殺人鬼の告白から始まる本書。
自分の親がもしかしたら殺人鬼かもしれないという、奇妙な雰囲気を纏った沼田まほかるさんの「ユリゴコロ」を今回は紹介します。
ホラーの雰囲気から一転家族の絆につながるミステリー長編でした。
この記事では「ユリゴコロ」の内容について一部ネタバレありで紹介していきます。
では、いってみましょう!
あらすじ
主人公・亮介が実家の段ボールで見つけた「ユリゴコロ」と題された4冊のノート。
それは殺人に取り憑かれた人間の生々しい告白文だった。
普通の家族と思っていた家族にいると思われる殺人鬼。
このノートを書いた人物とは一体誰なのか。
亮介の身に降りかかる災いにも動きがあり、人生が一転する。
絶望的な暗黒から世界が変わり、深い愛とラストには涙無くして読むことはできない。
衝撃の長編ミステリー。
果たして殺人鬼とは誰で、どうしてこんなノートが見つかったのか。
ノートの真実の先にある悲しい家族の物語とは。
本書の概要
ページ数
文庫サイズで解説含めず、322ページ、全330ページでした。
読むのにかかった時間
だいたい3時間半ほどで読み切ることができました。
構成
一人称で書かれた文体で、亮介を中心として物語が進んでいきます。
日記形式の作中で出てくる「ユリゴコロ」は私という一人称で書かれていました。
わかりやすい文体と口語調になっているので、すっきりと軽く読める構成になっていました。
書評(ネタバレなし)
おどろおどろしい雰囲気からの一転は素晴らしいけど、もうひと推し欲しかったかな。というのが僕の感想でした。
ホラー小説のように、だんだんと殺人鬼の犯行が日記によって明らかになる場面は非常によくできていて怖くて先へ先へとページをめくる手が止まりませんでした。
そして、殺人鬼の全てが明らかになった後、主人公である亮介の家庭事情が全て明らかになり納得感が出ました。
ここで終わるかと思いきやもう一転新事実が明らかになり、もう一つ並行していた事件の謎も解けて解決という流れだったわけですが、僕は最後の事件の逆転がもう一つ欲しかった。
確かに話としては綺麗に収まっているとは思うのですが、綺麗すぎてもう一回逆転して胸糞悪い感じで終わって欲しかった。
完全に個人的な好みになってきますが、僕はハッピーエンドよりも胸糞悪いくらいのエンドの方が好きなんです。
なので「ユリゴコロ」はそういった面でもうひと押しエグさを出して欲しかったと思います。
前半から中盤、終盤前のエグさや切なさが良かった分、ハッピーエンドで終わることですっきりはしますが、心に響くものが物足りなかった感じです。
とはいえ、終わりまで駆け抜ける面白さは非常によかった。
本当に読む手が止まらず先が知りたい展開になっていくんです。
殺人日記である「ユリゴコロ」の内容が全て明らかになってもなお、その先に若干の謎を残しておくのも上手い手法で、最終的に出てきた伏線が全て回収されるのが見事でした。
全てに納得できる作品に仕上がっているとトータル見て思います。
若干、バットエンドを願っていた僕だけが不服が残った感じですね。
おすすめ度
「ユリゴコロ」のおすすめ度は5点満点中4点です。
グロテスクな表現やエロすぎる表現はほとんどないので、多くの方に読んでいただけて楽しめる内容になっていると思います。
伏線回収で震えたいという方には向かないかもしれませんが、きっちりと出てきた伏線を最終的に回収する様はミステリーとして非常によかったです。
感動的なミステリーとしてもおすすめできる内容で、おどろおどろしい雰囲気を最終的には解消してくれるスッキリ系になっているのもよかったと思いっます。
怖い殺人鬼が誰で、最終的にどうなるのか、是非とも読んでみてほしいです。
要約・あらすじ(ネタバレあり)
ここからはネタバレを含みますので、ネタバレが嫌な方はまとめの章まで飛ぶようにしてください。
では、ネタバレありの要約・あらすじからやっていきます。
亮介は不幸のどん底にいました。
婚約相手には200万円を持ち逃げされ、母親は交通事故で亡くし、父親は末期癌でした。
父親は癌と死を受け入れ、特に治療を受けることなく自宅療養していました。
そんなある日、亮介は父親の押し入れで4冊のノート「ユリゴコロ」を見つけます。
その内容は「私」という一人称で書かれた人物の殺人ノートだったのです。
子供の頃から殺人衝動があったこと、殺人によって得られる幸福感、満足感をユリゴコロと呼んでいることが判明していきます。
読み進めていく中で、どうやらこの人物は女で、自分の母親かもしれないということがわかってくるのです。
さらに、亮介の記憶ではあるタイミングで母親が入れ替わっている違和感がずっとありました。
肺炎で入院した後に久々に会った母親が、これまでと異なる違和感です。
とは言え、子供の記憶、特に気にせず入れ替わったであろう母親を受け入れ大人になっていました。
そんな違和感が今になって鮮明になり、さらにノートの内容も相まって、もしかしたら入れ替わる前の本当の亮介の母親こそが殺人鬼でどういうわけか、母親が入れ替わったのではと推理します。
ついに、その真実を父親に確かめます。
すると衝撃の事実が、殺人鬼は亮介の実の母親で、殺人鬼であることが家庭内で明らかになったために父親・母親・妹の手によって始末されたとのことでした。
本当の母親は死に、妹が母親代わり(実際に母親役として名前を偽装して生活をしていた)という事実を聞かされます。
そんな話を聞かされた亮介の元に、200万円を持って逃げた婚約者が現れます。
婚約者は実は既婚者で、夫の暴力と借金により精神をすり減らしていたタイミングで亮介とであり恋に落ちたとの話でした。
婚約者を連れてきたのは、亮介が経営するカフェの店員の細谷という人物。
細谷の熱心な動きによって婚約者の居場所を突き止め、なんとか暴力旦那から引き離してきたとのこと。
そんな亮介の元に旦那からの連絡が入ります。
婚約者を助けたかったら100万円をとりあえずは出せと。
怒りに震える亮介は婚約者の夫を殺す決意を固め、お金の受け渡し場所まで行きますが、そこにあったのは血まみれの車だけでした。
すでに夫は何者かの手によって殺されていたのです。
そして、またある日父親から呼び出しを受けます。
話していなかった続きがあったのです。
実は亮介の本当の母親は死んでおらず、ひっそりと遠くで暮らしていたとのことでした。
そして、これから本当の母親と旅行に行き旅行先で息を引き取ろうと考えているとの話でした。
何も言い返せない亮介の元に、本当の母親が現れました。
その姿は、亮介がいつもお世話になっているある人物のでした。
そして、二人は昔ながらの恋人のように車に乗って亮介の元を離れていったのです。
殺人を肯定する?(ネタバレあり)
「ユリゴコロ」を素直に読むといい話ではあるものの、実は歪曲な見方をすると殺人を肯定しているんじゃないかと思える部分もあるんです。
殺人鬼である母親です。
実は彼女は最後の最後まで殺人事件の加害者として、立件されることなく逃げおおせてしまっています。
ここだけ切り取ると、殺人鬼が野放しになってしまうという話としても受け取れてしまうと性格の悪い僕は思ってしまいました。
もちろん、作者が書きたいのはそんなことではなく、意味のない殺しをする殺人鬼が家族のために殺人を最後の最後に犯したという成長と家族の絆の物語を書きたいことはわかっています。
ですが、どうしてもミステリーとしてのオチとしては殺人鬼は悪であってほしいとも思うのです。
この先殺人鬼である母と癌で余命幾分もない父親が幸せになれるかと思いきや、バチが当たって不幸に死んでしまう。
という考察を僕はしています。
殺人鬼が後悔に後悔をして、死んでいく。そういったオチの方が僕としては好みだったかなと改めて考察と感想を述べておきます。
まとめここからはネタバレないので安心してください。
今回は、沼田まほかるさんの「ユリゴコロ」を紹介してきました。
途中の雰囲気とは打って変わるラストは見事でした。
若干の心残りや不満点(単純な僕の好みの問題)がありましたが、非常に面白いミステリー小説だと思いました。
では、皆さんの読書ライフがより良いものになることを祈っています。
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