騙されるってこういうことを言います。
どこまでもフェアなミステリーなのに、確実にラストには騙されてしまう作品。
今回紹介する倉知淳さんの「星降り山荘の殺人」はまさにそういった作品でした。
仕掛けがあると、帯にも書いてあるので細心の注意を払っていたのに見事に騙され、その仕掛けと伏線に鳥肌が立ちました。
この記事では、そんな「星降り山荘の殺人」の書評を行い、ネタバレを含む要約、解説をおこなっていきます。
では、いってみましょう!
あらすじ
雪に閉ざされた山荘を舞台に、UFO研究家、スターウォッチャー、売れっ子女性作家、クセの強い面々が集まった。
交通が遮断され、電気も電話も通じない完全なクローズドサークル。
そんなミステリーの王道的環境なら、殺人事件が起きるのももはや必然。
死体が一つ、また一つと増えていく。
果たして犯人は?容疑者は調査によって徐々に絞られていく。
そして華麗な推理を披露され、事件解決かと思った矢先、まさかの大どんでん返しが…
各章の冒頭に親切に内容の説明が行われている本作、読みやすく状況が整理されるための説明と思いきや?
決して騙されない!と読み始めれば読み始めるほど、騙される。
美しく、言葉を失う伏線を味わいたい方はぜひ、騙されずに読んでほしい。
雪山で起こる事件だけに、本当に背筋が凍る伏線回収が待っているから。
本書の概要
ページ数
新装版、文庫サイズにてあとがき含めず522ページ、全541ページです。
読むのにかかった時間
だいたい6時間ちょっとで読み切ることができました。
構成
和夫という社会人の視点で描かれる構成で、三人称で書かれています。
和夫はワトソン的位置付けとして話が展開されていきます。
「星降り山荘の殺人」の特徴として、章ごとに区切られていて章の冒頭に注釈があるのです。
”まず本編の主人公が登場する
主人公は語り手でありいわばワトソン役
つまり全ての情報を読者と共有する立場であり
事件の犯人では有り得ない”
と言った感じ。
この注釈があるおかげで読みやすさや話の展開を整理しやすくなっていました。
しかし、決して親切心だけで書かれているわけではないというのが最後にわかるというトリックの一つになっているのです。
書評(ネタバレなし)
結局騙されるんかい!というのが「星降り山荘の殺人」を読んだ1番の感想です。
帯に注釈に騙されるなという助言があったため、かなり疑って事件の内容だったり注釈部分にも注目しながら読み進めましたが、結局僕は作者である倉知淳さんに騙されました。
読み終えてから見直したら見事すぎる伏線、文句のつけようがない見事な大どんでん返しでした。
フェアじゃない!という声も一瞬出てきそうなギリギリっぽくも見えますが、決してアンフェアではなく、きっちり伏線が描かれています。
詳細は解説部で説明しますね。
あんまりいうとネタバレになるので、書評では詳細は伏せるとして、とにかく騙されないように読んでも騙されるほど見事な伏線回収と発想力ということです。
ミステリーの話の展開も王道という形で、読みやすかったです。
雪山に閉じ込められる点もやり尽くされている分、話を理解するのも容易で誰が殺されるかわからないスリルもあって面白いと感じました。
挿絵としてコテージや殺人事件の現場の図が描かれるので、言葉だけでなくしっかりと事件をイメージすることができる点もフェアな部分と読みやすさの両立ができていてよかった点です。
文体も綺麗で、余計な描写が少なく淡々と事件と書きたいことだけ書いていくスタイルで、500ページの長編とは思えないほどスッキリ読み切ることができました。
どこが騙そうとしているポイントだ?という目で読んでいてたらいつの間にか最後まで読み切れちゃった感じです。
ちょこっとラブもある点も良かったですかね?笑
トータルで見ると非常に良くできたミステリーと事件で、事件のトリック自体もしっかりと練り上げられたものだと思いました。
無理な話はひとつもなく、しっかりと容疑者を絞っていく展開も見事でした。
文句のつけようのない見事な事件推理と真実でした。
唯一気になるのは動機くらいですかね。
動機を重視したミステリーではないということだけ抑えておいていただければという感じです。
おすすめ度
「星降り山荘の殺人」のおすすめ度は、5点満点中3.5点です。
よくできた話で、大好きなどんでん返し系ではあるのですが、万人におすすめするかというと微妙なところ。
ミステリー小説をたくさん読んできた人ほど、騙される内容ですので万人というよりかはミステリー小説好きにこそ読んで欲しいです。
ミステリー小説を読んでこなかった方からすると、これのどこが大どんでん返しなの?となりかねません。
ある程度先入観を持って読んだ方が「星降り山荘の殺人」をより一層楽しむことができると思います。
要約・あらすじ(ネタバレあり)
ここからはネタバレを含みますので、ネタバレが嫌な方はまとめの章まで飛ぶようにしてください。
では、ネタバレありのあらすじ、要約から書いていきます。
まず登場人物の整理からです。
登場人物は以下の人たちが出てきました。
ワトソン役主人公:和夫
スターウォッチャー:星園
UFO研究家:嵯峨島
女性作家:あかね
あかねの秘書:麻子
コテージのオーナー:岩岸
岩岸の部下:財野
岩岸が連れてきた女子大生①:美樹子
岩岸が連れてきた女子大生②:ユミ
この中で1日目に殺されたのが岩岸、次の日に殺されたのが財野でした。
手口は二つとも鈍器で殴られた後に首を絞められるという絞殺で殺されていました。
岩岸が殺されたコテージへは足跡が残っており、犯人が一人であることが示されていて、さらにコテージ横にはUFOのミステリーサークルのような不可思議な跡が雪の上にあるという状態でした。
財野が殺されている場では、財野の絞殺に使われたのはロープではなく財野が持っていたズボンということがわかりました。
これらの特徴から、犯人を絞っていくと、なんと、和夫が犯人として名指しされてしまうのです。
その名指しをしたのは星園、和夫と星園はマネージャーとタレントという関係で、しかもこの事件中一緒に事件を調べていたワトソンとホームズの関係だったのにまさかの裏切り的な推理を披露します。
しかし、和夫は決して犯人ではなく、嘘もついていませんでした。
困惑する和夫を助けたのは、麻子でした。
麻子は星園の企みを全て暴き、ついに星園を真犯人として立証させてしまったのです。
星園は探偵に見えて実は、犯人だったというオチ。
探偵だからと安心していた読者を騙すという大どんでん返しになります。
そもそも星園が探偵役だ。なんて誰も言っていなかったのです。
こうして犯人は暴かれ、天気が回復したことによって救出隊が山荘に到着して、物語は終幕します。
麻子と和夫がちょっとだけいい雰囲気になって終わる、スッキリとした終わり方でした。
トリックなどについては、細かくなりすぎてしまうのでこの記事での要約ではご説明しませんのでぜひご自身の目で確かめてみてください。
解説(ネタバレあり)
犯人が星園だったという話をさらに深掘り、解説していきます。
「星降り山荘の殺人」の大どんでん返しポイントは、犯人は和夫!?からの実は星園でした。
章の頭に書かれている注釈で、
”まず本編の主人公が登場する
主人公は語り手でありいわばワトソン役
つまり全ての情報を読者と共有する立場であり
事件の犯人では有り得ない”
というのがあったのにも関わらず、和夫が犯人?
アンフェアだ!と思った矢先、実は推理を披露した一見探偵役に見える星園こそが真犯人だったという大どんでん返しになります。
和夫が犯人ではないのはなんとなくわかっていましたが、実は星園が犯人という伏線が事前に貼られていたのです。
前半、星園が登場してくる場面の注釈は次のようなものでした。
”和夫は早速新しい仕事に出かける
そこで本編の探偵役が登場する
探偵役が事件に介入するのは無論偶然であり
事件の犯人では有り得ない”
この注釈の後に星園が出てくるので、勝手に探偵役は星園だろうと思ってしまうのですが、実はこの注釈の後にもう一人出てきている人物がいるのです。
それが麻子。
最終的に星園という真犯人を言い当てた人物、そう探偵です。
注釈に嘘はありませんでした。
最初から星園が探偵なんて言っていないのです。
探偵は麻子なので、犯人ではもちろんありません。
星園がそれっぽく見えるようにミスリードさせる作者の仕掛けがポイント。
このポイントに気づいて、読み始めから麻子を探偵としてみていたという方はほとんどいないことでしょう。
注釈を完全に嘘だと断定していれば、星園や和夫が犯人である可能性はあるだろうなという推理はできても注釈は本当で、探偵=星園という部分を否定して推理できる人は読者にはほとんどいないと思います。
まさに見事な伏線です。
注釈は疑いつつも、実は真実を語っていた見事な騙し方でした。
まさにフェアなのに騙されてしまう、そんな作品にまとめ上げられていたわけです。
まとめ
ここからはネタバレないので安心してください。
今回は、倉知淳さんの「星降り山荘の殺人」について書評、要約、解説を行ってきました。
殺人事件のトリックは無難なものでしたが、小説全体に仕掛けられたトリックは非常に見事で伏線がすごい小説に名を連ねる理由がよくわかる作品でした。
王道のミステリーかと思いきやしっかりと驚きと伏線が貼ってある見事な一冊でした。
騙されない自信がある方はぜひ、読んでみてください。
騙されないと思っている人ほど騙されるそんな面白い作品でした。
では、皆さんが騙されないことを祈っています。
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