公安刑事の父、テロリスト志願者の息子
この一文だけで面白いのがわかる一冊、中山七里さんの「テロリストの家」を今回は紹介します。
設定から面白いのに、展開もあっと驚くもので面白い。
ずっと面白い一冊をこの記事では、一部ネタバレを含みながら紹介していきます。
では、いってみましょう!

あらすじ

平和ボケした日本人を震撼させるテロ事件が勃発。
中東の過激派組織「イスラム国」の極秘捜査をしていた公安部のエリート刑事・幣原。
幣原は突然、上司から自宅待機を命じられた。
そしてテロリストに志願したとして息子が逮捕されたのだった。
同じ家で暮らす息子、妻や娘からは息子を打ったと疑われ、マスコミが家族に群がり非難される。
心身ともに追い詰められる中、さらなる悲劇が襲う。
衝撃的な結末に、感動しながら社会に疑心が生まれる一冊。
まさに社会派ミステリー!
本書の概要

ページ数
解説含めず351ページ、全358ページでした。
読むのにかかった時間
大体4時間ほどで読み切ることができました。
構成
幣原の視点で三人称で描いた構成でした。
一部息子である秀樹の視点にもなりました。
書評(ネタバレなし)

終始面白いと思っていたら、衝撃展開からのまさかの結末で震えた!というのが僕の感想でした。
息子が捕まるまでのスピード感と父親としての絶望感や信頼のなさ、刑事として動く様子などとにかく面白い要素が盛り込まれている内容で、ドキドキしながら読み進めました。
さらに、そこに衝撃展開を挟むことで一気に話が進んでいく。
時間を忘れるほど没頭できる内容が割と序盤からあるというのが「テロリストの家」の特徴と言っても良いでしょう。
ラストも衝撃的ではありつつ納得できる形にまとめられているのも良かったです。
ずっと面白くて、最後にはちゃんとおぉと言わせるラストに持っていく。素晴らしい出来だと思います。
若干テロリストの心情に寄せている部分があったりするのは気になりましたが、テロリストは完全な悪であると断じている今の世の中に一石を投じるという意味ではこのくらいが良いのかもしれません。
おすすめ度

中山七里さんの「テロリストの家」おすすめ度は、5点満点中4点です。
多くの方におすすめしたい。という評価。
とにかく面白くてワクワクできる。という意味で高評価ではあります。
若干点数を落とした理由としては、やはりテロリストの思想に寄り添っている部分が、現在のテロリスト=悪には適さない考えだと思いました。
決して言っていることは間違いではないものの、ちょっと言い過ぎな部分があったので嫌な気持ちになる方もいそう。という点で点数を落としています。
また、父親目線で見るとかなり辛い内容になっている部分もありました。
描写がリアルで、父親を蔑ろにしている家族という構造がうまく表現されすぎているのです。
最終的にそれも伏線としてうまくまとめられてはいるのですが、胸糞悪いところとして受け取ってしまわれる可能性もありました。
面白いんですが、若干思想の癖があるというのが僕の評価です。
ただ、多くの方におすすめできることは間違い無いくらい面白いと思います。
要約・あらすじ(ネタバレあり)
ここからはネタバレを含みますので、ネタバレが嫌な方はまとめの章まで飛ぶようにしてください。

では、ネタバレありの内容要約、あらすじからやっていきます。
公安で働く幣原は、その身分を家族にも隠していました。
中東の過激派組織「イスラム国」の極秘捜査をしている中、ある日上司に自宅待機を命じられます。
身に覚えのない幣原が抗議をするも受け入れられず、結局自宅待機を受け入れることに。
すると次の日、公安刑事が家にやってくるのです。
そして、幣原の息子である秀樹をテロリスト志願者として逮捕して連れて行ってしまいました。
何が何だかわからない中、叫ぶ妻を抑える幣原。
娘である可奈絵からは息子を売ったと非難され、同じ刑事たちからは裏切り者扱い。
マスコミは秀樹とその家族を非難する報道を行い、どんどん追い込まれていく幣原一家。
秀樹は一時的に釈放され、幣原は公安に直談判することで幣原一人での監視とさせてもらうことに成功します。
外でも公安刑事、家でも公安刑事として息子を見張る生活が始まった次の日に、秀樹は幣原の目を盗んで家から脱走したのです。
急いで探す幣原に一本の電話が、秀樹が遺体となって見つかったのでした。
信じられない事態に妻も幣原も困惑。唯一良かったことはマスコミが秀樹の死で一時治ったこと。
息子がテロリスト志願をしていただけで、心がおかしくなっていたのに、さらに死んだとなり非常に不安定な心になる幣原。
息子の仇として殺した犯人を追う中、犯人は案外すぐに見つかりました。
テロリストに家族を殺された母親が犯人でした。犯人は見つけたものの怒りのぶつけ方がわからない幣原はただ捕まえて終わり。
これからはもっと家族を大切にしようと誓い、息子の私物を眺め感傷に浸っていると自宅の電話が鳴る。
娘の同級生からの電話で、娘がヒドラというあだ名で呼ばれていることを知り、全ての謎が解ける。
実は秀樹がテロリスト志願者として捕まった根拠になっていたのが、ヒドラというハンドルネームで書き込みを行なっていたことと志願者募集の会場に行っていたことだった。
幣原は推理を巡らせ、実は本当の志願者は娘・可奈絵であり秀樹はその事実を庇おうとしたのではないかと。
その事実を娘に問い、真実を知る。
娘は昔からいじめられてきており、誰も助けてはくれない世界に絶望していた。希望のない世界なら壊すしかない。
そう思い、書き込みやテロリスト志願を行ったとのこと。
それをいち早く知った兄・秀樹は、妹を守るために自分がテロリスト志願者としてアカウントを乗っ取り、会場へも足を運んだのだった。
全てを知った幣原は、息子の立派な考えと行動に感動するも、もうそこに息子の姿はなかった。
せめて、秀樹のやりたかった妹を守るという考えを尊重し、この事実は公安には伏せてこの先の人生を歩むことにするのだった。
結局どういうこと?(ネタバレあり)

ネタバレ続きます。
結局どういうことだったのかをここでは解説します。
結局のところ、テロリスト志願者は妹であったというものでした。
息子である秀樹は、妹がテロリスト志願したことを知り、下手に逃げるとテロリスト達に逆に狙われる恐れを考え自分がやったことにして丸く収める方向に持っていこうとしていたのです。
その考えを知らずに、上部だけのアカウント、志願会場への出入りで秀樹は捕まりました。
妹想いの良いやつというのが秀樹の本当の姿です。
また、世界に絶望したという娘の考えや息子、娘のためなら命なんて惜しくない行動をする妻に触発され幣原も成長した。というのがラストでした。
家族のためを第一にする姿。
実に感動的でした。
まとめ

ここからはネタバレないので安心してください。
今回は、中山七里さんの「テロリストの家」を紹介してきました。
思想強めではありましたが、小説として終始ドキドキの面白い内容でした。
テロリストと家族という相容れないようなテーマをうまく組み合わせた内容だと思います。
ぜひ、気になる方は一度手に取ってみてください。
では、皆さんの読書ライフがより良いものになることを祈っています。

