眠り続ける恋人に送る物語。
フィクションの中のノンフィクション、という奇抜ながらも素晴らしい作品が今回紹介する浦賀和宏さんの「眠りの牢獄」です。
異なる視点の二つの話が収束する時、驚きの結末へ誘ってくれる作品。
この記事では、そんな「眠りの牢獄」のあらすじから、書評、一部ネタバレありの要約を行なっていきます。
では、いってみましょう!
あらすじ
階段から落ちた恋人・亜矢子は意識不明のまま昏睡状態に陥っている。
それから五年、浦賀は亜矢子の兄に呼び出され、友人の北澤、吉野と共に階下の地下室に閉じ込められる。
亜矢子を突き落とした犯人を見つけると言う兄。
少ない手がかりで犯人を見つけようとする中、事件は二つの遺体で急変する。
ネットという外部で進行するのは代理殺人計画。ただ、その本当の目的は驚愕するものだった。
果たして浦賀は無事に地下室から脱出できるのか。
代理殺人と、監禁事件、どう結びついてくるのか?
本書の概要
ページ数
解説含めず236ページ、全246ページでした。
読むのにかかった時間
大体3時間半ほどで読み切ることができました。
構成
奇数と偶数の章で展開される話が異なりました。
奇数章では浦賀が主人公で一人称の監禁事件の物語、偶数章では冴子という主人公の一人称交換殺人計画事件。
並行して話が進む中で、最後の最後には事件が交差する構成でした。
書評(ネタバレなし)
生々しい表現の先の、仕掛けの盛りだくさんに驚愕!!というのが僕の感想です。
生々しい表現というのは、ちょっとエッチな表現だったりをさしていて、久々にここまでうまく表現された描写を読んだ気がしました。
そこからの一気に謎が展開していく様子は圧巻でした。
二重三重と仕掛けられていた驚きポイントをモロに喰らって、フラフラしながら本を閉じる結果となり、伏線回収が素晴らしい一冊といって過言はありません。
伏線慣れしている僕ですら、かなり驚きを食らったので中々にレベルが高い伏線回収、どんでん返し系ミステリーだと思います。
最終的なオチの部分はちょっと悲しさが残る感じで、僕としては好みでした。
ただ若干、主人公に感情移入しきれない部分が残念かな、と思いました。
とはいえ、実は感情移入できないのもトリックの一つだったと考えると、やはり素晴らしい一冊だったとは思います。
おすすめ度
「眠りの牢獄」のおすすめ度は、5点満点中3.5点です。
話としては非常に面白く、伏線回収も良くて好きなのですが、艶かしい表現部分でおすすめ度を下げています。
学生さんにはちょっと早すぎる話な部分が多いので、ちょっとおすすめしない感じですね。
表現がリアルかつ艶かしいので、官能小説かな?と思ってしまうシーンもありました。
そういった面でおすすめ度を下げてはいますが、非常に良い作品であることは間違い無いです。
特に後半の話がつながっていく様、伏線が鮮やかに回収される様子が特に良かったと思います。
要約・あらすじ(ネタバレあり)
ここからはネタバレを含みますので、ネタバレが嫌な方はまとめの章まで飛ぶようにしてください。
では、ネタバレありの要約・あらすじからやっていきます。
浦賀と亜矢子が結ばれた翌朝、北澤と吉野が待つ地下室に向かう階段で何者かに押されました。
階段を落ちる二人。
浦賀は翌日目が覚めたものの、亜矢子はそのまま昏睡状態となってしまいました。
それから5年後、北澤に亜矢子の兄から呼び出しがあったことを連絡します。
5年の月日が経っていたので、多少怪しむものの浦賀、吉野、北澤は亜矢子の兄が待つ家へ向かいます。
亜矢子の兄は、そこで浦賀と吉野、北澤を地下室に閉じ込め、亜矢子を突き落とした人物を自分たちで見つけ出せ、そうで無い限り地下室から出さない。と言い出します。
監禁状態になった三人。
食料と水の確保はでき、今日のところは寝ることになりました。
しかし、その翌日、北澤の首吊り遺体が見つかります。
慌てふためく中、地下室の扉が向こう側から開くのです。
冴子は嫉妬深い女でした。博という彼氏に振られたことを根に持ち、ストーカーまがいの行動をしていました。
そんな中、SNSで見つけた沙羅子という人物と連絡を取り合い、お互い恨んでいる人物を殺そうとなるのでした。
博を殺して欲しいと願う冴子に対し、沙羅子は昔襲われた首謀者である新堂太一を殺して欲しいと言います。
沙羅子の本気度に押され、交換殺人を計画実行する冴子。
そして新堂太一は殺されました。
浦賀の視点に戻り、亜矢子の兄である新堂太一が死んだことで、警察によって発見された浦賀と吉野。
浦賀は独自の調査と洞察力で北澤博が冴子を使って、亜矢子の兄・新堂太一を殺そうとし実行したと推理します。
沙羅子=北澤、冴子の彼氏・博=北澤だったのです。
北澤は亜矢子の兄とは親戚で、死ぬことで遺産を手に入ることを知りどうにか殺そうとしていたわけでした。
それらを暴いたのち、北澤がどうして首を吊ったのか疑問に思いました。そして吉野こそが首吊りを実行させたと暴くのです。
吉野にそのことを告げると、吉野は凶変し、浦賀に襲いかかりました。
浦賀は実は女性で亜矢子とは女性同士で愛し合う恋人同士というのがここでわかります。
浦賀は体を蹂躙され、そのショックで吉野を殺すのでした。
浦賀はその足でこれまでの自分の経験を小説に嗜めた原稿を持って、亜矢子の病室に行きます。
そして、病院の屋上から飛び降りました。
しばらくして亜矢子が目覚めると、そこには眠る浦賀の姿があり物語は幕を閉じました。
オチの解説(ネタバレあり)
ネタバレ続きます。
今回の物語で重要だったのは、登場人物が実は少ないという点です。
冴子の彼氏は北澤で、沙羅子も北澤。この一人で二人をやっていたところで騙されて驚けるポイントでした。
さらに、新堂太一というのが実は亜矢子の兄というのも上手いところで、これまた冴子視点ではレイプ犯、浦賀目線では亜矢子の兄、というのが絶妙にわからなく書かれていました。
最終的にはこの交換殺人によって、事件は明るみになり浦賀たちも助かったわけです。
北澤はお金のためと振った冴子をどうにかするための計画で、動き、最後には吉野に監禁状態から解放されるために殺された。ということでした。
そして何よりの伏線と驚きポイントが浦賀=女だったというところ。
言われてみれば、友達に好きだと告白されていたり、監禁状態の時に身の危険を回避するためにナイフを所持したりしていたのが伏線となっていました。
てっきり、好きだといってきた友達が単純に男が好きなのだと思ってしまいました。
「僕」という先入観に騙される初歩的な仕掛けでしたが、僕はすっかり騙され驚かされました。
人物の性別や特定をうまいこと隠しながらハラハラドキドキさせる手法というのがこの「眠りの牢獄」の良いところでした。
あえて書かなかった部分などもあるので、ぜひ、本書も読んでみてください。
まとめ
ここからはネタバレないので、安心してください。
今回は、浦賀和宏さんの「眠りの牢獄」を紹介してきました。
伏線がすごい小説として僕史上にもきっちりと足跡を残してくれた作品。
艶かしい分、おすすめ度を下げてはいますが、大人な方はぜひ読んで欲しいです。
では、皆さんの読書ライフがより良いものになることを祈っています。
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