本当のことは誰にもわからない。
もしかしたら死刑囚には誰でも聞いたら同情する過去を持っているかもしれません。
今回紹介する早見和真さんの「イノセントデイズ」はまさにそんなミステリー小説です。
一人の少女が死刑囚にどうしてなってしまったのか。それを追った一冊。
苦しくも美しい内容をこの記事では、一部ネタバレありで紹介していきます。
では、いってみましょう!
あらすじ
田中幸乃、30歳。
元恋人の家に放火して妻と一歳の双子を殺めた罪で死刑が宣告された。
凶行の背景には何があったのか。物語は幸乃に関わった人たちの視点で描かれる。
報道とは全く異なる彼女の過去がどう歪んでしまったのか。
幼馴染の弁護士が再審を求めて紛争するも、彼女の意思は…
果たして幸乃は本当に罪を犯しているのか。彼女が隠すもの、秘めたる意思とは。
本書の概要
ページ数
解説含めず457ページ、全467ページ
読むのにかかった時間
大体5時間半ほどで読み切ることができました。
構成
プロローグから始まり、大きく判決前と判決後という二部構成になっておりエピローグで決着がつくという構成です。
それぞれの部で主人公である雪乃に関わった人物たちの三人称の書き方で、雪乃との関わりが描かれていく構成となっていました。
書評(ネタバレなし)
衝撃的ってそっちの意味なんだ!!というのが僕の一番の感想でした。
帯にも書かれている衝撃というのがなんなのか、どんな叙述トリックなのか?と疑いながら読んでいたのですが、まさかそういう意味での衝撃とは思わなかったです。
確かに衝撃というか、最後の方は終始でが震えて先に先にと手が止まりませんでした。
ハラハラドキドキしながら小説を読むのは久々でした。そして衝撃のラスト。堪りません。
よくできた話で、見事に感情移入して見事に衝撃的なラストに心が震えました。
一人の死刑囚の過去やこれからというシンプルなストーリーにどんどん食いつかせるのは文章のうまさとキャラクターの感情表現の旨さがあったと思います。
読みやすいのにも関わらず、しっかりと人間の感情の豊かさや複雑な気持ちを表現しているのです。
それによってほぼ確実に登場人物たちに感情移入していって最後には衝撃的なラストで心を震わせる。
まさに見事としか言えない一冊だと僕は思いました。
おすすめ度
早見和真さんの「イノセントデイズ」おすすめ度は、5点満点中4.5点です。
非常に良い一冊で、一人でも多くの人に読んでほしいと思いました。
満点ではない理由としては、多くの人にとってラストが好きになれないかなと思ったからです。
僕は多少バットエンドでも衝撃的なラストだったりする方が好きなので、「イノセントデイズ」にしてもラストがかなり好きな部類です。(決して「イノセントデイズ」がバットエンドとは言っていません)
ですが、万人が手放しで喜べるラストではない点でおすすめ度を若干下げています。
とはいえ、非常に良くできた起承転結の物語とラストの衝撃。
ぜひ、読んでほしいです。
要約・あらすじ(ネタバレあり)
ここからはネタバレを含みますので、ネタバレが嫌な方はまとめの章まで飛ぶようにしてください。
では、ネタバレありの内容要約・あらすじからやっていきます。
田中幸乃、30歳は元恋人をつけ回し、最後には家に放火し元恋人の妻と双子の子供を殺した罪で、死刑が宣告されました。
幸乃の死刑申告を知った人物たちはそれぞれ、幸乃のことを思い出します。
幸乃の母親を知る医師は、幸乃を生まれた時のことを思い出しました。
報道では覚悟のない母、とされていましたが、実は幸乃の母は覚悟を持って幸乃を産んでおりその覚悟の強さに医師は心が変わったりしていたのです。
さらに子供の頃は、血のつながらない父と姉と、母、幸乃は楽しく生活をしていました。
しかし、ある日母の悪い噂が流れ、ついには母は事故死してしまうのです。
そこで幸せは崩れ、さらには父のたった一回の暴力が露呈し、幸乃は唯一の肉親である祖母に引き取られ離れ離れとなってしまいます。
その時に出会ったのが翔と慎一でした。
さらに幸乃の中学時代を思い出すのは理子。
理子はかつての親友である幸乃を報道によって思い出していました。
幸乃はハブられていた関係で公に仲が良いとは言えませんでしたが、自分の悩みなどを話せる存在として幸乃と理子は仲良しでした。
そんなある日、理子は友達にお金をせびられるようになり、ついにレジのお金を盗むという暴挙に出ようとするのです。
そこを女性の店員に見つかり、焦った理子は店員を突き飛ばします。大怪我をしてしまった店員。
強盗及び傷害罪となってしまうことにパニックになる理子は、幸乃に頼みます。「罪を被ってくれ未成年だから重い罪にはならないから」と
そして幸乃は公の罪を初めて人生につけることになるのです。
事件の当日までの幸乃を知る人物は、幸乃の恋人であった敬介の親友・聡でした。
聡は敬介のパチンコ依存症、幸乃への暴力を知りつつも温かく見守っていました。
そんなある日、一方的に敬介が幸乃を捨てたことを知り問い詰めますが、結局別れることになったことを知ります。
せめて、幸乃に自殺をさせないために敬介に幸乃とは会わないようにアドバイスするも、結局は居場所がバレてしまう。
幸乃は敬介の居場所を突き止め、後を追いました。そして目の前が真っ白になり、放火事件へとつながるのでした。
刑が決まってからの、慎一と翔の視点で事件の真相へと迫る場面に切り替わります。
慎一と翔は別角度から事件を見ていて、翔はなんとかして幸乃を反省させて更生させることを。慎一は幸乃の無実を信じていました。
最終的に慎一が幸乃の無実である真実に辿り着き、これで幸乃を救えると思ったところで新一の視点は終了します。
エピローグでは幸乃の死刑が執行される場面になります。
看守である女性の視点で描かれるエピローグでは、看守の女性はもしかしたら幸乃は無実かもしれないと思っていました。
なので、どうにか死刑執行を遅らせようと試みるも失敗し、結局は幸乃は死刑が執行されてこの世を去ってしまうのです。
そう、慎一の真相への言及は結局は間に合わずに物語は幸乃の死と共に幕を下ろすのでした。
ラストの意味を考察(ネタバレあり)
ここではネタバレありでラストの意味について考察していきます。
ラストは結局幸乃は冤罪のまま死んでしまうという話でした。
これだけ聞くとかなりのバットエンドというふうに感じるかもしれません。
ただそれは、「幸乃に生きてほしい」という気持ちを持っている場合です。
別の視点として「幸乃が幸せになってほしい」という気持ちで見るとその解釈は変わってきます。
幸乃は人生を終わらせたいと常々思っていました。
唯一の楽しかった小学生の頃の思い出に浸るのだけが生き甲斐で、とにかく死にたい。というのが彼女の望みでした。
誰かに依存し続けていた幸乃の唯一の希望であるのが「死にたい」というものです。
ただ死にたいが、自殺することは怖くてできない。その葛藤の中で見つけたのが冤罪による死刑を受け入れるということでした。
つまりは、死刑はある意味幸乃の願いを叶える唯一のチャンスとも捉えられます。
ですから、幸乃が死ぬラストはある意味幸乃の自分自身の意思が現実となった幸せなことであるとも捉えることができるのです。
もちろん、僕自身も幸乃が死ぬことはバットエンドではあると思いますが、こういう見方もできるという話でした。
ちなみに、幸乃が興奮すると気絶してしまう体質が描かれていたのは、伏線だと思っています。
気絶する際に毎回幸せそうな顔をする幸乃にとって、永遠の気絶=死ぬことは幸せなことであるという見方ができると思うのです。
もちろん、物語の中で言及されているわけではない僕の考察なので悪しからず。
まとめ
ここからはネタバレないので、安心してください。
今回は早見和真さんの「イノセントデイズ」を紹介してきました。
感情移入すればするほど衝撃になっていくミステリーで僕はかなり好きでした。
気になる方はぜひ、覚悟を持って読んでみてください。
では、皆さんの読書ライフがより良いものになることを祈っています。