復讐が許されない現代日本。
そんな中、死刑を免れた家族が殺される事件が起こる…!?
今回紹介するのは中山七里さんの「ネメシスの使者」です。
相変わらず、考えさせられる社会の穴。今回は復讐と死刑と法律。
この記事では、そんな「ネメシスの使者」の書評から、一部ネタバレありの内容要約、解説をしていきます。
では、いってみましょう!
あらすじ
残虐な事件の犯人たち。
温情裁判官によって、死刑を免れた彼らは刑務所にいる。
そんな彼らの家族が次々に殺される事件が発生した。
現場に残っていたのは、ギリシア神話に登場する「義憤」の女神を意味する「ネメシス」という血文字。
事件は遺族による加害者家族への復讐なのか。
それとも司法に対する挑戦なのか。
司法システムと死刑制度を正面に取り上げた社会はミステリー。
果たして、犯人の本当の目的とは?
本書の概要
ページ数
解説含めず、362ページ、全366ページでした。
読むのにかかった時間
大体4時間半ほどで読み切ることができました。
構成
刑事・渡瀬と検事・岬の二つの視点が中心に置かれた三人称視点で描かれる構成です。
一部刑務所の犯罪者や別の視点も見せることで、事件の成り行きがよりわかるような工夫がありました。
書評(ネタバレなし)
ただでは終わらない!!が僕の「ネメシスの使者」を読んだ感想です。
犯人に行き着くのがシンプルだなぁ、と思ったら、実は…みたいな展開でかなり好みでした。
しかも伏線回収もすごい!
まさか最後のここに繋げるための発言だったのか…と思わせてくれました。
単純に犯人を捕まえたら終わりとさせないのが、さすが中山七里さんだと思いました。
また、取り上げる内容もまた良かったです。
死刑とは、処罰とは、復讐とは。
というテーマがかなり考えさせられます。
まさに社会派ミステリーといったところで、実際の社会にも適用できる悩みの種をうまく小説に落とし込めたいると思いました。
考えに完全に染まるということはないですが、こういう考え方もあるのか。という勉強にもなります。
思い話題や、かなり深い思想だったりするので、好き嫌いは別れてきそうです。
文体は読みやすいんですが、思想が強かったり思想の説明が難しい部分があるので、文章量は全体的に多かった。
ストーリーが面白く、どうやって犯人に行き着くのか?という謎によって一気に読めた感じです。
犯人を追い詰めるところも、ドキドキ感があって良かったと思います。
途中のストーリー以上にラストの怒涛の展開が僕はかなり好きでした。
ただでは終わらない、「ネメシスの使者」の本当の目的をぜひ読んでほしいです。
おすすめ度
「ネメシスの使者」のおすすめ度は、5点満点中4点です。
思想が強く、人によって好みは分かれそうということから、若干点数を落としています。
ストーリーや伏線回収、ラストの怒涛の展開を踏まえると満点です。
社会的メッセージが強い小説も嫌いじゃないという方には読んでほしいと思います。
逆に中学生以下くらいの方は、読むと性格が歪みそうな部分もあると思いました。
なので、万人には即おすすめはしないけど、多くの人に読んでほしい。という評価です。
伏線回収は本当に見事なので、伏線好きは読んでほしいと思います。
要約・あらすじ(ネタバレあり)
ここからはネタバレを含みますので、ネタバレが嫌な方はまとめの章まで飛ぶようにしてください。
では、ネタバレありの要約・あらすじからやっていきます。
まず第一の事件が起こります。
腹部を包丁で刺された遺体。失血死によって亡くなっていました。
その傍には「ネメシス」という血文字が残されていました。
刑事・渡瀬は、被害者のダイイングメッセージも疑いましたが、犯人のメッセージであると断定します。
「ネメシス」はギリシア神話の女神で、「義憤」(公平でないことに対する怒り)という意味を表します。
第一の事件の被害者の息子が、刑務所にいる人物だとわかり、もしかしたら「ネメシス」は復讐なのではないかと疑い始めます。
第一の事件の被害者・息子である軽部は、二人の少女を惨殺しており、死刑を求める声が多い中、懲役刑となっていました。
軽部に殺された遺族の復讐を疑い、話を聞くも恨みはあれど、殺したように見えない。
もしかしたら、復讐ではなく死刑になるべき人間が懲役刑はおかしいという法曹界へのテロではないのかと疑われ始めます。
そんな時に、第二の事件が発生するのです。
第二の事件は鉄パイプによる犯行で、これまた「ネメシス」の文字と、被害者の息子・二宮は、ストーカーの末にその相手を殺した人物でした。
連続殺人だと断定し、警察は奮闘するも現場に残っているのは「ネメシス」という文字と犯人は入念な準備をする人物だということくらい。
そんな中、誰かにつけられているという母子から警察に連絡が入る。
その母子の父親は、ホステスを殺した罪で収監されていた。
第三の被害者になる可能性もあると考えた警察は、母子を囮に「ネメシス」を捉えようと考えた。
そして、実際に母子は命を狙われ寸前のところで犯人を取り押さえることに成功する。
これで事件は解決するかに思われた。
「ネメシスの使者」と名乗る犯人は、全ての犯行を認め、無期懲役が言い渡される。
刑務所に場面は写り、「ネメシスの使者」は軽部にいじめを受けたりしていた。
そんな中「ネメシスの使者」には一人の友達ができる。
その友達にいじめが辛すぎるから、対抗手段としてナイフがほしいと頼む。
友達はなんとかナイフを調達し、「ネメシスの使者」に渡すと、友達は刺される。
「ネメシスの使者」はそもそも、その友達を殺すためにこれまでの事件を起こしたのだった。
全ては、友達・相良を殺すためだったのだ。
相良が殺した女性の元恋人である「ネメシスの使者」は、刑務所にいる相良を殺すにはどうすればいいかを考えた結果。
今回の事件によって自分が刑務所に捕まればいいのだと、思い立ったのだという。
さらに共犯もおり、確実に相良と同じ刑務所に入れるようにしてもらった。
これで全ての事件が解決したのだった。
本当の罰を解説(ネタバレあり)
死刑は極刑ではない。
という言葉が温情裁判官である渋沢から出ました。
死刑にしていれば、今回の事件は起きなかった。とも言える中、渋沢に死刑判決を下さない理由を聞いた時に返ってきた言葉です。
この言葉の意味は、死刑では生ぬるい。
懲役刑にすることで、じわじわと人間性を殺そうとしているのだ。とのこと。
ゾッとする話ですね。
死刑よりも懲役刑の方が、辛いだろうということから、死刑ではなく懲役刑を判決していたのです。
死では生ぬるい、本当の極刑とは永遠に刑務所に居させて、人間性を殺すこと。という考えを渋沢は持っていました。
温情に思えたことが、実は恨みたっぷりの判決だったというのは驚きの結末です。
伏線回収を解説(ネタバレあり)
伏線回収はかなり多かったです。
まず、視点。
渡瀬と岬の二つの視点以外に、囚人や刑務所で働く人の視点が描かれました。
これは、ラストにつながる伏線で、全員がしっかりと意味を持った視点でした。
刑務所で心を殺される視点、刑務所でのうのうと生きている相良の視点、「ネメシスの使者」の協力者の視点。
これらが話の深みを出すのではなく、事件を読者にわからせるための仕掛けだったのです。
どういった犯罪を犯した人がどの刑務所に収監されるという情報も、前半部分で出てきており、どの刑務所に収監されるのかを犯罪の重さによって別れているという伏線でした。
それを計算した「ネメシスの使者」は罪を犯したわけです。
また、「ネメシスの使者」があっさり捕まったのも実は伏線。
最初から刑務所で復讐を果たすための計算で、警察が警護する中現行犯で捕まるようにしたのでした。
不必要な描写が実は伏線で本当の目的や真実が隠されていた見事な伏線たちです。
他にも伏線を見つけた方はぜひ、コメントなどしていってください。
まとめ
ここからはネタバレないので、安心してください。
今回は、中山七里さんの「ネメシスの使者」を紹介してきました。
非常に良くできた話で、社会的メッセージも強かったです。
ストーリーも伏線回収もすごい内容で、僕の好みでした。
気になる方はぜひ、読んでみてください。
では、皆さんの読書ライフがより良いものになることを祈っています。
コメント