シェアハウスでは超えてはいけない一線があります。
相手の心や秘密、同居しているからこその気の使い方があるのです。
今回紹介する吉田修一さん作「パレード」はそんなシェアハウスというのを題材としたミステリーとなっています。
一見普通の男女4人の日常生活に隠されたそれぞれの秘密が題材となっているのです。
この記事では、「パレード」を読んだ感想と内容の要約、驚くべき伏線やオチについて解説していきます。
解説部にあった「こわさ」という部分も考察しています。
一部ネタバレを含みますので、未読の方は注意してください。
では、いってみましょう!
あらすじ
都内の2LDKマンションに暮らす男女4人の若者たち。
それぞれが「本当の自分」を装うことで優しく怠惰に続く共同生活だった。
そこにサトルという18歳の青年が加わり、これまでの日常に少しずつ波紋が広がっていく。
それぞれが隠す秘密とは?
「知らぬが仏」とはよく言ったもの。
シェアハウスで大事なのは決して踏み込みすぎてはいけないこと、決して自分の全てを明らかにしてはいけないこと。
知りすぎても決していいことなんて一つもないんだから。
それでもあなたは、彼ら4人の秘密を知りたいですか?
本書の概要
ページ数
文庫本サイズで、解説含めないと301ページ。
解説を含むと全309ページです。
読むのにかかった時間
約3時間ほどで読み切ることができました。
構想
全5章に分かれていて、それぞれの章で男女5人の視点で描かれた作品です。
それぞれの章で主人公が決まっていて、その章ごとに一人称が主人公のものになります。
読みやすさはありますが、最後の方は情景描写が多くなってイメージがしづらくなる部分もありました。
また、日常系ミステリーということで抑揚は少なめな印象です。
書評(ネタバレなし)
正直な感想は、「え。。終わり?」というものです。
「パレード」を読むきっかけとなったのは、最後のどんでん返しがすごいという噂を聞いてのものだったのですごいすごいと期待しすぎたのかもしれません。
これまで色々などんでん返しものを読んできた身としては、これかー!?って感じでした。
意外なオチではあるものの、鳥肌がやばいってほどでもないんですよね。
日常系の話がダラダラ続いて、最後の最後でえ!日常のためにそんなことが裏に隠れていたの?って感じではあるものの、そこまで行くまでの日常系が普通すぎた感じがします。
途中で飽きて、最後まで読みきれない人も多そうな作品でした。
それぞれの隠している過去っていうのも魅力的ではあるものの、読者目線的にももう一歩踏み込めてない感じがしてまどろっこしい感じもあるのだと思います。
僕は背景まで全て知った上での納得感をミステリーに求めるので、その部分が合わなかったのかもしれません。
全て一人称視点で書かれているので、読みやすさはあったものの、日常系が日常系すぎてのんびり感が否めない感じでした。
のんびりは嫌いじゃないんですが、ミステリーや小説にはスピード感が欲しい僕にとってはちょっとイマイチな印象でした。
のんびり系がひっくり返るという面ではどんでん返し系ではあるものの、ミステリーらしいかと言われると首を傾げる感じですね。
スピード感を求めたり、スリルを味わいたい方にはおすすめしない作品です。
おすすめ度
「パレード」のおすすめ度は、5点満点中2点です。
ごめんなさい。正直期待が大きい分その落差での評価。
日常系のミステリーとしては良くできているとは思いますが、僕の好みではなかったです。
もう少しスリルがあったり、期待通りの伏線回収に大逆転が欲しかった。
なので、おすすめ度も低めという評価です。
日常系ミステリーが好きな方には刺さるかもしれません。
また、最後の衝撃も日常系や実際にルームシェアしている方なんかにはグッとくる可能性も高そうです。
ネタバレあり要約
ここからはネタバレを含みますので、ネタバレが嫌な方はまとめの章まで飛ぶようにしてください。
では、ネタバレあり要約からやっていきます。
まず男女4人のそれぞれの隠している秘密から暴露します。
・杉本良介→先輩の彼女との浮気、いつか東京へ帰るということ
・大垣内琴美→人気俳優の彼氏がいること、近々実家へ帰ろうとしていること
・相馬未来→レイプシーンを切り取ったビデオを隠し持っていること、海外移住すること
・伊原直輝→自分勝手であること、ストレス解消に人を襲っていること
これらの秘密がそれぞれ、日常生活の視点切り替えごとに明らかになっていくというのが「パレード」の大まかな流れになっていきます。
大どんでん返しポイントとしては、一番まともだと思われた伊原直輝が人の顔をコンクリート片で殴りつける通り魔だったという点です。
随所に通り魔が出てるから気をつけるようにという伏線があって、実はその犯人が直輝であるというのが最後の最後でわかるのです。
悟らせない構成で書かれているので、初めて読むと驚きがあると思います。
ですが、しっかりと読み返してみると確かに直輝にだけ犯行が可能な描写が多かったりします。
誰しもが隠し事をしているというのをテーマにうまく、ミステリーにつなげてくるのはすごかったです。
驚き度としては決して高くはないものの、よくできた話だと思いました。
ネタバレあり解説
「パレード」の解説では「こわさ」があるという話が出てきます。
「パレード」の内容には言いようもない「こわさ」があって、解説を書いている川上弘美さんは4度読んでその「こわさ」を実感したようです。
この「こわさ」というのは直輝が通り魔として、女性を襲いコンクリート片で顔面が壊れるまでめったうちにしていることを実は、「他全員の男女が知っている」というもの。
知っているにもかかわらず、決して警察に言うこともなくお互いに確認し合うこともなく口に出さないというのが「こわさ」なのです。
通り魔という犯罪者を知りながらも全く表に出さずに終始終わります。
読者視点からも一歳わからず、まさか全員が知っているとは思えないものの、読み返すと随所に知っていたというのが匂わせられていることに気づくのです。
知っているのに表に出さないそんな部分に「こわさ」があります。
各人それぞれ隠していることがあるものの、一番の隠し事は読者にすら隠していたのです。
解説を読んで、僕も結構ゾッとしました。
二度読むと、それぞれがうまく気づかないふりをしていたり決して表には出さない隠している姿を確認することもできます。
だからこそ何度も読むことでゾッとしたり、隠された伏線に気づける作品だと思うのです。
ぜひ、未読の方も既読の方もオチを知った上でもう一度読んでみてください。
注目ポイントとしては、直輝が通り魔であることを全員が知っているという点です。
きっと「こわさ」の意味がわかると思います。
まとめ
ここからはネタバレないので安心してください。
今回は、吉田修一さんの「パレード」の書評、要約、解説を行ってきました。
大どんでん返しを期待しすぎたところから、ちょっと驚ききれなかったのが正直な感想です。
とはいえ、二度読むことで分かる怖さや秘密という決して開けてはいけないパンドラの箱について再認識できる作品でした。
周りにいる人たちにも決して知ってはいけない秘密や、実はバレているあなたの秘密があるかもしれないと思わせてくれます。
伏線が凄くてイチオシ!とまではいえず、スピード感やスリルをミステリーに求める僕と気質が似ている方にはおすすめできません。
日常系に酷似しつつ、リアル性を求める層にベストな一冊だと思います。
では、皆さんの秘密が永遠に秘密であることを祈っています。
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