殺人鬼が主役の小説に隠されたダブルミーニングの意味にきっと背筋が凍ります。
今回紹介する真梨幸子さんの「殺人鬼フジコの衝動」は久々に伏線回収と驚きの結末に鳥肌が立ちました。
この記事では、「殺人鬼フジコの衝動」の書評とネタバレありの内容解説と考察を書いていきます。
ネタバレをかなり含みますので、ネタバレが嫌な方はあらすじと構成だけ読んだらブラウザバックをお願いします。
では、背筋が凍る世界へ行ってみましょう!
あらすじ
一家惨殺事件のただひとりの生き残りとして新たな人生を歩み始めた少女フジコ。
しかし彼女の人生はいつしか狂い始めた。
「人生は、薔薇色のお菓子のよう」そう呟きながらまたひとり、彼女は殺す。
殺人鬼フジコがなぜ伝説の殺人鬼になってしまったのか。
最後の最後にわかる本当の真実と著者が仕掛けたとんでもないトリックにきっとあなたは戦慄し、震える手でもう一度本を頭から読むに違いないでしょう。
ただの殺人鬼のお話では決して終わらない、背筋が凍る殺人鬼たちのお話をお楽しみください。
本の構成
ページ数
文庫本で全429ページです。
解説部分のみ本編とは関係ないので本編部分は420ページとなっています。
読むのにかかった時間
一日45分くらいの読書時間をとって大体5日間くらいで読むことができました。
約3時間45分かかっています。
基本フジコの視点を三人称として書いているので読みやすさはありました。
難しい単語も使われておらず、抽象的な説明や建物の説明などは少ないので身近な場面を想像でき、読みやすかったです。
構成
「殺人鬼フジコ衝動」は著者である「真梨幸子」ではなく登場人物でもある架空の小説家が書いているという全体像になっています。
なので「はしがき」と「あとがき」は「真梨幸子」ではなく架空の人物によって書かれたものです。
実際あった事件ともありますがそういった事件もなくあくまでフィクションであることを念頭に置いてください。
また読むときは「はしがき」と「あとがき」をしっかり順番通りに読むようにしてください。でないと意味が分かりませんし、話が通じないと思います。
本編とは独立しつつも関係のある話ですので読み飛ばし厳禁です。
小説部は一人称と三人称で書かれており、登場人物も多くはないので(主なところは5人くらい)登場人物の整理をしながら読み進められる内容になっています。
おすすめ度
「殺人鬼フジコの衝動」のおすすめ度は、5点満点中5点。
ぜひ、読んでほしい作品です。
とにかく最後の伏線回収やら衝撃がすごいので、おすすめしたい作品。
ミステリー好きや、結構どんでん返し系を読んできた方にもおすすめできるくらい良い作品だと思いました。
整理しないと、最後の方は人間関係やらがわかりづらくなる点はマイナスですが、それ以上にぜひ多くの方に読んでほしいという内容でした。
殺人鬼フジコの一生(ネタバレあり)
ここからはネタバレを含みますので、ネタバレが嫌な方はブラウザバッグすることを推奨します。
殺人鬼フジコの一生を簡単にまとめました。
・両親、妹を惨殺される
・叔母に引き取られ新たな生活を送り始める
・インコを殺したと勘違いされ、同級生のコサカを殺す
・レコード屋でバイトしている裕也と付き合い始める
・杏奈という同じバイト先の子と親友になる
・杏奈と裕也が浮気していることを知る
・裕也が杏奈を殺していることを目撃し、フジコが止めを刺す
・裕也と共に杏奈の遺体をバラバラにしてゴミ袋に入れ処分する
・裕也の子を身籠もったことと殺人の共犯を武器に裕也と結婚する
・美波を出産し裕也の実家に住むことになるが居心地が悪く保険屋に就職後、裕也と美波と共にアパート暮らしを始める
・裕也が働かず、浮気に走りフジコの頑張りが空回りしていることに気づき、怒りで美波への虐待が始まる
・裕也に愛想を尽かし、美波も押し入れで動かなくなっていたためそれぞれをゴミとして処分することに決める
・新天地で顔を美しく保つために整形を繰り返し、お金持ちの男性に見染められ早紀子を出産する
・男性と結婚し第二子も出産するものの男性の会社が倒産し、極貧生活になってしまう
・ストレスや怒りから簡単なことで人の首を絞め殺すことが常習となってきてしまう
・指名手配される
・夫に指名手配をからかわれるのと現在の生活からの不満から夫を殺害する
以上がフジコの一通りの一生になります。
結構簡単にまとめましたがかなり壮絶で濃密な人生であることがわかります。
小説のトリックと書き方を解説
「殺人鬼フジコの衝動」の小説的トリックは、1章の女の子はフジコの子供早紀子であったというトリックです。
早紀子がいじめられ、同級生を電車に轢かせることで運命が変わるというスタートだった1章はフジコではなかったと言うトリックになります。
全部フジコという一生を描いていると思いきや実は親子二世代に渡る話だったのです。
フジコも早紀子も親からの虐待を受けていて、親と子の関係がずっと続いているというになります。
そしてもう一つの大きなトリックというのが、「殺人鬼フジコの衝動」というのが架空の小説家早紀子によって書かれたものであったことです。
フジコの娘である早紀子がフジコが捕まり死刑が決定したことをきっかけに自分の運命から逃げずに書き上げた小説というのが「殺人鬼フジコの衝動」のもう一つの顔になります。
大したトリックのように思えませんが、実は早紀子もまた殺害されたというのが最後の最後で判明します。どうして早紀子が殺されたのか。
そこがもう一つの鳥肌ポイントなのです。
鍵は、はしがきやあとがきについては早紀子の妹である美也子が書いている点です。
美也子は早紀子が出版前に死んでしまったために自分の手で、美也子と早紀子の母、フジコの真実を語ろうと決意して出版することにしました。
そして最後の最後、あとがきの最後に早紀子は語ります。
「これからフジコの両親と家族を殺した犯人らしき人に事情を聞きにいく」と。
小説が幕を閉じたと思ってもう一枚ページをめくるとそこには、美也子の遺体の一部が発見されたという情報が書かれているのです。
つまり、小説の作者(架空)早紀子とはしがき、あとがきを書いた美也子は共に真実に近づきすぎたために殺されてしまったのです。
フジコとは別のもう一人の殺人鬼が「殺人鬼フジコの衝動」には隠れているのが判明します。
フジコという犯人とは別のもう一人の殺人鬼がいたという事実と、それが身近でしかも殺人鬼の顔をしていないのがまた恐ろしく背筋を凍らせる内容です。
本当の犯人についての考察
早紀子と美也子を殺した犯人は実は、フジコが殺したコサカの母親でした。
ではなぜコサカの母親は早紀子と美也子を殺したのでしょうか?
実はフジコの家族を殺したのもまたコサカの母だったのです。
その事実は小説内部に伏線として描かれており、ピンクの口紅をつけたセールスウーマンというキーワードによって判明していました。
それが明るみに出るのを恐れたコサカの母親は早紀子と美也子の口を塞ぐことにしたというわけでした。
とまぁここまでならまだ、あーこわ!で話は終わるはずでしたが、もう一つの真実があるのです。
それがコサカの母がどうしてフジコの家族を殺そうとしたのかという謎と関わってきます。
ここで鍵になるのがフジコの叔母で、早紀子や美也子の大叔母にあたる茂子という存在です。
実はこの茂子が黒幕なのです。フジコを引き取って面倒を見たり、早紀子のことも面倒を見たり一見優しそうで温厚な茂子こそが全ての元凶であり極悪人だったのです。
茂子はフジコの両親に多額の保険金をかけ、コサカの母親には茂子の宗教に勧誘し洗脳することで茂子の言う通りに動くようにコントロールしていたということになります。
一旦複雑になりすぎた人間関係を図にまとめましたので、参考にしてください。
主人公のフジコは叔母が両親にかけた保険金目当てで人生を滅茶苦茶にされたという見方もできます。
つまり極悪人はフジコだけではなかったという恐ろしい結末なのです。
僕はこの結末を知ってもなお「殺人鬼フジコの衝動」をもう一度読みたいと思ってしまいます。
それほど、茂子は巧みにことを運びつつ、読者にはそれとなくヒントを出していたのです。
まさに伏線が張り巡らされていたことに気づくのです。
「保険金」と「セールス」と「宗教」、そしてコサカの母というキーワードに注目するだけで「殺人鬼フジコの衝動」が一度目よりも二度目三度目の方が何倍も楽しめると思います。
ぜひ、もう一度背筋を凍らせてください。
まとめ
今回は久々に背筋が凍った「殺人鬼フジコの衝動」というミステリー小説についてかなりネタバレを含みつつ紹介してきました。
伏線をぜひ意識して読んでもらいたい作品です。
最後の最後で逆転ではなく新事実が発覚する系のミステリーとしては最高峰の出来だと思います。
このネタバレ解説を読んだ後にもう一度ぜひ読んでもらいたいです。
きっと殺人鬼フジコの見え方が変わってくるはずです。
背筋が凍り、鳥肌が止まらないミステリーを何度も味わえる作品は久々、いえハサミ男以来だと思います。
ぜひもう一度、震えるほど恐ろしく伏線回収に絶句する読書時間をお過ごしください。
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