歌詞の通りに一人ずつ殺されていくミステリー
王道ながらこれまで多くのミステリーが見立て殺人をテーマにやってきました。
ですが、今回紹介する「詩的私的ジャック」ではそんなこれまでの見立て殺人とは、異なるものに仕上がっています。
理系ミステリーで名高い森博嗣の長編シリーズの第4弾です。
なぜ、見立てるのか、どうして見立てたのか。
それこそが謎を解く鍵となる異色のミステリーになっています。
ここでは、書評とネタバレを含む考察、解説を行います。
では、いってみましょう!
あらすじ
大学施設で女子大生が連続して殺された。
その殺人の全てが密室状態で見つかり、遺体は裸で文字状の傷がナイフで痛々しく彫られているという特徴があった。
捜査上に上がったのはロック歌手で大学生の結城稔。
被害者と面識があった上に、殺人事件の現場と彼の歌詞が酷似していたのだ。
大学助教授のやる気ゼロだが、推理力と知識量なら誰にも負けない犀川と好奇心旺盛な超お嬢様西之園萌絵は事件の真相にたどり着くことはできるのか。
犯人が残した密室の意味とは、どうして犯人は密室を作らなければならなかったのか。
密室というトリックよりも誰がどうしてやったかに注目することで未だ出会ったことのない真実に辿り着けることでしょう。
意味のない密室なんてクソ喰らえと言わんばかりのミステリーをとくと味わってください。
本書の概要
ページ数
文庫サイズにて、解説を除いて461ページ、解説含むと全472ページになっています。
読むのにかかった時間
全体で約3時間ほどで読み切ることができました。
後半は特に謎が一気に解けていくのが、加速的に読み進めることができる内容でした。
また前半部もバンバン事件が起きるので、呼吸を整える暇もなく進むので比較的に早く読める作品だと思います。
おすすめ度
おすすめ度は星4つくらい(星5が満点)すごすぎるミステリーじゃないけど、王道ながらしっかりと驚きのあるオチがあるといった印象。
ただ同シリーズの中だと第一作品目の「すべてがFになる」ほどの衝撃や背筋が凍るオチがないといった感じでした。
ちなみに「すべてがFになる」は文句なしの星5つです。
今回のテーマは見立てと密室
見立てと密室はミステリー界でもかなりやり尽くされてきた内容かと思います。
今回の「詩的私的ジャック」でもそんな見立てと密室がテーマになっています。
これまで理系ミステリーとして書かれていたシリーズとしては少し異端な感じがするテーマです。
理系と言いながらも今回の「詩的私的ジャック」に関しては理系問わずな感じでした。
見立てと密室という王道な文系的なミステリーテーマを理系的視点で無理やり解いていったという雰囲気を持っています。
「密室すげー」に関して、「いやそれって科学的にはこうやったんでしょ?」という感じに、冷静な理系が文系の理論に真っ向から戦っていく様を感じる作品です。
とはいえ、見立てと密室は素晴らしい出来で最後までトリックの全貌は分かりませんでした。
トリックは特に現実にできるものばかりでした。見立てもグロすぎず、万人ウケする感じがしました。
理系の心を掴んできた理系ミステリーの金字塔がついに文系の心までを取りにきたといった作品です。
謎解きは見事と言わざるを得ない
謎は非常にもごとな出来で、最後の最後まで謎が解けずに最後にパッと全てが納得いく形に収まっていく姿は非常に良くできたミステリーでした。
また主人公であり探偵役でもある犀川が謎を解く姿はやはりかっこいい。
萌絵が惚れる理由もわかります。
ちなみに萌絵と犀川の恋愛模様についても今回の「詩的私的ジャック」では進展がありました。
ネタバレ部で後ほど書きますが、きゅんポイントが今回はあり、今後の彼等の関係が楽しみです。謎解きの話に戻ると伏線がすごいというわけではないですが、全体が文系と理系の対決という見方的にはかなり伏線があった作品だと思いました。
事件自体は文系が好きそうな情緒的な事件なのに実際のトリックやら動機やらは理系ちっくなちょっと意味不明なものやロジック的な感じで、実に2種類の人間というテーマで書かれている作品でした。
理系な部分と文系的な部分を意識しながら読むと楽しさが倍増すると思います。
ただ密室のトリックには少し不満があるのも事実です。
現実的なトリックなのですが、驚きや盲点だったというトリックではなかったからです。
詳細は伏せますが、トリックが謎解きに大いに関係するということはないので、密室と見立てを分けながら読むと飲み込みが早く進み、最後の最後でも納得して終われると思います。
また動機に関しては森博嗣さんの書き方の癖ですが、決して納得のいく動機ではありません。
なので、動機に感情移入するといったこと発生しない、ある意味冷たい作品であるともいえます。
とはいえ、推理は見事でたったそれだけのヒントでその真相にたどり着く犀川は本当にカッコ良いです。
謎解きの解説(ネタバレあり)
ここから先はネタバレを含みますので、ネタバレが嫌な方はまとめの章まで飛んでください。
今回の殺人事件は大きく三つありました。三つとも密室というのが今回の「詩的私的ジャック」の謎でした。
第一と第二に関しては建築で使われる接着剤を使ってドアを固定するというトリックが真相でした。
このトリックに関しては割と中盤くらいで明らかになりました。
最後の第三の事件では二つの死体が一つの密室にあり、それは最後の最後に明らかになるという作りでした。
第3の事件であり最終の謎のトリックは、一言でいうと人間入れ替わりによる密室でした。
もう少し詳しいネタバレをしていきます。
第一発見者が密室の部屋に入ったら、死体があったというものだったのですが、この第一発見者として密室に入った人物が実は死体で、密室内に待機していた犯人と入れ替わっていたというのがトリックになります。
服を着ていない死体というのも実はこの入れ替わりトリックをカモフラージュするための伏線だったのです。
密室自体は建築の技術を使ったものであり、最終的には技術ではなく密室ではなく第一発見者と入れ替わるトリックが使われるという密室を囮にする大胆不敵なオチでした。
トリック自体は見たことのあるものや接着剤といった半分ズルいものでしたが、その分完全に盲点的な最終的なオチはなかなか良かったと思います。
普通のミステリーを読んできた人はみんな騙されるような作りになっていると感じます。
萌絵と犀川の恋愛模様(ネタバレあり)
大胆不敵なトリックの合間に見せる犀川と萌絵の恋愛模様もこの理系ミステリーシリーズ、森博嗣の真骨頂の一つです。
今回の「詩的私的ジャック」では二人の関係にさらに進展がありました。
一言で言えばほぼ婚約してしまったといってしまって良いと思うレベルになりました。
酔った勢いで萌絵が犀川に結婚を申し込んだのです。
酔った勢いとはいえ、確実な一歩であり、犀川もまんざらではない雰囲気でした。
かなりこれは進展だと思います。
萌絵自身も大学院に行くという決断をしましたし、犀川との仲がさらに深くなっていく予感がします。
このままゴールインのオチもちょっと楽しみになってきました。
まとめ
今回は「すべてがFになる」から始まる犀川理系シリーズの第4弾の「詩的私的ジャック」の紹介してきました。ミステリー小説選びの参考になっていれば嬉しいです。
森博嗣さんの理系シリーズの中でも文系と理系の雰囲気を混ぜながら、綺麗にまとめた新しさを感じる一冊でした。
驚きはやはり「すべてがFになる」には勝てないものの、シリーズが進むたびに万人受けする内容に進化しているのはすごいです。
密室好きという方にはぜひ、読んでいただきたい。
きっとこれまでの密室作品への考え方が変わるはずです。
では、見立てと密室がどうして行われるかを暴いた後でまた会いましょう。
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