刑務官と受刑者。
その関係から始まるトラブルたち。
その中に感動的なストーリーと不可解なミステリーが潜む。
今回紹介する城山真一さんの「看守の流儀」はまさにそういった短編ミステリーでした。
この記事では、「看守の流儀」の書評から、おすすめ度、一部ネタバレありの内容要約をやっていきます。
では、いってみましょう!
あらすじ
金沢の刑務所を舞台に、刑務官と受刑者たちが織りなす5つの事件。
仮出所した模範囚が失踪。
印刷所から入試問題が流出。
受刑者の健康診断記録とレントゲンフィルムの消失。
余命宣告を受けた受刑者の秘密。
出所後のお礼参り。
5つのストーリー全てに謎解き要素がありつつ、感動もある作品たち。
果たして、全てのなぞを解いた先に待つ驚きの真実とは。
先入観によって、僕たちは目隠しをされていることに気づくはず!
本書の概要
ページ数
解説含めず405ページ、全412ページでした。
読むのにかかった時間
だいたい5時間半ほどで読み切ることができました。
構成
5つのストーリーに分けられた短編集です。
ストーリーごとに注目される人物が異なりますが、同じ刑務所の話というところで登場人物は共通しています。
また、短編冒頭にはある人物の手記もあり小説全体の謎を含んだ作品となっています。
書評(ネタバレなし)
よくできた話だなぁ、短編は嫌いだけど。というのが僕の正直な感想です。
僕は短編が嫌いなのです。というのもせっかく盛り上がってきたところで終わっちゃうから。
ようやく登場人物が整理できて、謎を理解して解決の糸口が見えたら話が終わり。次の話が始めっちゃうのが頭の切り替えが多くて好きじゃないんですよ。
ただ「看守の流儀」そんな短編集嫌いの僕でも、楽しんで読むことができました。
その理由が、登場人物の一致と一冊を通して大きな謎があるということです。
登場人物が次の話などでチラッと出てきたり、話全体のキーマンが出てくるところが良かった。
あ、あの時のあの人だ!となる場面や人間模様が少しずつ変わっていくところ、さらにラストはこれまでのストーリーがあったからこその伏線回収という形。
短編集が嫌いな僕でも伏線回収や驚きの事実。というのを楽しむことができました。
短編のクオリティも高く、ミステリー要素としても感動的な要素としても良かった。
一つの話ではついついうるっとした場面もありました。
人間の心を描くのが上手いです。
またラストで判明する真実も、先入観があるからこそ気づけないまさかのもので、とてもよかった。
伏線回収や衝撃の結末系に慣れている僕でも、一本取られる形でした。
短編全てを読んだからこその驚きと、やられた。を味わえる作品だと思います。
おすすめ度
城山真一さんの「看守の流儀」のおすすめ度は5点満点中4点です。
短編嫌いでも読めますし、むしろ短編の方が読みやすい方にはぴったりの一冊だと思います。
とにかく短編のクオリティが高いのと、ラストでは衝撃がある。のが魅力で長編ばかりを読んできた方も楽しめる仕掛けがあるのが良いと思いました。
残念な点は、やはり短編であることによる登場人物への感情移入がしづらいという点。
もっと感情移入できる工夫があれば、ラストで涙をこぼすくらいまでいけたくらい潜在能力はあると思いました。
衝撃は小説全体を通して仕掛けられていたので、驚けた分、感動ももっとしたかったです。
それ以外はグロいシーンもなく、多くの方におすすめできると思います。
短編ミステリー好きの方はもちろん、短編が嫌いな方もぜひ読んでほしいです。
要約・あらすじ(ネタバレあり)
ここからはネタバレを含みますので、ネタバレが嫌な方はまとめの章まで飛ぶようにしてください。
では、ネタバレありの内容要約・あらすじを紹介していきます。
一つ一つの短編の内容を要約しながら紹介します。
まず一つ目ヨンピンというタイトルの作品。
仮出所した模範囚が突然失踪しました。
事件に巻き込まれたかもしくは事件を起こすべく行方をくらませたのかわからない中、刑務官の一人である宗片は捜索した。
その中で失踪した模範囚に渡されるはずだった手紙を発見し、差出人のないその手紙に書かれた電話番号に電話をかけた。
すると模範囚の恋人と判明、模範囚は事件なんて起こそうとするはずがない。早く見つけて恋人の連絡先を教えねばと宗片は考え実行した。
模範囚は無事見つかり、事件は幕を閉じた。恋人は実は宗片の上司の元妻で、上司はDVがひどいという事実が明らかになったラストだった。
続いて、Gとれと名付けられた物語。
刑務作業の一つとして受注を受けている印刷業。
そこで印刷した試験問題が漏洩したことが問題となった。
解決に尽力することになったのは刑務官・及川。どうやって試験問題を外に発信したのかがとにかく謎だった。
そんな中、刑務官の上司である火石のアドバイスを受け、囚人の一人が外壁から荷物を投げ入れてもらっていることを暴く。
外から荷物を投げ入れてもらって携帯を手に入れていたのだった。
そして、犯人が突き止められ、手口もわかり事件は幕を閉じた。
レッドゾーンというタイトルの物語。
健康診断記録とレントゲンフィルムが消失し、大切な情報を紛失したことを大事にしたくない刑務所はとにかく見つけることを刑務官・小田倉は命じられた。
刑務所内の派閥によって意図的にファイルを盗られたと疑いながら、調査を進める中で事件の真相に行き着く。
実は刑務所の主治医が、持病により目を患い、目を患っている間の健康診断の記録に誤りがないか別の医師に確認をしてもらうために健康診断記録とレントゲンフィルムを持ち出していたのだった。
主治医の気持ちを汲み取り、事件を大騒ぎしない形でまとめて終わった。
ガラ受けと名付けられた物語。
貝原という囚人が病院での診察を受け戻ってきた。病状は悪く残り3ヶ月の命とのこと。
担当刑務官である越田は、貝原を残りの時間を家族と過ごせるように手続きしようと考える。
しかし、頑なに貝原は拒む。何かを隠していると察した越田は貝原の家族と会いつつ、貝原が不倫をしていた相手にも会いにいく。
その中で不倫相手は実は元上司の娘という隠し子で、元上司に自分が死んだら娘の世話を頼むと言われていたのだった。
律儀な貝原はそれを守りつつ、生きてきたのだ。
隠し子という存在を最後まで隠すために、家族にも会いたくないと言っていたのだ。
真実を知った越田は、真実を貝原の家族に話し、どうにか再会させることができ、貝原も釈放され残りの人生を家族と過ごせるようにさせることができた。
お礼参りというタイトルの物語。
タイトルの通り、お礼参りをしようとしている人物の視点で話が進む(Aとする)
Aは出所したばかりで、元恋人に会いスマホをもらい生活拠点を決めたりした。
その中で、恨みを晴らすべき相手の情報を集めた。
また一人出所した男・牛切、実はこの牛切もまたお礼参りの前科があり、警察は出所と同時に監視をつけることにしていた。
しかし、Aの狙いは牛切で、牛切こそ命を狙われていることが判明する。
いざお礼参りが実行されるタイミングで、これまでの物語でちょいちょい出てきた、刑務官・火石が登場する。
火石の説得によりAは復讐をやめ、幕をとじる。
以上の5編の短編集が収録されている内容でした。
驚きポイント(ネタバレあり)
驚きポイントは最終章である「お礼参り」にありました。
まずは牛切が実は命を狙われている側だったというもの。
一人称で急に書かれていて、読者視点はすっかり一人称の人=牛切だと思っていたところに突然「狙うは牛切だ」という言葉が出てきて混乱します。
最初から二人の出所の人間がいたとわかり、牛切視点ではなくAという別の人の一人称だったと判明するのです。
続いての驚きポイントが火石が女だったということと、章の冒頭で出てくる三上という歌手がトランスジェンダーで女になった元男だったということ。
トランスジェンダーで女になったものの戸籍は男のままだったために、処置に困った刑務所が火石という女刑務官を特例的に異動させたというものだったのです。
ちょくちょく出ていた三上だけ特別扱いされた対応(お風呂は一人だけ)などはこういった理由からでした。
火石の何か隠された情報も実は女であったというもので、顔に傷という点から勝手に男であることを先入観として持っていた場合にひっかる仕掛けです。
僕はすっかり騙されて、先入観、勝手に男とか女とか判断している人間というのがよくわかりました。
まとめ
ここからはネタバレないので安心してください。
今回は城山真一さんの「看守の流儀」を紹介してきました。
短編集ながらクオリティが高く、最後の衝撃は小説全体を通した仕掛けというのが良かった作品でした。
こういった短編集があるから、たまに読む短編も良いものと感じます。
短編好きの方はぜひチェックしてみてください。
では、皆さんの読書ライフがより良いものになることを祈っています。
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