人を殺す正当な理由あるでしょうか?
何人も人を殺した犯罪者なら殺しても構わないでしょうか?
相手が殺してくれと懇願してきたら殺しても良いのでしょうか?
今回紹介します横山秀夫作の「半落ち」は、アルツハイマーの妻を殺害したいう事件をテーマとしています。
「半落ち」のあらすじから、僕のネタバレなし感想とネタバレありな感想についてここでは書いていきます。
皆さんの小説選びの参考になれば嬉しいです。
では、行ってみましょう!
あらすじ
「妻を殺しました」と言って自首してきた警察官・梶聡一郎。
アルツハイマーを患う妻に殺してくれと懇願されたのち嘱託殺人という形で妻の首に手をかけてしまったのだ。
動悸も経過も素直に明かす梶だったが、なぜか殺した日から自首までには空白の二日間があった。
警察官が尋問するも梶は頑なに二日間の話だけは拒んだ。
果たして、嘱託殺人に隠された真実とは、二日間の意味とは。
最後に明かされる悲しくも切ない思いのこもった話にきっと涙する。
一つの事件に複数の主人公
「半落ち」は特定の主人公が最後まで一人で事件解決をするという作品ではありません。
事件自体は一つ、梶聡一郎が起こした嘱託殺人ですが視点は章ごとに変わっていくスタイルをとっています。
梶聡一郎が捕まって、起訴されて、裁判で実刑を受けて、囚人となって牢屋に入るところまでをまるでベルトコンベアーに乗っているがごとく主人公の視点を変えながら描かれる作品となっています。
実際に「半落ち」の中でもベルトコンベアーという表現が出てきますが、小説自体もベルトコンベアーのように一つの事件に対して複数の視点というアプローチで描くという表現方法がなされているのです。
章ごとに視点が変わるので人物名が結構出てきてややこしい部分もありますが、人によって同じ事件でも見方が変わるというのを見事に描けている作品だとも思いました。
文学的に非常に面白い書き方をしていますが、もちろんミステリーとしても楽しめました。
梶という警察官が起こした嘱託殺人の後の空白の2日間について、最後の最後で明かされるのはやはりミステリーの醍醐味らしく盛り上げ方も上手かったです。
伏線回収で見事!ってほどじゃないですが、きちんと論理立てられ、最終的に誰もが納得するオチになっていると感じました。
アルツハイマーでどんどん自分が壊れていったら、あなたなら殺してくれって思いませんか?
僕は正直そう思ってしまう気持ちもわかるような気がしました。
自分が一番辛いけど、それ以上に周りに迷惑をかけてしまっているような気がしてしまう。
そこから生まれる「殺してくれ」という言葉。
「半落ち」ではそんな懇願を受け、嘱託殺人を行った一人の警察官を主軸に話が進みます。
嘱託殺人が良いわけはありません。
人殺しは人殺しですから。
でも、ほんのちょっとだけ許される殺人があるなら…と考えさせられる内容だと思います。
そして、最後の結末に納得と共に涙するかもしれません。
そんな空白の二日間の真実をあなたの目で確かめてみてください。
正直、単調で退屈な流れ
「半落ち」は読み進めていくと眠くなるかもしれません。
主人公が入れ替わるが故にどうしても単調な印象を受けてしまうのです。
一人目はまだ、耐えられます二人目もただ三人目くらいで残り200ページ弱ある時点でまだ、空白の2日間の謎は全く解けないのです。
ヒント自体も最初の章で明かされた分だけでずっとモヤモヤさせられるんです。
そして最終的に謎は解けるものの、最後の最後までわからない形になっているので、もどかしいんです。
なんなら最初の警察官の章と最後の刑務官の章さえ見れば話が繋がるレベルくらい途中の進展は少ないです。
なので主人公を立ち代わりにすることで複数の視点から一つの事件を追える面白さはあるものの、単調さと飽きが生まれてしまうのです。
ミステリーとしてのスピード感が遅いというのは事前に覚悟しておく必要があると思います。
もちろんミステリーのオチとしては感動的なものになっているので、安心してほしいです。
伏線も一応は貼っているくらいの印象でした。
なので伏線で震えたい方にはあまり向いている本ではないと感じました。
ネタバレあり感想
ここからはネタバレありの感想を書いていきますので、ネタバレが嫌な方は次のまとめ章まで飛んでください。
では、ネタバレありの感想いきます。
最終的に空白の2日間は新宿歌舞伎町のラーメン屋に行っていたのが真実でした。
ラーメン屋で働く、梶が提供した骨髄で生きている青年に会いに行っていたというのがオチでした。
青年が最後に「もう一人のお父さん」という言葉は非常に感動しました。
骨髄移植すると血液型まで変わるなんて知りませんでした。
そこまで影響のある骨髄移植なら確かにもう一人の父親と言っても過言ではないと感じました。
白血病と嘱託殺人をうまく融合させた良い作品だと思いました。
息子が白血病で亡くなっていたというのも実は伏線だったのです。
そして梶という犯罪者の目が澄んでいたのも信じるものがあったという現れでした。
正直想像のまったく外というわけではなかったですが、オチとしては綺麗な形ですが震えるほどの真相ではなかったのはちょっと残念でしたが、読後感は清々しいものがあってよかったです。
オチがすごいほどじゃないですが、僕は嫌いなオチではありませんでした。
正直短編でも良いと思うようなオチですが、長編としも十分楽しめたとは思います。
まとめ
ここからはネタバレはないので安心してください。
今回は「半落ち」という小説について紹介してきました。
嘱託殺人という考えさせられるテーマで話が進み、感動的なオチが待っているという作品でした。
主人公を固定せず、いろいろな視点で事件を見れるのは面白い試みでしたが、若干退屈さが出てしまいました。
多少読み飛ばしても、話は通じるので気軽に読んでみてください。
オチの驚きは少ないものの綺麗にまとめられているので、万人ウケする小説だと思います。
また、警察に捕まってから囚人となるまでの流れもわかるのでそういった部分でも楽しめると思います。
長編ですが短編感覚で楽しめる作品です。
気軽に読んでみてください。
では、空白の二日間が明らかになった時にまた会いましょう!