未成年犯罪に対して僕たちは何をすればいいのか?
また一冊、悩まされる作品に出会いました。
今回紹介するのは、東野圭吾さんの「さまよう刃」です。
娘を未成年犯罪者に殺された父親の復讐劇という物語で、未成年の更生をどう考えるべきか悩まされる一冊でした。
この記事では、「さまよう刃」のページ数から読むのにかかった時間、あらすじと書評、内容について一部ネタバレありで要約・解説していきます。
では、行ってみましょう!
あらすじ
ある花火大会の日、長嶺は自宅で娘・絵摩の帰りを待っていた。
いつになっても帰らない絵摩は、花火大会の帰りに未成年の少年グループによって蹂躙され、殺されていたのだった。
謎の密告電話によって犯人を知った長嶺は、娘の復讐に乗り出した。
犯人の一人を殺し、警察も長嶺を追うことになる。
犯人のもう一人は警察から逃げる。
長嶺は犯人の少年を追いながら、警察からも逃げる。
警察は、二人を追う構図だ。
少年グループの残酷すぎる犯行にメディアも動き出して、世論が揺らぐ、正義とは何か。誰が犯人を裁くのか。
事件は予想外の展開を迎える…
果たして、長嶺は復讐を遂げることができるのか。
果たして、警察は長嶺の復讐を止められるのか。
本書の概要
ページ数
あとがき、解説なく、文庫サイズで全499ページでした。
読むのにかかった時間
セリフ多めで、大体6時間半ほどで読み切ることができました。
構成
長嶺、少年犯罪グループのパシリ・誠、警察、長嶺が泊まったペンションの娘・和佳子の4視点で描かれる構成になっています。
それぞれの視点であるものの、書き方としては3人称でした。
ひどい犯行も出て来ますが、グロテスクやエロすぎる描写は少なく、万人におすすめできる内容です。
書評(ネタバレなし)
未成年が犯罪を犯した時、どうするべきか?
その問いが「さまよう刃」での大きなテーマになっています。
皆さんはどう思いますか?
非常に難しく、答えのない話になってきます。
以前読んだ、「15歳のテロリスト」でも未成年犯罪者をどう扱うべきかについて考えさせられる機会をもらいましたが、やはり難しく心揺さぶられるテーマです。
「さまよう刃」では、娘を殺された父親が復讐をするという物語だったわけですが、復讐が悪いこととわかった上で迷いながら復讐をするという構図になっていました。
なので、父親である長嶺に感情移入しちゃうんです。
娘を失った苦しみと娘を強姦した少年グループへの恨み、憎い気持ちが読んでいる中でひしひしと伝わってきます。
被害者意識で読むと、確実に未成年なんて関係なく重い罪を!と思ってしまいます。
ですが、加害者側を考えたときには、未成年だから更生するチャンスを与えて欲しいと思ってしまうのです。
結局立場によって意見は変わってきてしまうのが人間だなと感じます。
どう言った状況で、どう言った経緯で犯罪が起こったのかを徹底的に調べ、事実の中で裁かれるべきだと僕は思いました。
未成年というだけで、警察の調べが甘くなったりするのは納得できず、経緯や理由を被害者遺族に話すというのが僕は一つの答えのような気がするのです。
この考えは「15歳のテロリスト」で描かれた考え方になります。
「15歳のテロリスト」気になった方は別記事で紹介していますので、読んでみてください。
「さまよう刃」はテーマ以外にも、ミステリーとして隠された要素があるのは面白かったです。
その一つが長嶺への密告者の正体になります。
単純に読んでいると誠と思ってしまうのですが、実は…という形が非常にミステリー要素を感じました。
最初と最後らへんが非常に面白いですが、「さまよう刃」で真ん中ら辺はちょっと逃走劇や調査ばかりで動きが少ない印象を受けました。
とはいえ、未成年犯罪というテーマとしてはやっぱりこの逃走劇や迷いというのを描くべきなのでしょう。
途中、動きがなくなる場面はありましたが、トータル考えさせられて、面白い作品だと思うというのが僕の感想になります。
要約・あらすじ(ネタバレあり)
ここからはネタバレを含みますので、ネタバレが嫌な方はまとめの章まで飛ぶようにしてください。
では、ネタバレありのあらすじ・要約を行なっていきます。
長嶺の娘・絵摩が遺体で発見されたのち、長嶺はずっと落ち込んでいました。
そこに一本の電話がかかってくるのです。密告者です。
密告者によって、犯人は二人の少年であることと、住所を聞いた長嶺は犯人確かめるべく自宅へと向かいます。
犯人宅で長嶺はあるビデオを見つけます。再生すると。そこには長嶺の娘・絵摩が合歓されている映像がありました。
犯人グループは絵摩を襲いながら動画を回していたのです。
怒りと悲しみで涙しているところに、犯人の一人が帰ってきます。その場にあった包丁を手にして長嶺は帰ってきた犯人の一人を殺します。
殺す直前でもう一人の居場所を聞き、長野のペンションにいることを掴んだ長嶺は、もう一人を殺すべく動き出すのです。
長野で顔と名前だけわかる犯人(菅野)を調べるのですが、やはり素人の調査力ではなかなか見つかりません。
長嶺は指名手配されながらも長野で調査を続けていると、ペンションの娘・和佳子に正体がバレてしまいます。
和佳子は警察に言うのではなく、長嶺に協力うると言い出すのです。
一度は断るものの、彼女の協力と密告者によって菅野の居場所を掴むことになります。
そしてついに、上野で菅野、長嶺、和佳子、警察が集合します。
菅野を追い詰める中、長嶺はついに菅野を猟銃で撃ち抜くチャンスに巡り合います。
ですが、和佳子の一言によって迷いが生じ動きが止まったところに銃声が鳴り響くのです。
銃声の正体は警察で、長嶺が発砲する前に撃った形になりました。
撃たれたのは長嶺で、長嶺はそのまま亡くなってしまいました。
菅野も捕まり、一件落着に思えた中、一人の警察官が長嶺を陰から支えていた密告者に会いに行くのです。
その正体は…というとこでこの記事でのネタバレはやめておきます。
気になる方は、ぜひ本編を読んでみてください。
解説(ネタバレあり)
解説部では、長嶺がどうして和佳子の言葉で手が止まったかについて考察していきます。
長嶺は最終的に菅野を殺すチャンスに巡り合うことができました。
引き金に手をかけて、照準を合わせたところまで行きました。
ですが、和佳子の「ながみねさんっ」という言葉で迷いが生じ、結局は撃たない、撃てない状態になり間一髪のところで警察官の銃弾が長嶺に当たりました。
さてここで、疑問が出てきます。どうして長嶺は撃つのを躊躇ったのかです。
単純な解釈だと、長嶺の逃走と復讐を直前まで手伝ってくれた和佳子の声だから、長嶺の耳に入ったという話だと思います。
僕はあえて、違う説を押します。
和佳子の愛説です。
和佳子は長嶺を助ける中で、長嶺に特別な感情を抱いていった説になります。
それが好きという感情よりも、愛という感情というのを捕捉させてください。
長嶺の逃走を手伝う中で、だんだんとほっとけない、助けたい、守りたい。そんな感情が生まれ長野から高崎、上野までついていったのです。
そして、そんな愛のある言葉だからこそ、長嶺に届いたのだと思います。
長嶺自身が本当に求めていたのは、愛のある言葉で、娘の死を真剣に悲しんでくれる味方だったと思うのです。
和佳子は最後まで、長嶺の心を察し、娘のためだからこそ復讐はダメだと言い切っていました。
真剣に娘の死を考えてくれる存在こそが、長嶺の心を癒してくれるものだったのです。
長嶺には妻がいなかったのも、この気づきを与えるためだと僕は考察します。
正解は分かりませんが、僕はこの和佳子の真剣な愛の言葉によって、長嶺は止まったんだと思いたいです。
まとめ
今回は、東野圭吾さんの「さまよう刃」について紹介してきました。
途中、動きがなくなってつまらなくなりつつも、最後にはきっちりとミステリーらしいオチがあるのは素敵でした。
未成年の犯罪や復讐というテーマも非常に考えさせられる内容で、心が揺れました。
何が正解かは分かりませんが、小説の良さがギュッと詰まった一冊だと思います。
ぜひ、一度「さまよう刃」読んで欲しいです。
きっと、心動かされ、考えるきっかけになってくれます。
では、皆さんの読書ライフがより良いものになることを祈っています。
コメント