5分でわかる西澤保彦「人格転移の殺人」書評&ネタバレ要約・解説

小説の書評

殺人鬼の人格を見つける、新たなミステリー

人格が変わるなんてあり得ない、ですがそんなあり得ない題材を元にとんでもない小説が出てきました。

今回紹介する西澤保彦さんの「人格転移の殺人」です。

宇宙人が作ったとされる人格を入れ替える装置に、偶然入ってしまった6人が人格が入れ替わり殺人事件へと発展します。

誰が殺したのか、体はわかっていつつも、中身(人格)が判明しない、全く新しい謎解きです。

この記事では、そんな「人格転移の殺人」のあらすじ、書評をしつつ、ネタバレ有りの内容要約、解説を行っていきます。

では、行ってみましょう!

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あらすじ

ファストフード店に6人の男女がいた。

突然の大地震でシェルターだと思って入った場所は、人格を入れ替える実験施設だった。

6人の人格が入れ替わった。

目が覚めると彼らはCIAが管理する施設で、国家機密である実験施設のことを知る。

国家機密に関わった6人を外に出すわけにはいかず、今後の方針を決めるように促すCIA。

話し合いの時間として3日間を与えられた6人だったが、その期間に殺人事件が発生する。

脱出不可能、外部との連絡も取れない中、殺人事件は連続殺人事件へとなっていく。

犯人は誰の人格で、凶行の目的とは何なのか?

人格と論理が錯交し、混乱必至!

奇想天外の本格ミステリーをあなたは見破ることができるか?

本書の概要

ページ数

あとがき、解説含めず文庫サイズで387ページ、全408ページでした。

読むのにかかった時間

テンポ良い内容で約5時間ほどで読み切ることができました。

構成

主人公である江利夫の一人称視点が基本になります。

人格が入れ替わる内容なので、名前を覚えるないと内容がわからなくなってしまいます。

体と人格が異なる表記については、身体名(=人格名)という表記で統一されており誰が今、誰の体に入っているのかはわかりやすい形でした。

挿絵もあり、どういった状況で人格入れ替わりがあったのかも図でわかりやすくなっています。

人格入れ替わりのルールについても前半、中盤で説明があるので、アンフェアな部分はありません。

書評(ネタバレなし)

設定から引き込まれて一気に読めちゃう!のが「人格転移の殺人」でした。

人格が入れ替わる殺人ってどんなだろうと思って読み始めたところ、もう設定からワクワクで読み進めると目が回るような体験をしました。

人格入れ替わりは一回だけでなく、その後時計回りに入れ替わっていくという形で、違う人格に入りながら殺人事件が発生していくという構図が面白いんです。

少しずつ、誰がどの体に入っている時に殺人を実行したのかを分析して、犯人の人格に迫っていくのもわかりづらくなるところを挿絵の図でカバーしながらでわかりやすかったのも良かった。

基本ルールも、装置に入ったら人格が入れ替わる、入れ替わった後も時々入れ替わりが発生する「マスカレード」という事象が起こる。という二つが主になります。

このルールを前提として、その上ではきっちりとリアルなミステリーを描いているので、読者としてもしっかりと推理や分析ができるのもフェアであると感じた点です。

大前提である人格入れ替えだけが、フィクションすぎるだけであとはリアルを追求した本格ミステリーと呼んで良いと思います。

最終的な犯人やオチについてはちょっとだけ、読めてしまう部分はあるかなと思いました。

ですが、きっちりと伏線が張られていたり、論理的にも動機的にも納得のいく内容になっていたのはよかったです。

警察ではなくあくまでも一般人のサラリーマンである主人公の江利夫が謎を解くというのも好きポイントでした。

CIAは一切監置しないところで事件は起こり、自己解決させるために奮闘するのもクローズドサークル感が出る良い設定だと思いました。

密室殺人やアリバイトリックといったミステリーの王道ではなく、人格転移というSFトリックではありますが非常に納得のいくトリックな点もよかったです。

頭が混乱する部分はありますが、図でしっかりとわかりやすくなっているので、ぜひとも普通じゃないSFなミステリーを読みたい方は手を出してみてください。

震えるオチではないですが、納得できて心温まるラストにも注目です。

要約・あらすじ(ネタバレあり)

ここからはネタバレがありますので、ネタバレが嫌な方はまとめの章まで飛ぶようにしてください。

では、ネタバレありの要約、あらすじから行きます。

登場人物からの紹介です。

日本人サラリーマンの主人公・江利夫

女優を目指す金髪美人・ジャクリーン

筋肉隆々初老・ランディ

いかついけど実は16歳の黒人・ボビィ

口髭イケメンのアラビア人・ハニ

横浜に住むフランス人・アラン

留学でアメリカに来ている日本女子大生・アヤ

この7人が偶然に、人格転移を行う実験施設が残ってしまっているファストフード店に集まります。

そこに突然の大地震。

7人は倒壊する建物から逃れるべく、シェルターとみられる実験施設に逃げ込むことにします。

地震の衝撃で気を失い、目が覚めると見知らぬ場所。

そこはCIAの実験施設だったのです。

江利夫は自身の体がランディになっていることを知り、パニックになります。

そこにCIAが現れ、今起こっている人格転移についての説明がなされました。

図としてはこんな感じで、人格入れ替わりが発生していたとのことでした。

アヤについては人格転移を行う実験施設前で遺体となっていることが判明し、人格転移には関わっていないとの見解でした。

アヤの遺体は首を絞められた後があり、誰がやったのか問題になりつつも、CIAは江利夫を含めた6人に今後どうしていくか決める時間を3日間与えます。

3日間はCIAの監視はせず、単に施設の中にいてくれればいいというだけでした。

人格転移により困惑する6人の初日は酷いもので、特別な話し合いができず終わってしまいます。

次の朝、江利夫はジャクリーンの体で目覚めました。

人格転移は装置に入った後も定期的に発生し、時計回りの形で人格移動することがわかっていました。

ジャクリーンになった江利夫は、ハニ(中身はジャクリーン)と談笑をしていると再び、人格移動が発生します。

江利夫はハニの中に入りました。

そこでおかしなことに気づきます。時計回りの法則に従えば、次はアランになるはずなのに、飛ばされた。

深く分析する前に突然、目の前のジャクリーンに襲われるのです。

命の危機を感じる江利夫、何とか逃げ、江利夫(中身はジャクリーン)と合流し、襲いかかってくるジャクリーン(中身は殺人鬼)と応戦することになります。

戦いの最中、何度も人格転移を繰り返しながら何とか殺人鬼の人格が入ったハニが死に、平穏な時間がやってきます。

ジャクリーンと江利夫だけが残り、後の人間たちは死んでいることがわかりました。

分析が始まります。いったい誰の人格が殺したのか、誰の人格が襲ってきたのか。

最終的には犯人は、アヤの人格であることがわかり、物語は幕を閉じます。

流石に内容が濃く、オチまでは書ききれないのでぜひここからの続きは本編で確かめてみてください。

ただし、アヤの人格が犯人である解説については次章でします。

犯人の解説(ネタバレあり)

アヤは実は最初の人格転移の時点で、実験施設内にいたのです。

人格転移後に人格転移装置の外に放置されたために、人格転移のサイクルに入っていなかったため眼中に入らなかったトリックになります。

なので、当初考えられていた入れ替わりの図は、アヤを含めたこんな図だったということです。

アランの人格だと思われたハニは本当はアヤの人格でした。

実はそれがわかる描写も伏線として張られていて、ハニ(中身はアヤ)が最初に喋る時は普通に日本語で喋っており、徐々に状況が飲み込めてくるとアランっぽい喋り方に変わっていったのです。

これは最初はアヤ自身が、状況を飲み込めず喋っていたのですが、状況を知り、アランとして振る舞った方が有利だと思ったことによる動きでした。

アヤは本当はジャクリーンを殺すつもりで、人格転移装置に入った時に襲ったのですが、実はジャクリーンの体ではなくアヤの体を襲っていたのです。

なので、アヤは自身の体を死へと追い詰め、結果的にアヤの体は死に、自分の体へは戻れなくなってしまいました。

自暴自棄になり、全員を殺して最終的にジャクリーンの体の中に入ろうと考えたのが動機でした。

全員を殺し、自分だけが生き残れば人格転移は起こらなくなり、最後に生き残っていた体が自分のものになるそんな考えによる犯行でした。

アヤが江利夫同様に人格転移に巻き込まれていた、アランのふりをしていたというのが今回のトリックを解く上での鍵でした。

薄々気づきかけましたが、アランのふりをした理由や動機までは追えなかったので、なかなかのトリックだと思います。

アランが中身はハニだったというのを抑えた上でもう一度読み返すと面白いことがわかるのでぜひ読み返してみてください。

まとめ

ここからはネタバレないので、安心してください。

今回紹介した西澤保彦さんの「人格転移の殺人」SFとミステリーが見事に一体となった物語でした。

人格転移というはちゃめちゃな設定の上でここまで見事なミステリーが描けるなんて驚きで、引き込まれて一気に読み切りました。

ちょっと誰が誰だかわからなく混乱はありますが、ミステリーとしてもしっかりと伏線あり、根拠ありで面白かったです。

普通のミステリーよりもちょっと変わったトリックやら、設定が好きな方には刺さる内容だと思いました。

ぜひ、一度お手に取ってみてください。

では、皆さんのミステリーライフがより良いものになることを祈っています。

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