イヤミスをご存知ですか?
ミステリーの中でもスッキリせずに後味が悪いミステリーのことをイヤミス(嫌な気持ちになるミステリーの略)と言います。
今回紹介する湊かなえさんの「告白」はそんなイヤミス界でも、一位二位に名前を連ねるほどいやーな気持ちにさせてくれる作品です。
とはいえ、僕としては最高に面白い内容でしたし、嫌な気持ちはある意味人間の真理をついているからこそだと思います。
この記事では、そんな「告白」について書評、一部ネタバレありよう要約あらすじ、オチについてのちょっと明るめの考察を行っていきます。
では、いってみましょう!
あらすじ
「愛美は死にました。しかし事故ではありません。このクラスの生徒に殺されたのです。」
我が子を校内で亡くした中学校の女性教師・森口悠子によるホームルームでの告白から物語は始まります。
森口教諭から語られた事件の真相は、二人の人物が娘・愛美を殺したという内容でした。
生徒Aは電気ショックを起こすポーチを作り愛美を気絶させ、生徒Bは気絶とは気づかず愛美をプールに放り投げ殺した。
森口は単に真実を警察に語るのではなく、二人の生徒に残酷で悲惨な復讐を行った。
復讐によって生まれた歪みがそれぞれの生活を崩していく。
果たして、二人の生徒は更生するのか?
森口の彼岸は叶うのか?
物議を呼ぶ衝撃ラストに絶句することだろう。
本書の概要
ページ数
文庫サイズでインタビュー記事を含めず、300ページ、全317ページでした。
読むのにかかった時間
だいたい3時間半ほどで読み切ることができました。
構成
全6章に分かれた物語になっています。
1章ずつ異なる語り手で、独白形式です。
会話はほとんどなく、一人ずつの視点で独白や日記ベースで進む物語の構成になっています。
書評(ネタバレなし)
イヤミス最高~が僕の一番の感想です。
1章目から心臓がキュッとするようなイヤミス感が漂う内容になっていて、終始嫌な気持ちになるミステリーに仕上がっていました。
復讐によって崩れていく生徒たちの様子が見事すぎました。
中学生というところで、残酷な演出になっているのも嫌な気持ちを引き出すポイントになっていたと感じます。
嫌な気持ちになると言っていますが、嫌な気持ち=ダメな小説、というわけではないのは注意が必要です。
むしろ嫌な気持ちになるってことはそれだけ、心に訴えるものがあると僕は考えています。
「告白」の場合も同様で、残酷な復讐で崩れていく生徒たちの精神は確かにみていて嫌な気持ちになりますが、同時に復讐のやり方を考えさせられたり、思春期特有の不安定な心というのがよく見えるのです。
子供だから…で済まされないことが起きた時僕たちはどうすればいいのか。
信じることだけが教育なのか、時には罰を与えるのも教育なのではないのか。
そして、罰とはどういったもので、反省とは更生とはなんなのか、考えるきっかけになる一冊だと感じました。
また、「告白」はタイトルの通り独白形式で物語が進みます。
なので、全ての章で語り手視点で書かれているのです。
つまり、全員がミステリーで言うところの「信頼できない語り手」になります。
誰が本当のことを言っていて、誰の言葉が真実で正義なのか、それを見極める良い機会にもなる一冊というのが僕の評価です。
いやなー気持ちになる分、考えさせられること、心が動く感じを味わえる素晴らしい小説だと思います。
おすすめ度
おすすめ度は5点満点中5点です。
前評判が良かったので期待して読みましたが、見事に期待に応えてくれました。
1章目から心惹かれて、終始真実がちょっとずつ明らかになり、右に左に心を動かされました。
イヤミスなので、嫌な気持ちにラストはなるかもしれませんが、こういうミステリーこそ多くの方に読んでもらって意見を交わし合いたいと思わせてくれます。
正しいも間違っているもない、小説の中、社会の中だからこそこういった一冊が必要だと思うのです。
この記事ではオチ考察で、嫌な気持ちを解消するオチ考察もしているので、ぜひ読み終わった後、僕のポジティブな解釈ものぞいてみてください。
文句なしで面白い、そんな一冊でした。
要約・あらすじ(ネタバレあり)
ここからはネタバレを含みますので、ネタバレが嫌な方はまとめの章まで飛ぶようにしてください。
ではネタバレありの要約・あらすじからやっていきます。
愛美の殺された流れは以下でした。
秘密裏にプールの裏から犬に餌をあげていた愛美に生徒A、生徒Bが話しかける。
愛美は生徒Aの口ぶりに乗っかり、電気ショック入りポシェットに引っかかって気絶してしまう。
生徒Aは自分の発明した電気ショック入りポシェットの性能に満足し、その場を立ち去る。
生徒Bは生徒Aの口車でやってきたので、愛美が死んでしまったと勘違いした。
愛美が死んでしまったことを誤魔化すために、プールに遺体を投げることを思いつく。
実は愛美は途中で目覚めるものの、生徒Bは生徒Aに言われた「失敗作」という言葉の腹いせとして愛美をプールに落とすことにします。
そして愛美は水死体として発見されました。
この一連の事件に対して、森口教諭が行った復讐は彼らの必ず飲む牛乳パックにHIVウイルスに感染した患者の血を混ぜるというものでした。
それを最後の最後に告白することで、生徒A、生徒Bは顔面蒼白になるという展開が1章でした。
そこからは生徒A、生徒Bの事件までの流れ、事件後、森口教諭の告白からの後日談が描かれていくのです。
生徒Bは森口教諭の告白後、怖くて学校に行けなくなり、引きこもりになってしまいました。
家族にHIVウイルスを飲まされたということも言えずに、だんだんとメンタルを落としていき最後には信じていた母親にも裏切られ母親を殺してしまうのです。
そして、生徒Bはメンタルを完全に壊し殺人罪を持ちながら精神病棟らしき場所に収容されることになりました。
生徒Aは離婚によって母親から離れてしまい、唯一母親から教えてもらった理科の知識を貪欲に貪っていました。
そんな中、母親に自分の発明を誉めてもらいたい、発明によって有名になれば会いにきてくれると考えるようになりました。
そして、発明品をどんどん作っていく中で危険であればあるほど人の目を引くと気づきました。
危険の中に人殺しが含まれており、生徒Aはついに森口教諭の娘である愛美に自作の電気ショックマシンを試したいと思うようになるのです。
生徒Bも巻き込み、証言者として丸め込みました。
しかし、結果は愛美は気絶しただけで、かなり落ち込みます。
その後、森口教諭によって復讐が行われ、HIVウイルスを口にしたとしても平然として学校に行きます。
生徒Aは自分が病気でも、母親が会ってくれる理由になるだろうと思うのです。
実は、森口教諭の復讐は失敗していたとここで明らかになります。
HIVウイルスは混入しておらず、生徒Aも生徒BもHIVウイルスなんて口に入れてなかったのです。
それに気がついた生徒Aは、再び事件を起こして母親に会いたいという気持ちが強くなります。
そして、ついには学校に爆弾を仕掛け、その一部始終をWebサイトにアップすることで、目標を遂げようとします。
爆弾のスイッチを入れた時、電話が鳴りました。
電話の相手は森口教諭。
森口は爆弾を別のところに仕掛けたといいます。
その場所は、生徒Aにとって非常に大事なものがあるところ。
森口教諭はようやく復讐を遂げることができたのです。
オチ考察(ネタバレあり)
生徒Aの爆弾を別のところ、生徒Aの母親がいるところに仕掛け直し、生徒Aの手によって爆発させるという残酷なラストというのが単純に物語を読んだ時のオチになっています。
生徒Aも救われず、森口も結局復讐を遂げてしまう(死んだ旦那に復讐はしないでくれと言われたのに)という救いがないので嫌な気持ちになるミステリーというのが「告白」の一見した内容になります。
しかし、僕はあえて、このラストが違うよ。という解釈を見つけました。
それが、「爆弾は完全に解除して、爆発自体起こっていない説」です。
信頼ならない語り手というのはミステリーの叙述トリックの王道の一つになります。
ずっと語っていた語り手が実は犯人だった、読者には秘密にしていた真実が実はあったというのが信頼ならない語り手の技です。
今回の「告白」はそんな信頼ならない語り手の一つの手法だという解釈になります。
つまり、語り手の言うことが全て真実とは限らないという解釈です。
そうなってくると、森口は最後の数行で語った、爆弾を別のところ(生徒Aの母の研究所)に仕掛けたというのも嘘と考えることができます。
「パトカーやサイレンの音が聞こえてきました」という表現もありましたが、実はこれサイレンが消防車であることや救急車であることなんて一言も言ってないんです。
単に爆弾を見つけたから処理して欲しいと言う通報をしただけかもしれませんし、音だけじゃ本当に爆弾が爆発した後のパトカーであるかは分かりません。
つまるところ、僕の実は爆弾は生徒Aの母のところで爆発したわけではない、爆発したと言うのは森口の嘘という解釈ができるのです。
森口は最後の最後で、死んだ愛美の父親の言葉通りに復讐をしなかった。
あえて、復讐をしないことで生徒たちの更生にかけた。そんな解釈を僕はしたいと思います。
この解釈をすると、イヤミスも実は違うという見方になるはずです。
皆さんは最後、爆弾はどうなったと思いますか?
まとめ
ここからはネタバレないので安心してください。
今回は、湊かなえさんの「告白」を紹介してきました。
イヤミスとして名高い本書は、確かに非常に嫌な気持ちになるミステリーであり、最高に面白いミステリー小説でした。
僕はシンプルなハッピーエンドよりも、「告白」のようなちょっと毒々しいラストや途中経過なんかが好きです。
1章目から惹きつけられる魅力があるので、ぜひ読んでみてください。
では、皆さんのイヤミス愛が深まることを祈っています。
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