記憶を失ったらあなたはあなたではなくなりますか?
今回紹介する結城真一郎さんの「名もなき星の哀歌」はまさに記憶をテーマにしたミステリーです。
記憶を売買できる「店」で働く主人公が紡ぐ真実に驚愕する作品となっています。
かなり美しい作品にもなっていました。
この記事では、そんな「名もなき星の哀歌」の内容を一部ネタバレありで紹介していきます。
では、いってみましょう!
あらすじ
新卒銀行員の良平と漫画家志望の健太には裏稼業がある。
人の記憶を小瓶に入れて売買する「店」だ。
ノルマに追われながらも楽しい充実した日々を送る二人の前に、路上ライブで歌う星名と出会う。
彼女の過去と歌詞に秘められた謎、一家焼死事件の生き残り、迫り来る脅迫者。
絡まり合う幾多の謎が解ける時、美しくも残酷な真実が浮かび上がってくる。
果たしてあなたは、この物語を涙なくして読み切ることができるか。
本書の概要
ページ数
解説含めず529ページ、全537ページでした。
読むのにかかった時間
だいたい6時間半ほどで読み切ることができました。
構成
新卒銀行員の岸良平を主軸に置いた三人称視点の文章で構成されていました。
章に分かれていますが、話としては全てつながった長編ミステリーに分類されます。
文体は非常に読みやすく、現代人にぴったりな読みやすさだと感じました。
書評(ネタバレなし)
正直薄々勘づいていたけど、とにかくよくできた物語で好き!というのが僕の正直な感想です。
驚愕展開の部分は正直、多分そうだろうなと思っていた内容でした。
なので、ちょっとがっかりなところはありましたが、それでもよくできた物語で綺麗な作品だと思いました。
記憶をテーマにした内容としても見事で、感動もあり記憶って、思い出って大事だなと改めて思わせてくれます。
綺麗な作品。というのがよく似合うと思いますし、現代人の悩みがうまく組み込まれているのも感情移入しやすくて読みやすいと感じました。
記憶を売買するという面白い設定から、緻密にルールを組み上げて最後には驚きに持ってくるというミステリーとして見事に起承転結にまとめられているのも良かったです。
とにかく僕は好きな作品で、この作品が作者のデビュー作というので驚き。
このクオリティをデビュー作で書けるのですから、今後の多くの作品も期待できると思いました。
おすすめ度
結城真一郎さんの「名もなき星の哀歌」のおすすめ度は5点満点中4.5点です。
多くの人におすすめしたい一冊という評価。
先に言っておきます。僕個人としては最高の小説で5点の評価です。
ただ、ページ数が500ページを超えてくるので万人におすすめするのはちょっとという一点で点数を引いています。
そのため、基本的に物語に関しての評価は満点で面白かったです。
若干驚き部分が少なく予想できてしまう内容というのは残念ポイントではあるものの、終始面白く、どんどんのめり込める一冊だと思います。
記憶の売買という一見難しそうなルールもわかりやすく説明され、そこから事件に巻き込まれていく様子もマンガ、アニメを読んでいるような新鮮さと斬新さを感じることができました。
社会的なテーマも盛り込まれていてとにかく見事すぎる作品であるというのが僕の評価。
ページ数に抵抗がない方は絶対に読んで欲しい一冊です。
要約・あらすじ(ネタバレあり)
ここからはネタバレを含みますので、ネタバレが嫌な方はまとめの章まで飛ぶようにしてください。
では、ネタバレありの要約・あらすじをやっていきます。
大学を二年留年した良平の前に現れたのは、同じく二年留年をした健太だった。
漫画家を夢見る健太と良平は漫画好きで話が盛り上がり仲良くなっていった。
そんなある日、ジュンという怪しい人物の尾行に気づく二人はジュンから「店」で働かないかと誘われる。
記憶を売買するというその「店」に魅力を感じた二人は、働くことになる。
そして売買にも慣れ、良平は銀行員として就職、健太は漫画家を目指しながら「店」での生活を謳歌する。
そんな二人には「店」で働く際に課せられたノルマがあった、売り上げノルマの機嫌が迫る中、もしもノルマが達成されないと記憶を消されるとのこと。
「店」での記憶を無くしたくない良平は焦る。
焦る良平とは裏腹に健太は「店」の機能を使って人助けできないかと持ちかける。
このタイミングで何を言っているんだと思いつつも、協力することにする良平。
人助けのターゲットは今世間を賑わせている流浪の歌姫・星名だった。
女子大生がどうして毎日色々なところで路上ライブができるのか。星名の歌う歌詞に秘められているあの人を探してあげようということになる。
そして、星名に接触できるようになるも、すぐには真相はわからなかった。
星名はナイトと呼んでいた幼馴染を探しているとのことで、それ以上のことはわからない。
記憶の売買という技を駆使しながら、捜索を進めるもなかなか思うように成果が上がらない中、良平と健太、星名それぞれに脅迫文が送られてくる。
恐怖する中で、真実に近づいていると確信する三人はさらにナイトの正体に迫ることになる。
するとついに、星名の前に包丁を持った男が現れる。
なんとか良平の機転でその場を乗り切れたものの、犯人の目星もつかないし、そもそもナイトを調べることの何がいけないのかわからなくなる。
しかし、記憶移植ができるという情報をもとに、推理を巡らせることで、ついに良平が実は記憶移植をしていたことが判明する。
実は、ナイトとは良平の記憶を移植する前の姿で、「店」の人たちはそれを知りながらも観察の意味も込めて良平と健太をスカウトしたのだった。
さらに良平がナイトの正体を知ることで狂人になってしまうことを恐れ星名との接触を妨害していたこともわかる。
しかし、良平は記憶移植を行なったためナイトの記憶は全くない。
星名は一眼会った時から良平がナイトであることに勘付いていた。
星名は記憶移植のことを含め真実を知り、ナイトは死んだことにする記憶移植を依頼する。
記憶がなくなったら、その人物は死んだも同然。
その意思で記憶が書き換わり、良平は記憶を書き換えた星名を見つめることしかできなかった。
しかし、最後の最後で星名からの手紙に、漫画家になってアニメになったら私が歌を歌うからとの約束が書かれていた。
子供の頃に交わした約束。
今度こそ叶えようというその手紙を握り締め、そして星名はその約束が叶った時ナイトは実は生きていたという主人公が実は生きていた驚きを私にください。と綴られていた。
星名は一度区切りをつけて、またもう一度ナイト、良平に出会えることを信じているのだった。
記憶を消した意図の解説(ネタバレあり)
ネタバレ続きます。
ナイト、星名それぞれが行なった記憶移植。
どうして行なったのかという意図が一番の疑問になりそうだと感じたので、僕自身の解釈をここで解説します。
まず、ナイト。ナイトは漫画家になるべく奮闘していた中、大人からの裏切りを受けてしまいます。
星名との手紙のやり取りを親に握りつぶされたり、星名がテレビで実力では上回っているのに金の力で歌合戦で負けてしまったりと。
大人に、世間に絶望し自殺を考えた結果、漫画の知識は健太に、自分自身は完全に記憶から消そうと試みたのです。
実際願いは叶い、ナイトはこの世から消えました。(星名だけは覚えていました)
星名は、ナイトは良平の中から消えてしまったことを知り、自分の記憶からも消すことにしました。
これは、ナイトは死んだことにして、自分の心に整理をつけたい意図だと思います。
心の整理がつかないまま、ナイトを探し続けるより、一度死んだことにして歌に集中して天国の彼に向けて歌うというスタンスにしようという試みだと推察されます。
しかし、決してナイトを完全に心から無くそうというわけではありません。
ゆくゆくは良平の中のナイトが復活することを祈っており、その結果二人の夢であるナイトの漫画がアニメ化して、その歌を星名が歌う。というの信じているのです。
その時に良平の中のナイトを呼び起こして、実はナイトは生きていた。と告げてほしい。
主人公の実は生きていた。というのをやってほしい。という意味も込めて星名はナイトを死んだことにしたのだと思います。
また、ナイトの自殺が許せないから、同じことをしてやるという意味でもあるかもしれません。
ナイトは絶望、星名は希望。それぞれの対比で記憶移植をしたというのが僕の見解です。
まとめ
ここからはネタバレないので安心してください。
今回は、結城真一郎さんの「名もなき星の哀歌」を紹介してきました。
とにかく素晴らしい一冊で、デビュー作とは思えないクオリティ。
社会メッセージもあるのに、小説としても面白い、ミステリー要素も含んでいるのに感動できる。とにかくモリモリの一冊。
ページ数だけが500ページ越えとヘビーですが、ぜひ読んでみてください。
では、皆さんの読書ライフがより良いものになることを祈っています。