明晰夢はご存知ですか?
夢を自覚して、自由に改変ができることを指す言葉。
今回紹介する結城真一郎さんの「プロジェクト・インソムニア」は、実験に参加した人が明晰夢の中で自由に遊ぶ物語。
しかし、そんなほのぼのから一転して、殺人事件が巻き起こるミステリーです。
この記事では、そんな「プロジェクト・インソムニア」の内容を一部ネタバレありで紹介します。
では、いってみましょう!

あらすじ

睡眠障害のせいで失業した蝶野は、極秘人体実験「プロジェクト・インソムニア」の被験者となる。
極小チップを脳内に埋め込み、夢を90日間共有する。
夢の中は願望を自在に操ることができる明晰夢で、まさに理想郷。
他の参加者と楽しい理想郷の夢の世界を楽しんでいたが、ある悪意の出現によって悪夢へと一変する。
次々と消えていく被験者たち。果たして連続殺人鬼の正体は?
驚愕の真相に涙を落ちる??
果たして、蝶野はこの悪夢を終わらせることができるのか。
本の概要

ページ数
解説含めず389ページ、全397ページでした。
読むのにかかった時間
だいたい4時間半ほどで読み切ることができました。
構成
蝶野を主人公とした三人称視点で書かれる構成でした。
プロローグから起承転結で章が分かれていました。
おすすめ度

結城真一郎さんの「プロジェクト・インソムニア」のおすすめ度は、5点満点中3.5点です。
おすすめはできる方だけど、結城真一郎さんなら他の作品の方が優先度高めという評価。
「プロジェクト・インソムニア」は悪くないのですが、衝撃的な結末というものの、僕としてはそんな衝撃的じゃなかったですし、夢の世界の設定に若干のおかしさを感じました。
SFとしての設定の甘さもあり、SF好きからはかなり痛いコメントをされていそうだと思います。
とはいえ、ミステリーとして考えればきっちりとした世界観と犯人とのつながりと伏線。見事にまとまっていました。
話としても多少のハラハラドキドキもあり面白かったです。
ただ、結城真一郎さんの他の「名もなき星の哀歌」「#真相をお話しします」の方が僕としては面白かったですし、おすすめもそっちを読んでからだと思いました。
書評(ネタバレなし)

衝撃的っていう煽りすぎて期待外れになってしまった残念作品。というのが僕の正直な評価です。
衝撃的っていう煽りがありすぎて、期待しすぎてしまったが故に驚けなかった。
物語として綺麗にまとめられていてミステリーとしてもしっかりと伏線があって、納得できるオチがあるのは良かったのに。
衝撃的という言葉が先行しすぎて、犯人を推測できてしまうというのが特に残念でした。
衝撃的よりも感動的、夢見心地になる。とかの煽り分の方が読んだ後に驚きや感動を味わえた気がします。
SF好きが喜びそうな夢を共有して明晰夢を見るという設定は非常によく、理解もしやすかったです。
ただ、おすすめの部分でも話したように多少設定に甘い部分があったりするのが気になりました。
犯人を特定するためのちょっとおかしい設定があったりして、ミステリーSFとして寛容な人向けですね。
僕は多少設定が甘くてもミステリーとしてのつながりやストーリーのつながり、ハラハラドキドキがあれば良いのであまり気にならなかったです。
ストーリーとしては面白いので漫画に近い感覚で楽しめるという意味で、面白かったです。
結構批判的に評価していますが、夢というテーマで気になる方はぜひチェックしてみてください。
要約・あらすじ(ネタバレあり)
ここからはネタバレを含みますので、ネタバレが嫌な方はまとめの章まで飛ぶようにしてください。

では、ネタバレありの要約・あらすじからやっていきます。
蝶野は突然の睡魔に襲われる睡眠障害を患い、失業してしまいました。
そんなおり、「プロジェクト・インソムニア」に参加することになります。
90日間の極秘プロジェクトで、夢の中を7人と共有しながら夢の世界を楽しむだけで200万円の報酬がもらえるプロジェクト。
夢の中では誰かの潜在意識によって、宇宙戦争だったり、大きなサメに襲われたりと本当に夢の中らしいことが起こります。
参加者たちはドリーマーと呼ばれ、好きなものをクリエイトする能力を与えられて夢の中に寝ているときだけ入ることができるのです。
銃をクリエイトしたり、バイクをクリエイトしたり、さらには人だってクリエイトして思いのままの世界、参加したドリーマーたちは夢の世界を楽しんでいました。
そんなある日、一人の死体と「一人目」というメッセージが現れます。
さらに死体は増え、現実世界でも死亡していることが確認されました。
運営に問い合わせる蝶野。運営は夢で死ぬことはないと当初話していましたが、夢の中で夢であることの自覚を失うと死ぬ可能性があることを言い出します。
夢の世界には胡蝶が常に飛んでおり、その胡蝶さえ見失わなければ、夢の自覚は無くならないと語る運営サイド。
その情報をドリーマーたちに蝶野は共有するものの、殺人は止まりませんでした。
死体が4人になった時点で残っているのは、派手な女子高生姿のカノン、MDなどレトロなセーラー服姿のミナエ、ダンディな男性のアブ、そして蝶野。
この中に犯人がいると、アブと協力して蝶野はこれまでの夢の世界の体験をもとに推理を始めます。
さらに蝶野の現実世界でも気になることが差し込まれていきます。毎年誕生日を祝わせてくれない彼女・彩花の存在です。
気になった蝶野は誕生日の日に彩花を尾行することを決め、実行します。ですが図書館の本に手紙を挟んだことしか分からず、結局その話は謎のままでした。
夢の世界の殺人劇を追う中で、ミナエが犯人であることが判明します。
ミナエは寝たきりの植物人間で、実はずっと夢の中にいたというのです。
胡蝶を捕まえることで、ドリーマーたちの夢の自覚を失わせることも自由にできました。
殺人方法は至ってシンプル、ここは夢じゃないことを告げてから、胡蝶を確認させる。胡蝶はミナエが捕まえているので確認した場所には胡蝶はいないが故にドリーマーたちは現実であると思い込む。
そこで射殺などをすることで、現実の体も死んでしまうというもの。
動機は夢だからと自由にしすぎたこと、女性を撃ち殺す快感に酔いしれていた男性や、バラバラ殺人をやる女性。彼らの不法な行動を許せなかったのだ。
そして彩花。実は彩花は誕生日の日にお姉ちゃんに会いたいと電話をしたのだった。
お姉ちゃんが実はミナエで、その会いにいく道中で事故に巻き込まれ植物状態となってしまった。
そのことを後悔していた彩花は毎年自分の誕生日に、思い出の地に手紙を残すことでお姉ちゃんであるミナエと連絡を取ろうとしていたのだ。
植物状態にあるなど知ることもなく。
そして、すべての事件は解かれたものの、未だミナエは植物状態のまま。
そこに現れた父であり、「プロジェクト・インソムニア」を企てた社長が現れる。
自殺もできないミナエはそんな父であり、プロジェクトリーダーに銃口を突きつける。果たしてこれは現実か夢か??
動機をわかりやすく解説(ネタバレあり)

ネタバレ続きます。
ここからは、犯人の動機について深ぼって解説していきます。
犯人の動機は至ってシンプル。ドリーマーたちの欲望爆発した行為が許せなかったからというもの。
さらにその背景に、夢か現実かわからないというものもあります。
犯人であるミナエは、植物人間でずっと眠っている状態でした。
そのため常に夢の中こそが彼女の現実であり、夢です。
現実世界では人を殺してはいけないと分かっているものの、夢であるから殺しのハードルが下がっているわけ。
実際に人が死んでいる実感が少ないからこそ、ミナエの殺人ハードルが下がり夢の世界で不埒なことをしている人たちが許せず殺すという行動をしているのです。
殺してやりたいと思った時に、どうせ夢だから殺して仕舞えば良いという判断になる。
この夢と現実が同一になってしまっている彼女だからこそのハードルの下がり方こそが、今回の殺人動機の味噌になります。
仮に、彼女が現実と夢を行き来するドリーマーであったなら、殺人事件は起きなかったことでしょう。
まとめ

ここからはネタバレはないので安心してください。
今回は、結城真一郎さんの「プロジェクト・インソムニア」を紹介してきました。
夢の世界とミステリーをうまく融合させた一冊で、SF設定は甘いものの面白かったです。
SFに寛容な方はぜひ読んでみてください。
ミステリー好きも結構楽しめると思います。
夢を自由に動かしたいけれど、これを読むとそれで殺されるのも怖いなぁと思ったりもしました。
では、皆さんの読書ライフがより良いものになることを祈っています。

