俳優をあきらめたら何の職業になればいいのか?
その一つの道として警察官なんてどうでしょう。
今回紹介する堂場瞬一さんの「アナザーフェイス」は刑事ものには珍しい、元俳優の刑事が主人公となっています。
元俳優だからこその観察眼と記憶能力が光る作品です。
この記事では、そんな「アナザーフェイス」について書評、おすすめ度、一部ネタバレありの解説・要約を行っていきます。
では、いってみましょう!
あらすじ
警視庁刑事総務課に勤める大友鉄は、息子と二人暮らし。
捜査一課に在籍していたが、妻の事故死によって育児との両立を考え、異動を志願して二年が経った。
そこに、銀行員の息子が誘拐される事件が発生した。
元上司の福原は大友の、元俳優ならではの能力を買っていたため、特捜本部に大友を投入する。
刑事らしくない刑事の大友は事件を解決することができるのか。
誘拐事件に隠された悲しい家族の物語とは?
本書の概要
ページ数
解説、あとがきはなく、文庫サイズで全428ページでした。
読むのにかかった時間
テンポ良く読むことができ、大体5時間ほどで読み切れました。
構成
全三章に分かれている構成で、一つの事件に対しての進捗で分かれていました。
事件編、調査編、解決編という感じです。
大友鉄を主人公とした三人称視点で描かれる文体になっていました。
書評(ネタバレなし)
ミステリーというよりかは、刑事モノ!というのが僕の感想です。
鳥肌が立つような伏線回収やら衝撃的すぎるオチ、というのはなく一人の刑事が能力を活かして事件をまるっと解決する内容となっていました。
僕としてはもう少しパンチのある展開やらがあってもいいなと感じてしまいました。
2時間ものの推理サスペンスが好きな方にはぴったりだろうなという作品で、まさに刑事ものって感じです。
「アナザーフェイス」では、主人公・大友鉄は元俳優の卵という設定でした。
この設定は面白く、事件解決に結びつける手法もなかなか良かったと思いました。
俳優だからこそ人の一挙手一投足を見逃さない、俳優を目指すだけあって顔が良く、人の心に響く言葉もかけやすい。見事な能力だと思います。
しかも全てがリアルに描かれているものいいと思いました。
相手の心理が全て見えるなんて特殊能力ではなく、あくまで現実の人間が持っていそうな能力というのが「アナザーフェイス」の魅力だったかなと思います。
その分、フィクションである突拍子もなさがないので、僕としては物足りない印象でした。
逆に、フィクションでありながらも現実に近い刑事ものが好きという方にはぴったりなのではないでしょうか。
刑事は暑苦しいもの!多少乱暴でも真実のためなら…!という印象とは全く異なる、一風変わった刑事を楽しむことが「アナザーフェイス」だとできます。
ミステリーよりも刑事ものが好きな方はぜひお手に取ってみてください。
おすすめ度
おすすめ度は5点満点中3点です。
僕自身が、刑事物よりもミステリーの方が好きなので、ちょっと辛めの採点になっています。
内容としてはしっかりと事件があって、当初とは異なるオチに繋がっている感じは面白かったです。
見事に最初に出てきた言葉とかも伏線として回収されてきましたから。
ですが、やはり驚きを小説に求めている僕としては想像の域を出なかったと思いました。
ミステリー好きとしては、オチをもっと奇抜で残酷なものであってほしかったです。
刑事物としてはストーリーに引き込まれますし、誘拐というハラハラドキドキのある事件なので読みやすいと思いました。
ミステリー好きじゃなく、刑事ものであるのを承知で読むのがぴったりな作品だと感じました。
要約・あらすじ(ネタバレあり)
ここからはネタバレを含みますので、ネタバレが嫌な方はまとめの章まで飛ぶようにしてください。
では、ネタバレありの要約・あらすじからやっていきます。
刑事総務課で働く主人公・大友鉄(おおとも てつ)の元に事件の連絡がやってきます。
銀行員の息子である貴也(たかや)5歳が誘拐されたとのことでした。
捜査一課ではない大友にとって、事件はあくまで人ごと自分は総務課の仕事をするものだと思っていましたが、元上司の福原から大友へ連絡がありました。
「お前も参加しろ」と
元捜査一課であるものの、妻の交通事故によって息子と二人暮らしになったので大友は息子のため家事との両立という理由で異動していました。
一度は断るものの、福原に説得され事件捜査に参加することになります。
息子は妻の母親に預け、事件へと首を突っ込んでいくのです。
大友は元俳優ということもあり、言葉巧みに相手の心に入っていくのがうまく、誘拐の被害者である両親との心の距離も埋まっていきました。
事件は、単純な誘拐で一点変わっている点が身代金の要求を銀行に行ったということでした。
銀行員の息子を誘拐しているということもあり、個人よりもお金が出やすいのだろうと推理した警察たちは、銀行の意向も聞いた上で要求額の1億円を準備しました。
そして、いざ身代金の受け渡しです。
誘拐事件の9割がこの身代金の受け渡しで捕まるので、警察もかなり力を入れて準備をしていましたが、東京ドームのコンサートを利用した受け渡しによってまんまと1億円を奪われてしまいました。
貴也は無事に帰ってきたものの、これでは警察の面目が丸潰れです。
警察は貴也が無事に戻ってきたものの、犯人を追い続けます。
大友は被害者家族の事情聴取に割り振られ、彼らの話を聞きにいきました。
貴也は誘拐のショックにより一時は話せない状況にもなりましたが、大友の人の心に入る技術により段々と口を開くようになり、犯人の目星がついてきました。
また、受け渡しの際に利用したコンサートの参加者を洗っていた警察側でも動きがあり、受け渡しを見たという人から誰が受け渡しに関わったかまで判明させることができました。
両面から攻めることで、ついに犯人を暴くことができました。
しかし、引っかかることが出てきました。
犯人を追い詰める中で、犯人たちは町工場の社長とその社員だと分かったのです。
さらにその町工場はつい最近まで、銀行から借金1億円を借りて破産寸前だったのにも関わらず急に借金返済ができました。
動機はここにあるという目論見を立てた警察、真実はさらに先にありました。
実は、銀行が無理やり貸した1億円だったのです。
銀行はお金を貸すのが仕事ですが、きちんと貸す側の工場や会社がしっかりしているのか確認する必要がありますが、それをせず犯人たちの町工場にお金を貸していました。
そう、銀行は不正をしてお金を町工場に融資していたのです。
そして不正がバレるのを恐れた銀行員が町工場をそそのかし、誘拐を企て銀行からお金を奪った犯人が銀行にお金を返すという、結論としては銀行のお金はプラマイゼロという行為を行いました。
大友はこの結論に推理と情報収集能力で辿り着き、ついには真犯人である貴也の父親を逮捕する結末となりました。
タイトルに隠された意味を考察(ネタバレあり)
今回はタイトルに隠された意味について考察していきます。
「アナザーフェイス」日本語に訳すと「もう一つの顔」です。
これは主人公である大友鉄が、元俳優で色々な顔を持っていたという意味と、父親である顔と刑事の顔という意味があるのだとシンプルに考えると思われます。
僕はここに、真犯人である貴也の父親も、意味として含まれていると思うのです。
貴也の父親は、銀行員として働き家族のために頑張る父親という顔。
そして、保身のためなら息子すら利用する悪者の顔です。
この二つの顔を意味するタイトルでもあると考えています。
さらに、他にも人には正義と悪の二つの顔が見え隠れするそんな意味がタイトルに込められていると随所で「顔」という言葉が頻発することから推測されます。
ぜひ、本書を読み直して「アナザーフェイス」見つけてみてください。
まとめ
ここからはネタバレないので、安心してください。
今回は、堂場瞬一さんの「アナザーフェイス」を紹介してきました。
刑事ものはあまり読みませんが、楽しく読むことができました。
刑事が活躍する小説が読みたい方は、ぜひ「アナザーフェイス」お手に取ってみてください。
タイトルの意味に注目すると面白さ倍増しますので、注目です。
では、皆さんのアナザーフェイスが明らかになることを祈っています。
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