殺人事件には動機がつきものだと思っていませんか?
その動機が単に、思いついたトリックを試したかったからだったらどう思いますか?
今回紹介する歌野晶午さんの「密室殺人ゲーム 王手飛車取り」はまさにそういった物語。
5人のミステリーマニアが、自分たちで行った殺人事件を解き合うというゲームをするという話。
最後には衝撃的なラストが待っています。
この記事では、そんな「密室殺人ゲーム 王手飛車取り」の書評からネタバレあらすじを紹介していきます。
では、いってみましょう!
あらすじ
<頭狂人>、<044APD>、<axe>、<ザンギャ君>、<伴道全教授>の奇妙なニックネームの5人。
5人はネット上で殺人推理ゲームの出題をし合うグループだった。
一人が問題として実際に殺人を行い、その殺人事件のトリックを他4人で解くというもの。
出題者の手によって実行済みの現実に起きた殺人事件。
リアル殺人ゲームの行く先は、いったい。
驚愕のラストが待つ異色の殺人ゲーム物語。
本当のトリックは出題者本人にもわからない。
本書の概要
ページ数
解説含めず521ページ、全532ページでした。
読むのにかかった時間
かなりボリュームがあり、大体6時間ほどで読み切ることができました。
構成
三人称視点で描かれる文体で、<頭狂人>というアカウントが主な視点として描かれていました。
短編集のように複数の事件を扱う形ですが、全体通して登場人物は変わりません。
また、覚える必要のあるキャラも5人とはっきりしているので、かなり読みやすい構成になっています。
書評(ネタバレなし)
現実にありそうでマジ怖い!ラストも鳥肌!!というのが「密室殺人ゲーム 王手飛車取り」の読んだ感想でした。
トリックを試すために人を殺す。というのもフィクションですがフィクションに思えないちょうどいい動機な気がしました。
しかも、動機がそんなんだから警察の手を逃れるのも割と簡単にできてしまっているのも怖さを掻き立てていました。
また一つの事件ごとのトリックもあーなるほどな!と思わせてくれるものばかりでした。
一つ一つのトリックだけでも一冊のミステリーになってもおかしくないレベルでクオリティが高い。
ずっと面白いトリック系のミステリーかと思いきや最後の最後で驚かせてくれる。
贅沢すぎる一冊というのが「密室殺人ゲーム 王手飛車取り」に対する僕の書評です。
ボリュームがありすぎるのが少し難点ではあるものの、飽きのこない常に新鮮な謎とトリックを提供しつつ最後の最後のおどかしてくれる見事な一冊だと思いました。
おすすめ度
「密室殺人ゲーム 王手飛車取り」のおすすめ度は、5点満点中4点です。
ミステリー好きは必ず読んでほしい作品という評価になります。
ミステリー好きでないと、ちょっと重たすぎる話ですし事件内容もかなりトリックがちゃんとしているので難しいと感じるかもしれません。
一つ一つのトリックをちゃんと読むとシンプルながら、あっぱれなものが多いですが…
驚き具合としてもかなり良い線行っていると思います。
個人的には歌野晶午さんの別作品である「葉桜の季節に君を想うということ」よりも驚き方としては「密室殺人ゲーム 王手飛車取り」の方が好きでしたね。
「密室殺人ゲーム 王手飛車取り」の方がわかりやすく驚けて、納得もできるので。
ただ、やはりページ数が多いのと、動機があまりにも感情移入できないのが難点かと思います。
本に感情移入したい。動機系のミステリーが好みという方には合わないと思いました。
ミステリーが好きならぜひとも読んでほしい。一つ一つのミステリーが面白いのにも関わらず、最後にちょうどいい驚きをくれますから!
要約・あらすじ(ネタバレあり)
ここからはネタバレを含みますので、ネタバレが嫌な方はまとめの章まで飛ぶようにしてください。
では、ネタバレありの要約・あらすじからやっていきます。
<頭狂人>、<044APD>、<axe>、<ザンギャ君>、<伴道全教授>が集まる中、1回目は出題者が<axe>の事件がテーマになります。
問題は次は誰が殺されるのかを推理するというもの。
一見関係性のないように思える人が次々と殺されるという事件を<axe>は持ってきました。
実際に殺人を犯しながら10人の被害者が出たところで、ついに被害者たちの共通点が明らかになりました。
被害者たちは十二支に準えて殺されていて、事件発生箇所・被害者の特徴が十二支に関わりがあったのです。
そして最初からヒントとして時計が差し示されていたのは十二支を一つの輪とした時の次の殺人場所を表していました。
<axe>の事件はこれで幕を閉じ、次の出題者<ザンギャ君>の番となります。
<ザンギャ君>が用意した問題は、アリバイ系の問題でした。
生首が花瓶に置かれた被害者の部屋、公園にはその体部分が放置されている事件です。
最後に被害者の声が聞かれた時間に<ザンギャ君>にはアリバイがあるため、そこを崩すクイズでした。
結果的には被害者の声が出た理由は、生首にガスを注入することによって音を出すというトリックによるもので、声が聞かれた時間より以前に被害者は殺されていたというものでした。
次の出題者は<044APD>。
<044APD>が用意した問題は密室殺人でした。
最先端防犯を謳う地区で起こった事件で、地区の出入り口には警備員がいるような地区で<044APD>は殺人を実行したのです。
被害者は三人家族の父親で、自宅で妻にも見つからずにベッドの上で胸を刺されて亡くなっていました。
事件を解く中で、その家族は最先端防犯を謳う地区へ引っ越す前から脅迫をされていたことが判明し、そこから推理をめぐらせました。
事件の真相はシンプルで、引越し直後から犯人である<044APD>は屋根裏に潜んでいたというものでした。
屋根裏に住んでいるので、強固な防犯を破る必要なんてなくシンプルに屋根裏から出てきて被害者を殺し出ていったというのが真相。
引越し時には防犯が甘くなる隙を狙ったトリックでした。
「密室殺人ゲーム 王手飛車取り」のラストの事件は、<頭狂人>が用意するものです。
<頭狂人>もまた密室事件をテーマにした事件だったのですが、その趣向はまさに意表。
<頭狂人>が殺したのは自分の兄だったのです。
家の中で起きた事件なので、外からの密室は完璧なもののまさか家族が犯人とは思われない隙をついたトリックでした。
参加者を騙すことはできたものの、衝撃の事実が判明します。
なんと<頭狂人>が殺した兄というのは実は<044APD>だったのです。
そんなこととは知らなかった<頭狂人>は、ショックを受けます。
そして、残った<axe>、<ザンギャ君>、<伴道全教授>の三人を貸別荘に呼び出し新たなゲームを提案します。
椅子を立ったら爆弾が爆発するかもしれないロシアンルーレットゲーム。
ただし爆弾は<頭狂人>のお尻の下にしかないというもの。
自殺志願かと思われるゲームで、困惑する三人。
その様子を見ながらスリルを楽しむ<頭狂人>。
そして物語は続く。という形で幕を閉じたのでした。
ラストの解説&考察(ネタバレあり)
ラスト<頭狂人>がどうして奇妙なゲームをやり始めたのか。僕なりに考察しようと思います。
まずキーになりそうな<044APD>の存在が<頭狂人>の兄だった部分。
これは推理されているように<044APD>はわかっていたけど、<頭狂人>は知らなかったのだと思います。
<044APD>は頑なに素性を暴くのはダメ。というスタンスをとっていたのでほぼ確定です。
脱線しますが<044APD>というハンドルネームは、コロンボが愛車としている車から来ているようでプレートナンバーが「044APD」らしい。
兄を殺してしまったショックというよりかは、大切な仲間を殺してしまった後悔が<頭狂人>に最後のゲームをさせる動機になったのだと僕は思います。
仲間意識がいつの間にか生まれ、仲間を殺して自分を誰かに殺してもらうことで救われたい。そんな感情だったのではないかというのが僕の考察です。
自分は冷酷だ。と<頭狂人>自身は思っていそうですが、兄を殺してしかもその兄が仲間の一人だったというショックによって完全に心が折れた形。
本当の狂人になってしまったというオチなのが実は名前に隠された意味だったのではないかとうっすら思っています。
物語の結末としては続く。という形でしたがおそらく<頭狂人>は生き残るんじゃないかと思います。
そして次のスリルな事件に巻き込まれていくという形なのだと考察しています。
実際に「密室殺人ゲーム」は続編も出ているので、きっとそうなのでしょう(まだ読んでいない)
今回の内容を見ると次回以降も気になって読みたいって思いました。
続きの話は「密室殺人ゲーム2.0」なのでどうなるのか見守りたいです。
まとめ
ここからはネタバレないので、安心してください。
今回は、「密室殺人ゲーム 王手飛車取り」について紹介してきました。
一つ一つの事件のクオリティが非常に高いのに、使い捨てのように最終的な驚きに持ってくる手法。脱帽でした。
ミステリー好きにはとにかく読んでほしい内容で、ちょっとページ数が多いところを抜きにすれば最高の作品だと思います。
気になった方はぜひ一度お手に取ってみてください。
では、皆さんの読書ライフがより良いものになることを祈っています。
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