理ばかりをしたのを鈴花が妹に似ていたという理由を考えても、さすがに第一部が見事すぎて拍子抜けしてしまった感はありますね。

また名探偵が最後の最後まで苦悩し、今後も苦悩していく姿は全体を通して可哀そうな気持ちになってしまいました。

まとめ

今回はタイトルという伏線回収が秀逸な作品「名探偵に薔薇を」を紹介してきました。

伏線による驚きは想像よりは少なかったですが、名探偵がその推理力に苦悩する姿や二転三転するオチには読者側として右往左往してしまう感じは面白かったです。

期待しすぎた分、ハードルが上がってしまっていましたが、前半部の面白さがそのまんま第二部の伏線になっていたのは良かったです。

謎解きやトリックの秀逸さは少しもの足りませんが十分におすすめできるミステリー作品でした。

では、いつか僕にも薔薇をください(笑)

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