検事に必要な要素は何だと思いますか?
正義を執行することに全てを注ぐ能面検事こと不破俊太郎。
その検事像は、理想ながらも生きづらすぎる姿だった。
今回紹介する中山七里さんの「能面検事」、ちょっとやりすぎだろうと思いきやその裏に隠れる正義感にちょっと感動する物語。
この記事では、そんな「能面検事」の内容をまとめて紹介します。
では、いってみましょう!
あらすじ
大阪地検一級検事の不破俊太郎(ふわ しゅんたろう)は、どんな圧力にも屈せず、微塵も表情を変えないことから「能面」と呼ばれている。
新米事務官の惣領美晴(そうりょう みはる)と西成ストーカー殺人事件の調べを進める中で、容疑者のアリバイを証明し、捜査資料が一部なくなっていることに気づく。
これが大阪府警を揺るがす一大スキャンダルに発展し、事件も不破の立場も変わっていく。
果たして事件の真相と、不破が本当に目指す正義とは?
あなたは不破の真意を理解できますか?
本書の概要
ページ数
解説含めず、341ページ、全347ページです。
読むのにかかった時間
だいたい4時間ほどで読み切ることができました。
構成
最初の章のみ、短編の形で終わるものの文庫一冊で完結する長編ミステリーです。
新米事務官の惣領美晴の視点で、三人称で語られる構成でした。
惣領が新米なだけあって、中々不破の真意が見えないもどかしさを演出している構成になっています。
書評(ネタバレなし)
能面の裏に隠れている正義感と貫く姿勢カッコ良すぎる!!が僕の「能面検事」を読んだ感想です。
何を考えているのか、惣領視点も読者視点もわからない構造なので読んでいる間ずっともどかしい感じがします。
ですが、徐々に垣間見える不破の正義感と意志がカッコよかったです。
こんな検事がいてくれたら、本当に無罪である人たちは非常にありがたいと思います。
誰にも屈せず自分の正義を貫くので、他の人たちと対立することもよくあるのですが、それに負けない姿や責任は自分で取る姿、全てをとって素晴らしい人間だと思わせてくれるのです。
ただ、人間関係を円滑に進める気がないというマイナス点も見せることで、弱点がありつつも頼りになる主人公という姿を見せる演出、素晴らしい。
事件自体はシンプルすぎて、中山七里さんの他の作品ほどエグさや大逆転はないものの、しっかりと全ての話が一つの答えに終着するのは流石だと思いました。
物語全てが伏線で、最後の答えに行き着く、見事な作品です。
鳥肌が立つほどの逆転がないところは少し残念でしたが、僕は能面検事のファンになりました。
おすすめ度
「能面検事」のおすすめ度は、5点満点中3.5点です。
おすすめできるけど、中山七里さんの他の作品の方がおすすめしたい。という評価。
「能面検事」は非常の面白くて、キャラが立っているのがとにかく素晴らしい作品だと思います。
グロテスクなシーンもないですし、不破の正義感や貫く姿勢は見習いたいほど素晴らしいので多くの人には読んでほしいです。
ですが、それを差し引いても、中山七里さんの他の作品の方が優っている部分があったりします。
「護られなかったものたちへ」では、衝撃的な展開やエグすぎる社会問題へのフォーカス。
「カエル男」では、グロすぎる展開とあっと驚く結末。
「能面検事」はどうしても、そういった作品と比べるとパワーが弱い気がします。
なので、おすすめはできるけど、中山七里さんの他の作品を読んでからでもいいかなという評価です。
要約・あらすじ(ネタバレあり)
ここからはネタバレを含みますので、ネタバレが嫌な方はまとめの章まで飛ぶようにしてください。
では、ネタバレありの内容要約、あらすじを紹介していきます。
新米事務官である惣領は、不破の元に配属されました。
出会い頭に「出ていけ」と言われ困惑する惣領でしたが、これから成長する自分の可能性を汲んでくれと叫び不破にひとまずは一緒に仕事することを了承してもらいます。
謎と無表情の不破に困惑しながらも、一つ目の事件である幼女殺人事件の冤罪を晴らし、本物の犯人を見つけ出すのに成功するのです。
次の事件は、ストーカー殺人事件。
ストーカーが女性宅に乗り込み、女性とその彼氏を殺すという事件でした。
ストーカーが逮捕され、不破検事の元へ来たのです。
アリバイを主張するストーカー、確認のため不破と惣領は交番へ行くと確かにストーカーにはアリバイがありました。
捜査資料が一部紛失していることに気づき、検事の権限で警察署の捜査資料紛失を告白する不破。
さらにストーカーも無罪としてしまいます。
不破の上官は世間が注目を集める事件だから、慎重にとアドバイスしたのに無罪にさっさとしてしまう姿、大阪府警を巻き込む捜査資料紛失騒ぎに、驚きました。
上官は不破にもう少し、丸く収まるようにと指示するものの、検事は独立した権限を持っているはずですと断れる。
大阪府警内では不破の告白によって、メディアや世間に捜査資料紛失をとにかく叩かれる。
さらに大阪府警の多くの人間はこの紛失騒動によって首や左遷をくらうことになった。
惣領は、そんな不破を見て「どうしてそこまで、自分を貫けるのか、どうして無愛想なのか」聞く。
答えは「法律家たるもの法律の上で行動するのが正義だから、無愛想で何が悪い?相手がどう思うかなんて関係ない」とのこと。
大阪府警のてんやわんやなど、何も思うところがない様子でストーカー事件をさらに調べていく不破。
そんな能面の如く無表情で事件を追っていく不破には悲しい過去があった。
昔は表情豊かな検事だった不破、そんな不破はある事件でその表情豊かさを容疑者につけ込まれ最終的に重要参考人の隠れ場所を看破され殺されてしまったのだった。
自分の感情が表に出るせいで招いてしまった事件に悲しみ、無表情になることにしたのだ。
それを知った惣領は少しは、同情するもののやはり無愛想すぎる態度によるマイナス点を指摘するもやはり不破は何も感じない様子で事件を追う。
そして、不破が大事な証拠を見つけたところで、銃で撃たれる。重傷を負うも命をつなぎ、不破は真犯人の元へ訪れる。
その人物は、大阪府警の刑事部長だった。
ストーカー事件の真相は、女性を狙ったものではなく一緒にいた男性自体が本当のターゲットだったのだ。
男性はモテる男で昔、刑事部長の娘を孕ませ自殺に追い込んでいた。
その恨みを晴らすために刑事部長は、男性を殺し目撃者である女性も殺したというのが真相だった。
捜査資料がなくなっていたのも、刑事部長の犯行を隠すための手段でした。
不破は淡々とその場をさって物語の幕は閉じた。
実は人想い!(ネタバレあり)
ネタバレ続きます。
感情が全く表に出ずに、淡々と大阪府警という大きな敵を作る不破。
一見人間の感情などお構いなしに、全てを進めていくように見えますが、僕はその中に人間想いな部分を見つけました。
不破は単純に法律を人よりも感情よりも上に持ってきているだけなのです。
法律を違反しているか、法律上許されるのか、たったその正義だけで動いています。
ここに抵触するなら大阪府警だろうとなんだろうと関係ない。
実はこれ、弱い人たちからすると超ありがたい行動です。
警察が組織ぐるみで不正をされたら、民間人である僕たちは手も足も出ません。
そんな組織による法律違反に真っ向から戦うのは、人を平等に扱う人間想いさがなければできないと思うのです。
惣領にも自分のようになる必要はない。とのアドバイスをしていますし、ラストには犯人に対して多くの人を巻き込む事件を起こすことを罰で償えと言っていましたし。
実は能面の裏はかなり優しい人間がいるんだと僕は思いました。
まとめ
ここからはネタバレないので、安心してください。
今回は、中山七里さんの「能面検事」を紹介してきました。
とにかくキャラがたった素晴らしい作品だと思いました。
おすすめ度はちょっと低めにしてはいますが、中山七里さんの作品はどれも素晴らしい作品が多いので低くなっているだけですので、ぜひ読んでみてほしいです。
こんな検事がいてほしい。僕はそう強く思いました。
では、皆さんの読書ライフがより良いものになることを祈っています。
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