まさに急に後ろから親友に襲われる。
そんな体験ができる小説が「盤上の敵」です。
これまで読んできたどきどきが違うどきどきに二転、三転していく感覚は初めてでした。
本格ミステリーながら全く思いもよらない結末に落ち着くのは、数多くのミステリーの中でも印象に残るものでした。
今回はそんな意外な結末と大胆でとんでもないトリックが詰まった北村薫「盤上の敵」の書評、一部ネタバレ感想を書いていきます。
忙しい方でもネタバレ部まで見れば、「盤上の敵」の流れを抑えることができる内容になっています。
ネタバレ部には注意書きがありますので、ネタバレせずに見たい方も安心して記事を読んでいって本選びの参考にしてください。
では、いってみましょう!
あらすじ
家に帰ってきたら、猟銃を持った殺人犯が妻を人質に立て籠っていた。
主人公であり人質になっている妻の旦那である末永純一は、妻を無事に救出するために警察を出し抜き犯人と脱出ための手助けを考える。
警察とテレビカメラのある中、周到に準備を進める末永。彼が考える立てこもり犯を逃す方法とは?立て篭もり事件に潜む真実とは?
二転三転するクライマックスに振り回される感じはまさにジェットコースター。
最後の結末にあなたは納得する?それとも批判する?
本書の構成
ページ数
小説部のみで、文庫本で356ページ、解説部まで含めると全377ページの長編小説になっています。
各パートがチェスのように序盤、中盤、終盤と分けられているので区切りをつけて読むこともできる構成になっていますが、内容は全て一つの事件について取り上げているものになります。
読むのにかかった時間
毎日大体1時間くらいかけて、3日ほどで読み切ることができました。
時間で言うと約3時間ほどかかりました。
クライマックスに向けて一気に盛り上がる構成なので前半より後半の方が圧倒的に読むスピードは上がると思います。
読みやすさ
基本一人称で書かれているので、非常に読みやすい内容でした。
また登場人物も10人いかないので人の名前を覚えるのが面倒という方でも難なく読める小説だと思います。
ただ情景や抽象的な表現をする場面もありイメージが難しい部分は読みづらさを感じました。
本編とはあまり関係のない場面でしたが、より一層楽しむためには情景部の表現も理解できるとさらに面白さがアップするかもしれないです。
一人称のキャラの感情の動きや動作については明瞭に書かれているため、事件がどうなって今犯人がどうなったのかは分かりやすいので、安心して読んでいただくことができる内容になっていました。
見どころ
ハラハラどきどきの立て篭もり事件
見どころは何より、自宅に帰ったら殺人犯が家に立てこもっていた小説のメイン事件です。
犯人は殺人犯で立てこもる前に人を何人も殺していて、いつ妻が殺されるかもわからない状態になります。
それだけでどきどきハラハラですが、さらにクライマックスでは新たな真実が見えてくるのです。
事件が一気に動くところは必見です。
ただで終わらない立て篭もり事件、そこにさらなる殺人事件が…っとこれ以上はここでは言えません。
ネタバレになっちゃいますから。
ぜひぜひ読めないクライマックスとどきどきが治らないラストをご自身の目で確認してみてください。
一転二転するクライマックス
クライマックスはまさにチェスのような怒涛の攻撃が小説ないからこちら側に来ます。
ある言葉で「え?は?どういうこと?」ってなる場面が出てきます。
そこから一気にこれまでの疑問や不自然な部分がつながっていくのです。
伏線が徐々に徐々に回収されていき、最後の最後のラストにつながっていくのはとても美しい伏線回収のミステリーでした。
ラストまでどきどきが治らないミステリーは久々でした。
クライマックスの最後の最後までぜひ、油断せずに読んでほしいです。
きっと驚きからのさらなる驚きがあなたを待っています。
ジェットコースターのようなミステリーを楽しめるのが「盤上の敵」の見どころです。
ネタバレあり感想
ここから先はネタバレを思いっきり書いていきますので、ネタバレが嫌な方はまとめの章まで飛んでください。
ではネタバレを含む感想や内容について紹介していきます。
立て篭もり事件のオチ
立て篭もりの事件のオチは、立て篭もり事件の犯人である殺人犯が主人公の手によって殺されるというオチでした。
立て篭もり事件の裏に、実は妻の宿敵である同級生の三木が妻の手によって殺されているという事件が隠れていました。
人質で家にいたのは殺された三木で本物の妻は別の場所で待機させていたという展開は意外も意外でした。
妻を殺したんだな?という犯人の言葉とその後に出てくる妻が喋るシーンによって一瞬頭がこんがらがりました。
その後しっかりと解説とばかいに主人公が語ってくれるのでようやく全てに納得し、伏線のすごさと事件前後が繋がる感じは見事しか言えませんでした。
小説内の伏線とトリック解説
「盤上の敵」の文学的トリックは、女性視点と男性視点の語りが交互に行われて書かれていましたが、実は女性視点が時間軸の前、男性視点が時間軸の後と明確に分かれていたというものです。
女性である妻の視点は元々昔を語るという視点で書かれていて、それは主人公である旦那への独白という形でした。
それが段々と現代の自分の事情に迫っていくという形で、最後の最後は現在の立て篭もり事件に戻ってくるという手法でした。
並行している世界の話だと思ったら完全に、クイーン(女性視点)の話が過去から現在まで、キング(男性視点)の話が現在から事件の結末への視点と綺麗に分かれているのです。
三木を殺してしまった妻をホテルに送り届けた後に、自宅に残した死体の始末をしようとしたとこに、立てこもり犯が入ってきたという皮肉のような運が良いような状態をうまく表現していたと読み返すと思います。
始まりから既に事件は起こっていたのです。
また立てこもり犯の逃すための伏線も見事にはまっていました。
親友の家に何かを借りにいっていた主人公でしたが、その正体は車で主人公の車と親友の車が全く同じ車というのを利用して、立てこもり犯を自宅から逃すというアイデアでした。
追いつかれそうなタイミングで犯人を乗せた車と、妻が乗った別の車が入れ替わることで、警察の追手を撒くところは圧巻でした。
事件の終わり方としても、憎たらしいもの妻の同級生三木と連続殺人犯であり立てこもり犯が二人とも殺されるというオチ。
見る人によっては残酷であると判断するかもしれませんが、僕はなかなかに良い結末だったと思います。
妻が三木を殺してしまったことを忘れていて、今後それを思い出し自暴自棄になる可能性も秘めているという部分にも恐ろしさと共に不安定な締め方が僕的には好みでした。
小説内での哲学とは
「盤上の敵」のもう一つの見どころ、見るべきところが事件の真相の哲学的面です。
三木や立てこもり犯という完全な悪を殺すべきか殺さないべきかという問いかけがあります。
皆さんはどうでしょうか?
これは死刑に関しても同じかなと思います。
死刑があるから犯罪が抑制されるのか、冤罪もあるし死刑でも人を殺すことはいけないこととするのか。永遠のテーマです。
決して答えのあるものではありませんが、「盤上の敵」では確実に殺すことが選択されました。
「盤上の敵」を読み感情移入できる方なら殺すべきと思うことでしょう。
ですが真実は誰にもわからない、本当のところ悪は本当に悪なのでしょうか。
実は全く別の視点で見ると案外悪は違うところにあるかもしれません。
チェスでは黒と白のコマが使われます。「盤上の敵」では悪は黒のコマ、白は主人公サイドのコマとして描かれていました。
基本主人公サイドで描かれる「盤上の敵」は果たして本当に悪ではないのでしょうか?
そんな問いかけもある実に奥深い作品でした。
まとめ
ここから先はネタバレは含みませんので、安心して最後まで読んでいってください。
今回は二転三転するクライマックスが超見どころの「盤上の敵」を紹介してきました。
決着までの盛り上げ方や目を疑うような驚けるトリックはレベルがかなり高いミステリーでした。
最終的な締め方に好みが出てくる部分もありますが、ブラックすぎず綺麗に締め括られるので興奮冷めやらぬうちに本を読み終わることができると思います。
ジェットコースターのようなミステリーをお求めなら是非「盤上の敵」を読んでみてください。
きっと振り回されて読書というじゃじゃ馬に疲れきれるはずです。
では、チェックメイトまで楽しんできてください。
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