小説の醍醐味は、「ありえない」というフィクションであることと言っても過言ではありません。
今回紹介する伊坂幸太郎さんの「夜の国のクーパー」はまさにフィクションを活かした一冊。
元々ファンタジー要素が強い中からの、驚きの展開と読後感の清涼さが売りでした。
この記事ではそんな「夜の国のクーパー」の書評と一部ネタバレありの内容要約を行なっていきます。
では、いってみましょう!
あらすじ
目を覚ますと見覚えのない土地の草むらで、縛られて身動きが取れないようになっていた。
仰向けの胸には灰色の猫が座っており、「ちょっと話を聞いて欲しいんだけど」と声をかけてくる。
猫が喋るなんてと驚きつつ、猫は話を続ける。
猫が住む国の物語、戦争によって支配者がやってきてからの物語。
その摩訶不思議な話に男は読者とともに、巻き込まれていく。
本書の概要
ページ数
解説含めず444ページ、全461ページ。
読むのにかかった時間
だいたい5時間半ほどで読み切ることができました。
構成
主に三つの視点で描かれる構成で、「私」と称される妻に不倫された男、「トム」という喋る猫、「ぼく」と称される国の代表に選ばれた男性。
この三つの視点が一人称で書かれています。
誰の視点で描かれているか分かり易いので、迷うことなく読むことが可能です。
書評(ネタバレなし)
めっちゃファンタジーだったんだ!というのが僕の正直な感想です。
伊坂幸太郎さんってたまにこういった、ファンタジー系描きますよね~。
イメージとしては「ガソリン生活」に近いものを感じました。
猫を主軸に話が展開する点が斬新なのに、スッと入ってくる文章や猫の表現がうまかったです。
最初は猫が喋るだけのファンタジーかと思いきや、徐々に摩訶不思議なことがわかってくるという展開も良かったと思います。
ミステリー要素がありつつ、国のピンチが徐々に迫ってくる書き方もワクワクを誘ってきてよかったです。
伊坂幸太郎さんらしい大逆転もあって、読後感スッキリ感も素晴らしいともいました。
ただ、伏線回収がすごくて鳥肌が!!!ってことがなかったのが残念でした。
ファンタジーミステリーという分野では非常に良くできた話で、物語の面白さや意外性もあったのですがどうしても驚愕が欲しい僕としてはイマイチな印象を持ってしまいました。
ファンタジーや猫が好きな方はきっと気にいると思います。
相変わらず、僕としては伊坂幸太郎さんの「ゴールデンスランバー」が一番好きですね。
おすすめ度
伊坂幸太郎さんの「夜の国のクーパー」のおすすめ度は、5点満点中3点です。
ごめんなさい、大好きな作家さんだからこそ、結構辛口。
伊坂幸太郎さんの作品ならやはり「ゴールデンスランバー」の方が僕としては100倍面白いと思っています。
なので、どうしてもそこと比較するとおすすめ度は下がるのです。
そのため、決して面白くないからではなく伊坂幸太郎さんの他の作品を優先させて欲しい。という意味合いで3点という評価。
「ゴールデンスランバー」を読んだことがある方は、今回紹介している「夜の国のクーパー」を楽しんでもいいかもしれないです。
要約・あらすじ(ネタバレあり)
ここからはネタバレを含みますので、ネタバレが嫌な方はまとめの章まで飛ぶようにしてください。
では、ネタバレありの要約、あらすじを紹介していきます。
縛られた状態で目覚めた、男。
彼の目の前にいたのは一匹の猫(トム)だった。
なんとその猫(トム)の喋っていることが理解できる男、猫も話が通じる人間に出会ったことに驚きつつ、自分たちの国の話を聞いて欲しいと話し始める。
猫(トム)が住む国にある日、鉄の国からの兵士がやってきた。
兵士は国王を馬という初めて見る動物に乗ってやってきて、銃と呼ばれる初めて見る武器で国王を撃ち殺した。
鉄の国が戦争に勝ったことにより、トムが住む国は支配される側になったのだと言い渡される。
困惑の中、誰も乗っていないと見れる馬が一頭やってくる。
一人でにやってきた馬を不審に思う鉄の国の兵士。
そんな中、一人の国民が「透明になったクーパーの兵士」がやってきたんだ。と騒ぎ出す。
トムが住む国にはクーパーの話が言い伝えとしてあった。
クーパーと呼ばれる杉の怪物が、年に一度暴れ出す。
その暴れる前に、国からクーパーの兵士を選出しクーパー退治に行くのが国の習わしだった。
そして、クーパーの兵士はクーパー退治した後はクーパーの体液によって透明になるというのだ。
透明ではなく単に死んでいるんだろうと思える話が実は後々貴重な情報になる。
鉄の国の兵士は、国民に家の中にいることを強要し、国民たちはますます動揺する。
そんな中、鉄の国の兵士が殺される事件が発生する。
鉄の国の兵隊長は、犯人を探すため国民の中からテキトーな人物をピックアップし、地下室へと監禁する。
トムもその人間たちの争いに巻き込まれる中、馬に飛び乗り国を飛び出すことになってしまう。
しばらく馬に乗って走ったところで、不倫された男に出会ったのだった。
男はトムの話を聞き、おおよその状況を把握した。
トムに拘束を解いてもらい、トムの住む国へ助っ人として出向くことにしたのだ。
道中、鉄の国の兵士の増援部隊にも出会し、いよいよ国が危ないことがわかるとトムだけ、猫だけでもいいから伝えるべく男だけ残して国に先に戻ることにした。(トムの声は人間の中でも男にしか聞こえない)
トムが国に戻ると、人間たちが騒いでいる。
話の中心地へと行くと、実は鉄の国の兵士と思われていた人物は、クーパーの兵士たちだったのだ。
顔を隠していたために正体がわかっていなかったが、クーパーの兵士が実は生きて国に戻ってきたのだった。
では、どうして鉄の国の兵士だと名乗って戻ってきたのか。
それは、国王を確実に殺すためだった。
実はクーパーの兵士の本当の役割は鉄の国への人材派遣で、クーパーなど真っ赤な嘘だったのだ。
兵長はそれを知りつつ、毎年鉄の国に人材を派遣していたが、実は鉄の国はそこまで人材に困ってもいないから交渉をして国からの人材派遣を無しにしてもらえないか国王に相談するように進言した。
しかし、国王は鉄の国の怒りに触れるのを恐れ、人材派遣を辞めることを進言しなかった。
このままではダメだと判断した兵長は、クーパーの兵士を密かに逃し、反撃のチャンスを待っていたのだ。
そして、鉄の国の兵士たちを襲い、身包みを剥がして今回国に帰ってきて国王を見事に打ち取ったのだった。
ちなみに、死んだ鉄の兵士というのは、身包みを剥いだ鉄の国の本物の兵士で、兵長たちを追ってきたので、兵長自身が殺していた。
鉄の国の増援は、クーパーの兵士たちが身包みを剥いだ情報を得てついに国を完全支配するべく動き出していたのだ。
増援たちが国につきそうになった時、トムによる合図がある。
不倫された男はその合図で鉄の国の増援たちの前に現れる。
鉄の国の兵士含め人間たちは驚く。
そう、男は超巨大なのだ(実は鉄の国含め、トムの国の人間たちはミニチュアサイズしかなかったのだ)
巨大な男に圧倒され、逃げ帰る兵士たち。
男はこんな自分でも役に立てるのだと気づいて、最終的に船を見つけ日本へと帰るために出発して物語は幕をとじる。
オチの解説(ネタバレあり)
ネタバレ続きます。
話のオチとしては、実はクーパーの兵士は人材派遣されるためのものだった。
最初に来ていた鉄の兵士は、クーパーの兵士たちだった。
男は日本人だったが、物語全般が全てミニチュアサイズの人間たちの争いだった。
というものでした。
非常にファンタジーなラストであったという印象で幕が閉じた物語でした。
男のみ普通の人間でその他の人間たちは、ミニチュアの小さな国の物語というわけ。
猫が喋るだけでもかなりファンタジーなのに、実は男以外ミニチュアサイズというのもこれまたファンタジー。
男は日本での生活と銘打っているために、なかなかサイズが異なるというオチを見つけるのは難しいと思われました。
ただ、実は男自身弱いのにも関わらず、鉄の国の兵士と戦おうとする時点でちょっとした違和感はあったのです。
サイズが異なるとは思いませんでしたが、僕自身読んでいるタイミングで何かあるな。と思っていました。
国の物語が実は全て小さなスケールで行われていたというのは、ある意味僕たちが生きる世界にも当てはまるようにも感じました。
日本という小さな島、地球という小さな星で僕たちは生きているに過ぎません。
実はもっと大きい存在が僕たちの争いや支配を見て笑っているかもしれませんね。
まとめ
ここからはネタバレないので、安心してください。
今回は、伊坂幸太郎さんの「夜の国のクーパー」を紹介してきました。
ファンタジー色強めながら読み易い、ミステリー要素も含んだ一冊。
正直、おすすめ度はそこまで高くないですが、確実に面白い一冊だと言えます。
気になる方はぜひチェックしてみてください。
では、皆さんの読書ライフがより良いものになることを祈っています。
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