挿絵が謎を解く鍵となっている短編。
最後の最後に背筋に冷たいものがツーッと通る感覚が味わえるミステリー小説です。
今回は道尾秀介さんの「いけない」をご紹介します。
短編集なのにも関わらず、しっかりと伏線回収とゾッとする結末を持っている非常に面白い作品でした。
この記事では、内容の紹介と書評の後に、一部ネタバレありの解説をやっていきます。
では、いってみましょう!
あらすじ
弓投げの崖は決して見てはいけない。
自殺の名所と知られる弓投げの崖がある街のお話。
3人の視点で書かれた本書は、最後の1ページに一枚の写真が挿入されている。
その写真がこれまで見てきた物語をひっくり返す意味を持つのです。
短編集と侮るなかれ、全てが計算された結末で、写真の意味に絶句すること間違いなし。
あなたは、写真の本当の意味に気づけるか?
背筋が凍る真相を読む勇気がないなら、決してこの一冊を読んでは”いけない”
本書の概要
ページ数
文庫本サイズで、全270ページでした。
読むのにかかった時間
テンポの良い展開でわかりやすく、だいたい3時間くらいで読み切ることができました。
構成
主な短編が3編載っています。
それぞれ主人公の視点は変わるものの、同じ街かつ時系列がつながっているという作品になっていますので、短編でありながらも長編とも言える作品です。
全て三人称で書かれていて、きちんと状況説明や感情が読み取れるか書き方になっていました。
最後の1ページに挿入された写真の意味もきっちりとあって、本当にこれまでの短編の内容をひっくり返される感覚を味わえます。
書評(ネタバレなし)
すげぇの一言しか出てこない作品でした。
最後の写真で、読んでいた内容がひっくり返る感覚は初めて体験するものでした。
挿絵をこんな使い方をするなんて、これまで見たことがありません。
斬新かつ面白い作品で、短編嫌いな僕ですら「いけない」は最高に楽しむことができました。
短編の主人公たちが実は繋がっているという展開も実に面白かったですし、短編一つ一つのクオリティも高いんです。
第1章では、最後は誰が死んだのか。
第2章では、事件のオチはどうなったのか。
第3章では、事件の真相はどうなったのか。
これらを意識すると最高に楽しめると思います。
これらが短編の内容と最後の1ページを読むことで、一気に推理できるようになるのです。
短編と1ページの挿絵によって謎が全て解決するという形で、気づいたときはひらめく感覚と共にすげぇの一言が出くるはずです。
これまで読んだことのないミステリー小説で、是非皆さんにも読んで欲しい作品になります。
ミステリーはワンパターンで面白くないんだよなぁというミステリーにマンネリしつつある方にぜひ読んでほしいです。
「いけない」は独特な雰囲気を持ちつつ、最後に伏線が回収されつつ自分で真相に気づくというスタイルなので推理力も高められますし、気づいた時の頭に電気が走る感覚はクセになっちゃいます。
「いけない」は続編も出ていて、これは要チェックですね。
このクオリティの「いけないⅡ」であれば、ぜひとも読みたいです。
おすすめ度
「いけない」のおすすめ度は、5点満点中4.5点です。
基本、誰にでもおすすめできる素晴らしい作品だと思います。
短編集ですので、読書が苦手な方も読み切れますし、読書好きの方もそのクオリティにしっかり楽しむことができるのです。
しかも斬新な設定である挿絵によるトリック開示。
これはもう、読むしかないですし、おすすめを聞かれたら「いけない」がいいんじゃない?というレベル。
ぜひ、一度お手に取って欲しいです。
あらすじ要約(ネタバレあり)
ここからはネタバレを含みますので、ネタバレが嫌な方はまとめの章まで飛ぶようにしてください。
では、まずネタバレありの要約について、それぞれの章についてあらすじを紹介していきます。
第1章:弓投げの崖を見てはいけない
弓投げの崖付近のトンネルで起きた、事故。
意味もなく止まっていた車を避けようとしたところ、突然動き出したことによって回避しきれなかった車が壁に激突した。
そこに乗っていたのは安見だったが、元々止まっていた車の運転手たち若者は安見を放って、逃げてしまった。
救急が遅れてしまったことによって安見は視力を失い、助席に座っていた息子は帰らぬ人になってしまった。
最後に若者の顔と声を聞いた安見は復讐を決意する。
三人いたうちの二人を殺す。
残った一人は殺されまいと、やられる前にやろうとスーパーでナイフを買って安見の自宅へと向かう。
一人の刑事は事件の真相に気づき、安見に事情を聞くのと残った一人の行動を制するべく安見の自宅へと向かう。
安見は残った一人を殺すべく、自宅を出る。
そして、自宅前で大きな音と共に、車と人の接触事故が起こった。
第2章:その話を聞かせてはいけない
少年は中国からやってきていた。
日本に馴染めず常に一人でいた少年は、時々妄想の世界に逃げることでなんとか生きることができていた。
そんな少年がある日、文房具店に入ったら殺人現場を目撃してしまった。
妄想なのか確かめるべく、次の日も文房具店に行ったら殺人現場のような様子は一切なかった。
自分の妄想かとがっかりしていると、男に突然車に押し込められる。
少年は妄想ではなく、本当に殺人現場を目撃していたのだ。
弓投げの崖まで連れてこられた少年。
ついに自分は死んでしまうのかと嘆いたその時、突然の風が吹いた。
第3章:絵の謎に気づいてはいけない
新興宗教の若き女性幹部が自宅で首を吊る形で無くなっていた。
自殺と思われるシチュエーションだが、水元という刑事は殺人を疑っていた。
先輩刑事である竹梨と共に色々な方向から事件を検討していると、一つのメモを発見する。
第一発見者のメモでそこには不可解な絵が描かれていた。
事件現場と全く同じ絵で意味深な「電話中に外した?」というメモ。
第一発見者の一人は殺されていて、水元は女性幹部が殺された真相に近づく。
しかし、竹梨はそんな水元を亡きものとしてしまうのだ。。
終章:街の平和を信じてはいけない
安見は全ての罪を竹梨に告白するべく、竹梨を公園に呼び出す。
そこで、第2章の主人公である少年と出会い、少年は昔、安見が面倒を見ていた少年だとわかる。
感謝を言われ、罪を告白するのではなく妻と一緒にもう少し生きてみようと決意する。
竹梨に渡した告白文を書いた(妻が書いた文章)を一度は竹梨に渡してしまったが取り返そうと、竹梨が目を離した隙に封筒を取り出す。
だが、取り出した封筒は竹梨が自分の罪を告白した文で、安見のものではなかった。
目が見えない安見は取り違えたことにも気づかず、その場は解散となってしまう。
そして、竹梨は自分の罪を告白した文章を確認しようとすると、ないことに気づく。
そして、安見から受け取った文章を読んでみると困惑した。
事件の解説(ネタバレあり)
簡単に要約しました。
オチ自体がよくわからないのは、実は最後の1ページの写真が事件を解く鍵になっているためです。
この記事で写真を出すわけにはいきませんので、それぞれの章の最後に出てきた写真と解釈の仕方について書いていきます。
第1章:街の写真
最後誰が死んだのか→刑事
路地に入ったという文章と実際に街の写真を見比べると、三人のうち刑事だけが事故に巻き込まれた条件が揃っていました。
他の章でも刑事が死んだという真相が書かれており、全ての真相にたどり着いた刑事が亡くなってしまうという結末でした。
第2章:インタビュー映像
インタビュー映像に写っていた一人の子供が事件を解く鍵でした。
最後、風が吹いたのは車に潜んでいた少年の友達が現れたのです。
少年が男たちを崖から突き落とすことで、少年の命を救ったのです。
最終章でも登場し、二人は仲良くなった様子が描かれていました。
第3章:絵に書き加えている写真
見つかった絵は実は竹梨が書き加えているという真相が隠れていました。
竹梨は真犯人がやっている新興宗教の信者で、庇ったのです。
絵にはオートロックで密室を作っていたという真実が書かれていましたが、竹梨が絵を書き加えることでうまく誤魔化せていました。
しかし、水元はその真相を解き明かしてしまい、結果的に竹梨に殺されてしまうという結末でした。
終章:何も書かれていない手紙
安見が持ってきた告白文には何も書かれていないというのが、竹梨が困惑した理由になります。
安見はその告白を妻に書いてもらいました。
しかし妻は告白文には何も書かなかったのです。
夫を庇ったのか、自分の罪を告白することなんてできなかったのか、それは本人にしかわかないことでした。
安見の罪は表には出ず、竹梨だけの罪が今後明るみに出るのか?という結末でした。
書評(ネタバレあり)
全ての写真がきちんと謎を解く鍵だったり、真相というオチでした。
誰もが罪を背負っていて、誰もがそれを隠しているという描き方にゾクっとします。
え、ここで終わり?真相は?
となったところに、一枚の写真がドンとくるのです。
そして、言葉を失うのです。
そういうことだったのか、と。
今回紹介したオチの解説を聞いた上でもう一度読んでみると本当にゾクっとするかと思います。
第1章ではきちんと誰が死んだのか、推理できる内容にまとめられていて、一人一人が何か一つを手に持っている描写も伏線でした。
最後、地面に落ちた持っているものが音がしなかったのも伏線で、見事としか言えないオチです。
第2章でも、少年が死んだかなという終わり方をするものの、実は車に少年の友達が乗っていたというのが写真でわかるのです。
一見ただのインタビュー映像の切り抜きに見えるところに潜む真実は素晴らしかったです。
第3章、終章は、それぞれ事件の真相や人間の怖さがわかるというオチで、刑事が実は裏切り者だった。
安見の妻がとんでもないことをしてくれたという大どんでん返しを味わうことができました。
人間の怖さが垣間見えるとともに、平和に見えている表向きというのがまた現実的で怖いと感じました。
実は、僕たちが見ている平和も裏では闇や怖さでドロドロしてますし。
大どんでん返しが味わえて本当に面白かったです。
まとめ
ここからはネタバレないので、安心してください。
今回は、道尾秀介さんの「いけない」をご紹介してきました。
続編が出ているということもあり、かなり世間の評価も高い作品です。
僕自身かなり面白かったと思います。
大どんでん返しを写真でやるなんて、斬新ですし新鮮さがあってよかったです。
続編絶対読みます。
伏線が好きな方や、大どんでん返し好きな方にはぜひおすすめしたい作品で、短編なのに4回も驚ける最高の作品だと思います。
ぜひ、一度お手に取ってみてください。
では、皆さんの驚きが最高のものになることを祈っています。
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