家族想いをどう思いますか?
マザコンやファザコン、シスコン、と揶揄されることが多い中、子離れ親離れができていないなんて言葉もあります。
今回紹介するのは、そんな親子を一つのテーマにしたミステリー小説です。
芦沢央さんの「悪いものが、来ませんように」
子供を持つ親、持ちたいのに持てない親。そんなテーマとうまく絡めたミステリーとなっていました。
この記事ではそんな「悪いものが、来ませんように」を一部ネタバレありで内容を紹介していきます。
では、いってみましょう!
あらすじ
助産院に勤める紗英は、不妊と夫の浮気に悩んでいた。
彼女の唯一の拠り所は、子供の頃から最も近しい存在である奈津子だった。
そして、育児中の奈津子も、母やおっと、社会と馴染めず、紗英を心の支えにしていた。
そんな二人の関係が恐ろしい事件を呼ぶ。
紗英の夫が他殺として発見されたのだ。
「犯人」はすぐに逮捕されるものの、それをきっかけに二人の運命は大きく変わっていく。
果たして、犯人の正体とは。
本書の概要
ページ数
解説含めず292ページ、全299ページでした。
読むのにかかった時間
大体3時間半ほどで読み切ることができました。
構成
紗英と奈津子二人の視点を中心に据えた三人称の文体となっていました。
時々、事件後のインタビューを行なっている様子が描かれる構成で、わかりやすい話の進め方がされている構成でした。
書評(ネタバレなし)
驚きつつ良い意味で心が疲れる作品でした。というのが僕の感想です。
まず小説のトリックとして非常に面白さがある作品だと思います。
詳細はネタバレになるので後述しますが、とにかく素晴らしいトリックで矛盾が少なく驚きを持たせてくれると思いました。
ミステリーの事件の難易度としては低いものの、人の心をうまく描写しているのは素晴らしいと思います。
心が疲れるというのはまさにこの人の心をうまく表現できすぎているためです。
不妊の女性の描写がうますぎて、感情移入して辛くなる、イライラする。というのがよくわかります。
ミステリー要素以上に心の表現に驚かされた一冊だと僕は感じました。
逆にうますぎる表現なので、現在不妊に悩みを持っている方は余計に焦りを生み出したりしそうな気がしましたね。
感情移入をほどほどにしないと、かなり心にショックを受けてしまう作品だと思いました。
おすすめ度
芦沢央さんの「悪いものが、来ませんように」のおすすめ度は、5点満点中4点です。
多くの人におすすめはしたいけど、手放しではおすすめしない。という評価。
まず、驚けるトリックとしては素晴らしいと感じました。なので伏線回収がすごい系が好きな方にはおすすめできます。
感情表現も上手いので、感情移入して登場人物の人生を追体験したい方にもぴったりです。
ただ、感情移入しすぎると辛くなる。という面でおすすめ度を下げる印象でした。
うますぎる表現に心が傷ついてしまう場面もありそうだと思います。
なので、不妊系に敏感な方にはおすすめできないです。
文体も読みやすいと思うので、基本的には多くの人におすすめしたい一冊でした。
ページ数も少なめな方ですから、ぜひ不妊にセンシティブな印象を持っていない方は読んでみてください。
要約・あらすじ(ネタバレあり)
ここからはネタバレを含みますので、ネタバレが嫌な方はまとめの章まで飛ぶようにしてください。
では、ネタバレありの要約・あらすじをやっていきます。
紗英はなかなか子供ができず、さらに夫が不脇をしていることに悩んでいました。
そのことを話せるのは奈津子だけ。
なっちゃんと呼び、奈津子にだけは心のうちを全て吐き出せていました。
そんなある日、奈津子がいつものように紗英の家にご飯を作りに行こうとすると、窓から紗英と夫が子作りをしている場面に出くわしてしまいます。
さっと隠れてその様子を見ている奈津子。
そして、行為が終わった後も様子をしばらく見ている奈津子は、紗英が何か口論をしてから麦茶を作るまでの一部始終を目撃します。
その後、紗英は仕事に出かけ仕方なく奈津子は夫のご飯でも作ろうと家に入るのです。
夫が出迎え、流れで麦茶を飲んだタイミングで夫は倒れます。
そして息を引き取る夫。
奈津子は麦茶に毒が入っていたと推理し、どうにか紗英を庇うべく頭を働かせます。
ひとまず夫を山に隠すことを思いつく紗英はボランティア教室の車を借りたり、家の車を使ってなんとか隠すことに成功するのです。
それを知らない紗英は、急にいなくなった夫に驚き戸惑います。
もしかしたら浮気相手のところに行ったのかと思いながら、最後には行方不明者届を出しました。
警察からすぐに連絡が来て、夫が死んでいるのが発見されたとの連絡を受けます。
もうこれで夫の子供を産むことができないと嘆きながら、さらに奈津子が殺人で逮捕されたことを知り絶望します。
奈津子は麦茶に毒を入れ、夫に飲ませて埋めたと供述していたのです。
しかし、実は麦茶には蕎麦湯が使われただけで、実行していたのは紗英でした。
蕎麦アレルギーであることを利用したのを知らない奈津子は死体遺棄だけの罪に問われるはずであることを知る紗英でしたが、ついにそれを口に出すことはできません。
自分が夫との口論で腹が立って、麦茶に蕎麦湯を混ぜたこと、本当は自分の行為が夫を殺したこと。
胸の内に秘めながら、奈津子の過剰すぎる愛を感じることになります。
これが母親とそうじゃない自分との違いだなと。
叙述トリック解説(ネタバレあり)
ネタバレ続きます。
叙述トリックは言って仕舞えば簡単な、実は奈津子=紗英の母親。というものでした。
奈津子が紗英と同年代の親友的なポジションかと思いきや実は母親だったのです。
母親の過剰すぎる面倒見がテーマになった作品でした。
ところどころで、奈津子との仲が良すぎる点を気持ち悪いと指摘される場面があり、伏線でした。
また奈津子がずっと面倒を見ていた子供・梨里は奈津子の二人目の娘・鞠絵の子供で、奈津子の孫だったのです。
いかにも奈津子が紗英の相談に乗りながら子供の面倒を見ているのかと思いきや、実は孫の世話をしていたというものでした。
わざと誰の母親なのをぼかしたり、誰の夫なのか誰の父親なのかというのをぼかしたりする場面があり感の言い方なら気づいたかもしれません。
僕としてはなかなか良いトリックではあるかなと思いました。
トリックを知った上でも楽しめるよう、伏線やわざとこのトリックのために表現をぼかしているところがあるのがわかるのが良いと思います。
まとめ
ここからはネタバレないので安心してください。
今回は、芦沢央さんの「悪いものが、来ませんように」を紹介して来ました。
驚けるトリックと繊細な感情表現に驚かされた一冊でした。
センシティブすぎて逆におすすめできないという珍しい作品でもありましたが、ぜひ多くの方に読んで欲しいとも思います。
フィクションなので、ぜひ存分に楽しんでみてください。
では、皆さんの読書ライフがより良いものになることを祈っています。