その可能性はすでに考えた。
不可解な事件を推理する面々を否定していく新感覚のミステリーが井上真偽さんの「その可能性はすでに考えた」です。
奇抜なアイデアから奇抜な発想、さらには奇抜な推理の否定。
何もかもが奇抜で新鮮なのに、面白い。
この記事ではそんな「その可能性はすでに考えた」の内容を一部ネタバレありで紹介します。
では、いってみましょう!

あらすじ

孤立した山村で起きたカルト宗教団体の斬首集団自殺。
唯一生き残った城女には、首を切られた少年が自分を抱えて運ぶ不可解な記憶があった。
首なし聖人伝説のごとき事件の真相とは?
探偵・上苙はその謎が奇蹟であると証明しようとする。
ロジックの面白さと奇蹟の存在を信じる斬新な探偵。
果たして、集団自殺の真実とは?本当にその真相は奇蹟なのか。
本の概要

ページ数
解説含めず384ページ、全391ページでした。
読むのにかかった時間
だいたい4時間半ほどで読み切ることができました。
構成
探偵・上苙を主人公とし、上苙に莫大なお金を貸し出しているフーリンという女性の視点で描かれる構成です。
中国語など聞きなれない難しい用語が使われる場面も多々ありました。
おすすめ度

井上真偽さんの「その可能性はすでに考えた」のおすすめ度は、5点満点中4点です。
多くの人におすすめできる一冊。という評価。
伏線がすごいとか、感動する。とかではなく斬新なミステリーである点で評価を上げている作品です。
探偵自身が最初にこの事件は奇蹟であると断言してから、始まり数々の推理を的確なロジックで否定していく作品。
とにかく新しいの一言につき、しかも推理一つ一つがどれも的を得ていて、答えじゃんと思うのですがしっかりと否定していくのです。
推理合戦とも言える作品で、ミステリーレベルとしては非常に高いと思います。
ただ、中国語や難しい言い回しや引用が多い部分が若干おすすめ度を下げています。
また、ロジックがかなり入り組んでいくので、整理しながら読むのに苦労したので、簡単にミステリーを楽しみたい方にはおすすめしません。
がっつり、本腰入れてミステリーをどっぷりと浸かりたい方にぴったりの一冊だと思います。
書評(ネタバレなし)

なんか、すげぇ。というのが僕の正直な感想です。
正直100%理解できたかというと微妙なところですが、雰囲気を味わうことは十分にできたと思います。
かなりロジックだったり、細かい言葉の言い回しでその推理は間違っているという言い方がされるので全てを理解するには5周くらい読まないとダメですね。
ただ、雰囲気を楽しみつつうまいこと否定しているんだなぁというレベルであれば十分にわかります。
学生の頃文章問題が苦手な僕としては、かなり難しい内容でしたが作者のやりたいこと、雰囲気非常に良かったです。
飽きさせない工夫もあって、ただ推理して推理を否定して終わりではなく毎回趣向を変えながら推理を否定していく様は面白く、ドキドキもしました。
登場人物や言葉に中国語などが絡んでくるのは、若干読みづらくそもそも感じが読めない場面もありました。
難しい言い回しや引用があったのも正直僕としては、要らなかったかなと思います。
それでなくても内容が難しいので表現だけでも、簡単にしてほしかったです。
少なくとも僕のような知能が高くない人にとってはそこだけでかなりお腹いっぱいでした。
とはいえ、トータル面白い作品ですし、斬新かつ新しいミステリーという位置付けで良かったです。
難しいロジックや用語が出てきますが、おすすめもできる良い作品だと思います。
ミステリーを数多く読んできた方に是非とも読んでほしいです。
要約・あらすじ(ネタバレあり)
ここからはネタバレを含みますので、ネタバレが嫌な方はまとめの章まで飛ぶようにしてください。

では、ネタバレありの内容要約・あらすじからやっていきます。
探偵である上苙のもとに依頼人がやってきます。
自分が体験した事件の謎を解いてほしいという依頼でした。
子供の頃、母親に連れられ孤立した山村のカルト宗教集団、そこで起こった集団自殺の謎を解いてほしいというもの。
当時子供だった彼女は、一人だけの生き残りでした。
ですが、彼女が目覚めると側には兄のように慕っていた少年の首と胴があり、彼女の記憶は一部曖昧。
彼女自身、足を怪我しており少年の首を切り落とすことは不可能、さらには朧げな記憶として誰かの首を持っていた記憶がある。
事件当時、山村は完全な密室状態で他の人たちは、外から鍵のかかった拝殿で斬首、教祖は焼身自殺。
少年の首を切断できたのは彼女だけだが、彼女には記憶はない。果たして彼女自身が罪を犯したのか。
探偵はこの事件を奇蹟だと言った。首を切った少年が首のない状態でしばらく動いて彼女を運んだというのだ。
あり得ないと断じるものが数名現れ、家畜を使ったトリックや発電機を使ったトリックなど出てくるが全てロジック的に否定する。
「その可能性はすでに考えた」
探偵はあらゆる可能性を考えた上で、奇蹟と言っていたのだ。
そんな中、最後に現れた人物によってこれまでのロジックの穴を指摘される。
その論理を否定するべく、全く新たな視点を手に入れる。
実は教祖はメンバーの首を切っていった張本人ではあったが、出入り口の土砂をダイナマイトでこじ開けようとした可能性だ。
この協力的な教祖という手がかりで、否定してきた人物は奇蹟の存在を認めつつあった。
しかし、探偵はこの手がかりで奇蹟ではないと気づいてしまう。
少年と教祖が協力したことによって、密室を作り少年の遺体が彼女の側に置かれた事情も説明できてしまうのだった。
また奇蹟に出会えなかったとがっかりする上苙ではあったが、事件の真相は相手を慮る感動的なトリックだったとどこか満足げであった。
結局どういうこと?(ネタバレあり)

ネタバレ続きます。
ここでは結局事件の真相はどういうものだったのか、改めて要約してご紹介・整理します。
まず、地震によって山村の滝、川が枯れてしまいます。おそらく滝の先の部分で土砂崩れが起こり水が来なくなってしまったのです。
教祖はその時点で外に出ようと試みますが、唯一の出入り口も土砂によって出られない。
なので、ダイナマイトを使って脱出を試みます。しかし結局土砂は取り除けず出られない状態でした。
依頼者はこの点を勘違いしており、ダイナマイトは信者を逃さないために教祖が出入り口を塞ぐためにやったことだと思っていました。
教祖はその後、皆に斬首自殺を語り出し、実行に移します。
少年はそのことを知り、少年と彼女だけは生き残るべきだと主張し、教祖はそれを認め食べ物を隠させたりしました。
実際に斬首の時間がやってきました。信者が殺されていく中、少年は母の手によって腹を刺されてしまいます。
腹に大きな穴を開けつつも、彼女を連れ立って拝殿を出て鍵を閉めます。
少年は彼女を滝の一部である祠に連れていき、寝かせます。そして自分の命が長くないことを知り、再度拝殿に戻り教祖にお願いをするのです。
彼女がこのまま目覚めても生きる希望がなくて死んでしまう。そうならないように自分が聖人として生き返る日まで待っててほしいと伝えたいと。
そのために、首を切り落として体と首を彼女の側においてほしいと。
教祖は少年のお願いを聞き入れ、ギロチンで少年の首を落とし、体と首を彼女のもとに置きました。
最後に教祖は簡単なトリックで拝殿に中から鍵をかけて、焼身自殺したのです。
首と体となっても彼女を運んだように見せることで、彼女は奇蹟の存在、聖人の存在、少年の優しさによって生きる希望を持つことができたという話でした。
まとめ

ここからはネタバレを含みませんので安心してください。
今回は、井上真偽さんの「その可能性はすでに考えた」を紹介してきました。
斬新なミステリーに感嘆しました。
ミステリーを数多く読んできた方には、特に刺さる内容ですので気になる方は是非チェックしていてください。
推理合戦の名にふさわしい内容を楽しんでください。
では、皆さんの読書ライフがより良いものになることを祈っています。

