生命保険は現代版の懸賞金なのでしょうか?
死んだ時に入るお金が生命保険ですが、それを狙った殺人なんてあってはならないものです。
今回ご紹介する貴志祐介さんの「黒い家」はそんなテーマのホラーミステリー小説になっています。
恐ろしい犯罪者と生命保険がミックスされた背筋が凍る内容に仕上げられているのです。
この記事では、そのあらすじを紹介しつつ、書評、一部ネタバレありの解説を行なっていきます。
では、行ってみましょう!
あらすじ
若槻は生命保険会社の京都支社で保険金の支払い査定に忙殺されていた。
ある日、顧客の家に呼び出されると、子供の首吊りしたいの第一発見者になってしまう。
ほどなく、死亡保険金が請求されるが、顧客の不審な態度に子供の親が自殺に見せかけて殺したのだと確信する。
独自の調査に乗り出すものの、信じられない悪夢が待ち受けていることに徐々に気づいていく。
ただの自殺ではない裏に潜む戦慄が止まらない恐怖の連続サスペンス。
果たして、本当の悪とは何のか。
若槻は無事に保険金殺人の真実に辿り着くことができるのか。
本書の概要
ページ数
文庫サイズの解説含めず388ページで、全392ページです。
読むのにかかった時間
だいたい5時間ほどで読み切ることができました。
構成
若槻を主人公と視点にした三人称視点で書かれる文体でした。
怖い雰囲気はホラー要素、真実に辿り着くまではミステリーという内容の長編小説になります。
書評(ネタバレなし)
サイコホラー型のサスペンスというのが、「黒い家」でした。
後半はかなり怖くて、ハラハラドキドキが止まりませんでした。
序盤は退屈な部分があったのですが、中盤あたりから主人公・若槻への嫌がらせあたりから恐怖に変わっていきました。
法律を犯さないギリギリの嫌がらせってタチ悪いなという気持ちと、自分がされたら怖いという恐怖の感情でいっぱいになったのです。
皆さんだったらどうしますか?
無言電話に、勝手にポストに入った手紙を開封されたりしたら。
無言電話なら着信拒否で済みそうですが、ポスト勝手に開けられるのはどうしようもなさそうで怖い気持ちになりました。
また、保険金狙いの殺人というテーマも怖いと当時にありそうという気持ちが強く出てきました。
保険金というお金を狙った徹底的までのサイコパスというテーマが、実にリアルに描かれているのです。
決してあってはいけない保険金狙いの殺人ですが、貴志祐介さんが描くとリアルすぎて絶対ある!って思えちゃうんですよね。
テーマ的にも怖いですし、書き方としても怖い感じがする実に面白い内容でした。
最終的な部分はここでは書きませんが、割とスッキリめの終わり方だったなという印象です。
伏線は決して凄くはありませんが、しっかりとミステリー要素もあるホラーサスペンス、面白かったです。
あらすじ・要約(ネタバレあり)
ここからはネタバレを含みますので、ネタバレが嫌な方はまとめの章まで飛ぶようにしてください。
若槻が事件に巻き込まれてからのあらすじをネタバレありで、要約していきます。
若槻は菰田重徳に呼び出され、重徳の異臭を放つ家で子供の死体の第一発見者になりました。
重徳の仕草から重徳が子供を殺した張本人であると推察した若槻は、彼の犯行を裏付けるために保険会社という職を利用しながら調査をし始めます。
調査を進めると重徳の怪しい過去と、死んだ子供は妻である菰田幸子の連れ子だったことがわかります。
家庭事情や小学生時代を知る中で、重徳が感情を有しないサイコパス犯罪者であることが見え隠れしてきて、若槻は保険金狙いの殺人だと断定して保険金を支払わない形を取っていました。
保険金目当てで生活していた重徳は、そんな若槻の態度に腹を立て、無言電話や若槻の自宅の郵便物を勝手に開けるなどの嫌がらせをし始めました。
若槻はそんなストレスで、ノイローゼ気味になるものの、重徳の悪行を許さない態度で生活を続けます。
しかし、そんな中重徳の完璧なアリバイが証明され保険金が振り込まれることに決定しました。
疑問や不満が残る中、若槻は重徳との関わりを断てられることに安堵します。
ゆっくりできる時も束の間で、今度は重徳が両腕を失う重傷を負う連絡が入り、これまで保険金狙いで事件を起こしていたのが重徳ではなく妻の幸子だったことがわかるのです。
幸子は実の子供を自殺に見せかけ殺し、保険金を手に入れ、さらに夫である重徳の両腕を切り落としてさらに保険金を手に入れようとしました。
ですが、さすがにそんなことは許されず、保険金が振り込まれないことを若槻が幸子に告げると、今度は腹いせに若槻を殺すことを計画し出す幸子だったのです。
家に侵入された形跡があり、再び無言電話という嫌がらせも再開します。
幸子が全ての黒幕でサイコパスであることが判明し、若槻はさらに警戒を強めます。
そんな時に、若槻の恋人である恵が幸子に拉致されていることが判明するのです。
若槻は恋人を救い出すために幸子の自宅へと乗り込むと、他の死体たちにも出会いました。
幸子は実の子供以外にも自分の不都合となる人物を殺していたサイコキラーでした。
何とか恋人を救い出すことができた若槻でしたが、幸子は警察から逃げる結果となり、一件落着はまだつきません。
残業をしていたある日、一通の電話から幸子がまだ若槻の近辺にいて命を狙っていることが判明します。
ついに殺人決行日が今日だとわかり、逃げようとするも会社に閉じ込められてしまう若槻。
外に連絡しようにも電話線を切られ、完全に孤立します。
果たして若槻は、無事に脱出できるのか?
ネタバレと言いつつ、この記事ではここまでにしておきます。
若槻がどうなるかはぜひ、自分の目で確かめてください。
解説(ネタバレほとんどなし)
解説部では、「黒い家」のメッセージ性について紐解いていきます。
「黒い家」のメッセージは保険金と殺人に尽きると思いました。
保険金は人が働けなくなったり、命を失った場合にお金がもらえるものですが、それを悪用する輩というのがテーマになっています。
ある種の懸賞金とも言える制度が、果たして意味があるのか、きちんと機能しているのかを訴えかけるメッセージがあるのです。
皆さんはどう思いますか?
確かに、困った時に役に立つという面では保険金という制度は非常によくできています。
しかし、悪用しようと思えばできてしまうのも保険金の制度なのです。
「黒い家」で出てくるほどサイコパス的に、人間を飛び越えた感情で動くことはあり得ない話だと思いますが、実現されてもおかしくない恐怖があります。
制度では防げない悪というものがわかるという意味でもこういったテーマを考えることには非常に意味があると思いました。
「黒い家」の中では、社会保障の充実のせいでサイコパスが生まれるようになったという話もありました。
あくまでフィクションの話ではあるものの、かなり論理が通った話であるとも感じました。
愛の欠落がサイコパスを生み出すという論理で、中々考えさせられる内容でした。
普通の人とサイコパスの違いは果たして何なのか、考える良いきっかけになりました。
まとめ
今回は、貴志祐介さんの「黒い家」を紹介してきました。
今回は保険金殺人とサイコパスというわかりやすいテーマで、かなり恐怖を上つけてくれる作品でした。
リアルでありつつも、あったら絶対に嫌という恐怖をうまく織り交ぜてくれる作品だと感じました。
恐怖を味わいつつも、ミステリーも味わいたいという方におすすめの一冊です。
貴志祐介さんの作品にハズレなしですね!
では、皆さんの読書ライフがより良いものになることを祈っています。
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