警察も弁護士も頼れないとき、家族を守るためにあなたならどんな選択をしますか?
17歳の主人公・櫛森秀一の苦悩と完全犯罪の倒叙推理小説
今回紹介する貴志祐介さんの「青の炎」は感情移入すればするほど、読むのが辛い一冊になっています。
ここまで犯罪者の気持ちになって苦悩と後悔、ハラハラできる小説は中々ありません。
この記事では、そんな心が疲れるとんでもないミステリーのあらすじからページ数、書評、ネタバレありの内容解説を実施します。
では、行ってみましょう!
あらすじ
湘南の高校に通う主人公・櫛森秀一。
秀一は女手一つで家計を担う母と、素直で明るい妹との三人暮らしだった。
そんな平和な家庭を踏みにじる男・曾根(そね)が現れた。
10年前に離婚したはずの曾根は、無理やり秀一の家に居座り、母の体のみならず妹にまで手を出そうとしていた。
警察も、法律も、弁護士も、家族の幸せを取り返してはくれない。
秀一は決意をする。
誰も助けてくれないなら、自分が家族を守るのだと。
自分が曾根を殺し、幸せな三人の暮らしを取り戻すのだと。
そして、秀一は絶対にバレない完全犯罪の方法を考え始める。
果たして、秀一は平和な毎日を取り戻すことができるのか。
秀一に待ち受ける悲しく切ない最後とは。。
本書の概要
ページ数
あとがき・解説含めず487ページ、全495ページです。
読むのにかかった時間
だいたい5時間半ほどで読み切ることができました。
構成
秀一視点でありつつ、三人称で書かれた文章になっています。
倒叙推理ものに分類される構成で、犯人サイドで描かれています。
書評(ネタバレなし)
殺人ってやっぱりダメだけど、秀一の気持ちがわかりすぎてつらすぎる。というのが感想です。
秀一に感情移入しちゃうともう辛すぎて、心が疲れる内容だったと言い換えてもいいでしょう。
人間味あふれ、感情に振り回される秀一の様子は心に響きます。
犯人サイドの物語でありながら、ここまで犯人側を応援することは少ないと思います。
完全犯罪、バレるな、警察見逃せ!とページをめくるたびに願っていました。
最終的にはバレてしまうのが推理小説の王道とわかっていながらも、応援しちゃう。
もしかしたら、秀一だけはこれまでの犯人とは違って見逃してもらえるのでは!?と感じてしまうのです。
そして最終的な秀一の最後を読むと本当にもう辛かった。
驚きのあるラストではなかったですが、心を揺さぶられるには十分すぎる内容でした。
やっぱり犯罪はダメだし、もっと人に相談することが大事なんだなとつくづく思いました。
殺人を犯す側の心の動きや変化を仮想体験できる内容です。
倒叙推理と呼ばれる、普通の推理小説のように事件が起こってから犯人を暴いていくスタイルではなく、犯人が事件を起こしていく書き方になっています。
実にこのスタイルに合った内容になっていて、感情移入必至です。
むしろ感情移入しすぎちゃう人は読むのを気をつけてください。
自分が犯罪者になった気持ちになっちゃいますから。。。
おすすめ度
貴志祐介さんの「青の炎」おすすめ度は星3.5です。(星5満点中)
犯人サイドとしての読み物としては面白いと思います。
ミステリーとしてトリックや驚きがほしいという方には、満足できない部分があると思ったので点数を落としている形です。
小説には感情の動きや価値観が変わるものを求めている、という方にはぴったりの本で、逆に小説にはトリック、驚き、ロジックを求める方は向いていない本だと思います。
高校生が主人公ということもあり、テンポの良い会話などは評価が高いです。
ぜひとも、一度お手に取るか検討してみてください。
あらすじ・要約(ネタバレあり)
ここからはネタバレを含みますので、ネタバレが嫌な方はまとめの章まで飛ぶようにしてください。
では、ネタバレありのあらすじ・要約からやっていきます。
秀一は家族三人暮らしていましたが、その生活をぶち壊す曾根がある日突然やってきました(物語開始直後からすでに曾根は居座っている)
曾根は10年前秀一の母と再婚し、すぐに別れた夫でした。
元夫であることもあり、母は曾根を追い出すことができずにいました。
秀一は弁護士に曾根をどうにかできないか相談をしますが、母が曾根を追い出すことに同意しないと何もできないとのことです。
秀一はなんとか、母を説得しようと試みますが、実は妹は曾根の連れ子であり、戸籍もまだ曾根の娘となっていました。
母はなんとかして、曾根から妹の戸籍を自分のところに移したい、そう考えていたため曾根との確執が生まれないようにのらりくらりと時間を過ぎるのを待っていました。
秀一はそれを知ってもなお、苦しんでいる母や曾根の動きにビクついている妹を見てられず、曾根を完全犯罪にて殺すことを決意します。
色々考え、最終的に電気ショックを利用して曾根を殺すことにした秀一、授業中に抜け出すことでアリバイを確保しつつ、実際に行動に移すことにしました。
ハプニングはありつつも、なんとかやり通した秀一。
警察の目も誤魔化すことができ、曾根は心臓麻痺で亡くなったことになりました。
これで一安心と思いきや、アリバイ工作が秀一の元親友・石岡にバレてしまっていました。
石岡は秀一が隠した曾根を殺した道具を掘り出し、脅しの材料にして秀一にお金を要求しました。
いつまでも続くであろう脅迫であったため、秀一は石岡も殺すことにしました。
石岡を言葉巧みに、自分がバイトしている深夜のコンビニへ強盗として現れるように仕向けます。
そして、強盗と揉み合ううちに偶然ナイフが刺さってしまったという筋書きを作り上げ、石岡も殺すことに成功します。
ちょっと無理があった方法はほころび、警察が怪しい目で秀一を追い詰めて始めるのです。
1週間、2週間と時間は過ぎる中で秀一の感情は浮き沈み、全く安心も安定もしませんでした。
そして、ついに警察が秀一を重要参考人として呼び出し、追い詰めます。
警察は、曾根の殺人、石岡の殺人、全てを看破しました。
しかし、あと一歩、物的証拠がない。
秀一も自白を望んでいる警察の様子から、物的証拠がなければ逃げ切れると考えます。
ですが、もう秀一の心は疲れていました。
自分の犯行を隠すのに口裏をあわせることなく協力してくれた、友達、恋人の存在を思い、秀一はある決断をします。
真実を明るみに出さずに、家族も友達も守れるそんな道を秀一は選ぶのでした。
結末はぜひとも、本編で読んでみてください。
解説・主人公の心情(ネタバレあり)
解説部では主人公の心情にフォーカスして解説・考察していきます。
秀一はちょっと優秀な普通の高校生でした。
色々考えた末に曾根を殺し、最終的にはバレるものの一時的に完全犯罪を成立させます。
秀一の気持ちはこれで最高のものになりました。
しかし、石岡の存在で気持ちがまた沈み、また一度ひとを殺しているから、二人目も殺せると思ってしまったのです。
僕はここが秀一の一番の過ちだと思いました。
殺人鬼的考えになってしまったのが秀一の一番の失敗です。
作者はあえて、人が変わる様として描いていたわけですが、ここさえうまく乗り越えられる冷静な心さえ持っていれば秀一があんな最後になることはありませんでした。
おそらく、秀一の心がすぐに石岡を殺すことになったのは、以下の理由があったんだと思います。
・殺人に慣れてしまった
・曾根が実は癌で余命あと少しだったこと
殺人に慣れてしまったというのは、一人を殺すことで殺すというハードルが下がったことによるものです。
曾根が実は癌だったという事実は、秀一の心をかなり抉ったのではないかと僕は推察します。
殺さなくても、勝手に死んでくれた、もう少し我慢していれば平和が自然と訪れたという後悔が秀一から冷静な判断力を奪ってしまったのです。
そのため、もともと親友であった石岡を殺し、さらには自身の完全犯罪がバレてしまうという結末にまでなってしまいました。
殺人を助長するわけではありませんし、賛成も決してしませんが、秀一ならもっとうまく石岡を片付けられたり、説き伏せられたと思うんです。
秀一に感情移入し過ぎるからこそこんな感想になりました。
小説なんだから、犯人の犯行がバレるのは当たり前ですが、こんなふうに考えるとまた小説が面白くなってきますよね。
まとめ
ここからはネタバレないので、安心してください。
今回は、貴志祐介さんの「青の炎」について紹介してきました。
犯人サイドの倒叙推理小説面白いですね~
主人公が高校生で感情移入しやすいってのも非常に良いポイントでした。
主人公頭良過ぎるだろ!や行動力ありすぎ!問題はありますが、フィクションとして非常に面白かったです。
完全犯罪のトリックも現実味を帯びていて、リアルさが出ていて良かったと思いました。
感情移入し過ぎる方はラストが非常に辛いので、気をつけて読んでくださいね。
では、皆さんの小説ライフがより良いものになることを祈っています。
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