どうしても馬が合わない。犬猿の仲。
伊坂幸太郎さんの「シーソーモンスター」はまさにそんな犬猿の仲をテーマにしつつ、見事にエンターテインメントに落とし込んだ作品です。
「シーソーモンスター」は8作家が共通のテーマで書いた作品の伊坂幸太郎さんバージョンで、伊坂幸太郎さんの作品の真骨頂と絶妙は他の作品を意識した書き方が楽しめる内容でした。
この記事では「シーソーモンスター」のあらすじからページ数、一部ネタバレありの要約解説を行っていきます。
では、いってみましょう!

あらすじ

バブルに沸く昭和後期、一見平凡な家庭の北山家では、元諜報員(スパイ)の宮子と姑・セツの熾烈な争いが繰り広げられていた。
一方アナログに回帰した近未来、配達人の水戸は一通の手紙をきっかけに国家転覆の大事件に巻き込まれる。
因縁の相手である檜山に追われる形になり、それぞれの戦いが交差する。
時空を超えて繋がる二つの物語。
戦いはいつの時代も終わらない。だが、その結末はいつの時代も異なるもの。
今回のお話は果たしてハッピーエンドかバットエンドか?
本書の概要

ページ数
あとがき含めず457ページ、全470ページでした。
読むのにかかった時間
大体5時間ほどで読み切ることができました。
構成
一人称視点が基本で、登場人物へのフォーカスが頻繁に変わる文体でした。
物語としては昭和後期編と近未来編で完全に物語が分かれている構成でした。
長編が二つ繋がった形で、実は共通の登場人物がいます。
どちらの物語にも共通するのは海と山という昔ながらの因縁。
必ず敵対する運命にある二人が出てきた彼らを起点に物語が動き出す構成でした。
書評(ネタバレなし)

ズバリ、やはり伊坂幸太郎さん面白い!!というのが感想です。
もう完全に伊坂幸太郎さんに心を奪われている僕なので、あまり感想を言うと逆に嘘っぽく聞こえると思いますが、やはり読みやすくてテンポが良くてきっちりと伏線を回収してくれる安心感が素晴らしい。
「シーソーモンスター」も2篇に分かれてはいるものの、しっかりと話がつながっていることがわかりますし、最初の編で気になっていた部分が後半ですっきりと伏線回収してくれるのです。
最終的な伏線回収もやはり素晴らしい。鳥肌が立つレベルではないものの、納得のいく結果に落ち着くところがさすが伊坂幸太郎さんだと思います。
「シーソーモンスター」は8作家が集まって共通のルールのもとで物語をバラバラに描くと言う企画の一つなので、他の作品もぜひ読んでみたいと思いました。
僕の備忘録のためにも「シーソーモンスター」と同じ企画のもとで生まれた作品を一覧にしておきますね。
・「ウナノハテノガタ」大森兄弟
・「月人壮士」澤田瞳子
・「もののふの国」天野純希
・「蒼色の大地」薬丸岳
・「コイコワレ」乾ルカ
・「シーソーモンスター」伊坂幸太郎
・「死にがいを求めて生きるもの」朝井リョウ
・「天使も怪物も眠る夜」吉田 篤弘
全部読んだら見つかる伏線もありそうでワクワクですね。
おすすめ度

「シーソーモンスター」のおすすめ度は5点満点中4点です。
多くの人が読みやすいのはさすが伊坂幸太郎さんといったところで、文章のテンポや表現の仕方がとにかく伝わりやすいと思いました。
内容もグロテスクではないスカッと系なのも良かったと思います。
伏線好きの方も概ね満足できるのではないでしょうか。
もしかしたら期待したほどじゃない。って思っちゃうところは伊坂幸太郎さんの他作品と比べるとあるかもしれません。
僕の中で一番好きな伏線回収は「ゴールデン・スランバー」です。
広げた風呂敷を綺麗に畳む伊坂幸太郎さんの真骨頂を味わうにはちょうど良い作品だと思いますので、4点と高評価にしています。
ぜひとも読んでみてください。
要約・あらすじ(ネタバレあり)
ここからはネタバレを含みますので、ネタバレが嫌な方はまとめの章まで飛ぶようにしてください。

ではネタバレありの要約・あらすじからやっていきます。
第一部(昭和後期):
北山家の大黒柱の北山には悩みがあった。
それは妻である宮子と姑のセツの不仲だと言うこと。
今日も先輩社員に愚痴をこぼしていた。
北山は元々母親と別居をしていたわけだが、父親の死をきっかけに同居することになった。
最初は宮子と姑はうまくやっていけそうな雰囲気を出していたが、長いこと同じ空間にいると犬猿の仲であるのが明らかになってきた。
宮子自身も自覚しており、なぜかわからないが姑であるセツと一緒にいるとついつい、感情的に怒ってしまうのだ。
ある日保険屋がやってきてそんな二人に対して山と海の話をする。
山派と海派では昔から争いが絶えなかった。そして現代でもその血を引くもの同士は遺伝子レベルで剃りが合わず対立する関係になるとのことだった。
話半分で聞いていたものの、確かに宮子とセツの関係はただの嫁姑問題にしては我慢できない部分が多すぎた。
そんなある日、北山は事件に巻き込まれる。
担当していた医者がやっていた悪事を暴いてしまったのだ。
先輩社員も悪事を企てた張本人で、ヤクザまで巻き込んだ大所帯に命を狙われることになった。
北山はあっさり捕まってしまい、自殺を強要される。
宮子に手を出さないことを誓わせ、ついには自殺を実行するところに二人の人物が登場する。
仲の悪いと思われた宮子とセツだった。
実は二人は元諜報員でスパイだったのだ。
鮮やかに二人はヤクザや先輩社員をやっつけ、北山を救い出した。
そして、二人は話し合った末、旦那・息子を思う気持ちは同じだとし別居することを決める。
離れることこそが二人にはちょうどいいのだと。ただ時々は手紙なんかで話し合うことも決まった。

第二部(近未来):
近未来の世界ではメールではなく、ログが残らない手書きの手紙がブームになっていた。
水戸はそんな手書きの手紙を届ける配達人だった。
今日の一人新幹線に乗って手紙を届けようと移動していたところに突然男にこの手紙を渡して欲しいとの依頼を受ける。
勢いに任され依頼料も先払いされており、受けることになる。
昔の友人に手紙を届けるだけて終わりかと思いきや、友人である中尊寺に手紙を届けると「逃げるぞ」と言い出す。
わけもわからずついていくと、暴力的なニュースが世間を賑わしていることに気づく。
そして、その首謀者が中尊寺と水戸となっていたのだ。
これは人工知能の暴走で、人工知能を壊す力を持つ中尊寺を警察の手によって捕まえるための策略だった。
嘘のニュースをでっち上げることで警察を動かし、中尊寺が人工知能を壊すプログラムを手に入れるのを阻止するためだった。
中尊寺はその策略にいち早く気がつき、手紙の依頼をした友人の自殺を受け、人工知能破壊に動き出す。
水戸も中尊寺に巻き込まれる形で同行することになる。
同行する途中で、中尊寺と水戸を追う警察の中にかつての因縁の相手、檜山がいることを知る。
檜山とは犬猿の仲で、昔交通事故にあった時からの腐れ縁だった。
中尊寺と水戸はなんとか人工知能を壊すことができる一歩手前のところまで行くも、警察に捕まってしまうことになる。
さらに、水戸は檜山の手によって銃弾を頭にうけてしまう。
目は開いたままだが意識がない状態となってしまった水戸。
檜山はそんな水戸に不定期に見舞いに行く関係となった。
人工知能は結局止められず今も稼働を続けている。だが中尊寺は人工知能がいくら暴れても人間の感情までは動かせないから大丈夫だと語った。
かなりざっくりとしたあらすじなので、二つの物語の絡みや檜山と水戸のとんでもない過去とかはぜひとも本編を読んでみてください。
物語の後の予想(ネタバレあり)

物語では水戸は寝たきり、檜山は時々見舞いに行く程度。
最後の中尊寺からのアドバイスで、水戸の目を覗くようにするってだけ実行するかも?と言う形で完結していました。
その後のことを僕は考察したいと思います。
ズバリ、この後水戸は目を覚まし、自分のことを見舞っていた檜山のことを右目のカメラのログにより知ることになるとでしょう。
そして、仲良くまではならなくともこれまでの確執はなくなり、友人同士になれたのではないでしょうか。
山と海の関係だから永遠に対立関係だ。仲良くなんてならないとも思いますが、僕は二人の性格的には十分に友人関係になれると思うんです。
水戸は不貞腐れやすいものの、立ち直りが早い性格で、檜山はルールを重んじるタイプ。
水戸はこれまでの因縁を檜山が見舞ってくれていた事実だけで、良い印象に変わりうると思います。
檜山はルールを重んじるタイプで、仲良くされたら仲良くし返すべきと言う社会のルールに従うんじゃないかと思います。
そう考えると、二人が友人関係になる未来もあるんじゃないかと思えます。というかそう思いたい。
山だろうが海だろうが、争いの後にはしっかりとした友情が芽生えて欲しいと少年ジャンプ脳の僕は思うのです。
まとめ

ここからはネタバレないので安心してください。
今回は伊坂幸太郎さんの「シーソーモンスター」について紹介してきました。
やはり伊坂幸太郎さんの作品にハズレなし!今回も楽しく読み切ることができました。
伏線で震えないまでも、しっかりと伏線回収があってテンポの良い会話と話のワクワク感が素晴らしかったです。
ぜひとも、読んでください。
では、皆さんの読書ライフがより良いものになることを祈っています。

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