全ての真実が明るみに出るべきなのか?
誰かのために真実を覆い隠さなければいけない時、あなたならどうしますか?
今回紹介する小杉健治さんの「連鎖」はまさにそんな感じの一冊でした。
不倫相手を指した人妻は、実は不倫なんてしていなかった。本当は…という内容で、タイトル通り連鎖的に謎が解けていく一冊になっています。
この記事では、あらすじから、ページ数、一部ネタバレありの内容要約を行っていきます。
では、いってみましょう!
あらすじ
河合しずかは、不倫相手の作家・諸岡を刺殺して逮捕された。
弁護人となった鶴見京介は、静香が殺害を認めながらも不倫を完全否定し、困惑する。
不倫ではない本当の理由を聞くと、しずかは黙秘した。
調べていくと、二人には枝川という画家との接点が見つかった。
枝川はしずかと同じ京丹後の生まれで5年前に自殺していた。
罪で繋がった関係、果たして鶴見にこの複雑に絡み合った鎖を解き明かすことができるのか。
しずかが本当に隠したかった真実とは何か。
本書の概要
ページ数
解説含めず、291ページ、全297ページでした。
読むのにかかった時間
非常に読みやすい文体で、だいたい3時間ほどで読み切ることができました。
構成
三人称視点で書かれた文章で、鶴見京介を中心に描かれています。
鶴見京介という弁護士のシリーズになりますが、他シリーズを読まずに本作を楽しむことができる構成になっていました。
書評(ネタバレなし)
過去の話が見事に現在の事件につながっていた!というのが僕の感想です。
人妻が隠している本当の真実というのがちょっとずつ見え隠れして、多分こうだろうなと思った簡単なオチにはならない点もよかったと思います。
複雑じゃないけど、シンプルすぎない、バランス感覚が秀逸な一冊だと思いました。
文体も非常に読みやすく、改行が多めで情景らへんの表現が少ないので漫画に近い感覚でスラスラと読めてしまいます。
オチに驚きがあるかと聞かれると、イマイチかなとは思います。
確かに連鎖というタイトル通り、過去の出来事が今回の事件に絶妙に絡んでくるのは素晴らしかったです。
ですが、その真実に驚いたかと言われると驚きはしません。
伏線がすごくて鳥肌が…というのもなかったです。
2時間ドラマのような見事に組まれたプロットによる、軽く読んで面白いミステリーという印象になります。
登場人物が少なめなのも読みやすかった点になります。
無駄に登場人物ばかりが増えて、犯人や真実を推測しづらくする手法はありますが、「連鎖」はそいった手法をやらずにオチを推測させない技がありました。
見え隠れしながらも最後の最後まで真実を隠す技術はとんでもなかったです。
だからこそ、過去の話が見事に現在の事件につながっていて感動したという感想になるわけですね。
おすすめ度
5点満点中おすすめ度は、3点です。
万人に受けるであろう内容と表現、登場人物がスッキリしているのでとにかく読みやすいです。
ミステリーとしてもオチが見事に伏線から暴かれるのも良くて、過去が見え隠れするもわからないというのでページをめくる手が止まらなくなるのもよかった。
とはいえ、僕が好みとしている小説で鳥肌が立つ。しばらく放心してしまうミステリーという点では「連鎖」はそこまでではありませんでした。
なので、おすすめだけど、もっと驚ける小説の方が読んでほしいという評価です。
僕は結構辛めの評価をするので、ぜひ一度読んでみてください。
要約・あらすじ(ネタバレあり)
ここからはネタバレを含みますので、ネタバレが嫌な方はまとめの章まで飛ぶようにしてください。
では、ネタバレありの要約・あらすじからやっていきます。
鶴見京介は、河合しずかの弁護人として河合しずかが隠す真実を調査することにしました。
調査をする中で、河合しずかの自宅に飾ってあった絵に注目し、枝川という画家にたどり着きます。
さらに、諸岡もまた画家・枝川との関連があることを知ります。
この関係をキーとして調査をさらに進めていくのです。
すると、18年前に一人のカメラマンが殺された事件にたどり着きます。
その事件は未解決で、一旦は深田恭一郎という人物が捕まっていたのです。
証拠不十分で深田は、一度は捕まったものの解放されました。
しかしカメラマンが殺された事件、3年後に事故死していました。
鶴見京介はさらに調査を進めると、深田恭一郎の息子が諸岡であることを突き止めます。
河合しずかもまた、殺されたカメラマンにモデルとして写真を撮ってもらう予定があったこともわかるのです。
枝川は写真を撮ってもらう場所にスケッチブックを持ってよく出かけていたという情報も手に入れます。
これらの情報をもとに鶴見京介はある答えに行き着きます。
人気のない公園で、モデルの仕事と偽り、美人だった河合しずかはカメラマンに、強姦されそうになった。
その声を聞いた、たまたまスケッチをしにきていた枝川が助けに入り、誤ってカメラマンを殺してしまった。
その現場に出くわした深田恭一郎は、中学生がやったことであるから隠蔽しようとした。
結局隠蔽はうまくいき、事件は未解決となった(深田は一度捕まったものの)
3年後、深田恭一郎は一度捕まったことにより教師という職を追われ、自暴自棄になり車で自殺を図り事故死となっていたと推理します。
そして、深田恭一郎が息子である諸岡に残した日記に、河合しずかと枝川とのカメラマン殺人事件の真実が書かれていました。
真実を知った諸岡は、ちょうど枝川が画家として少しずつ売れ出してきたタイミングで、枝川に接触します。
順風満帆に画家の道を歩まれるのが気に食わなかった諸岡は、枝川をカメラマン殺人事件の犯人として糾弾し、さらに諸岡の父・深田恭一郎もお前に殺されたようなものだと詰めました。
枝川は後悔の念で諸岡に促され、青酸カリを飲んで自殺したのです。
河合しずかは、その真実にたどり着き諸岡に会いにいきました。
自殺教唆であることを認めてほしいと詰め寄ったところで、諸岡は逆上し、河合しずかを殺そうとしました。
その正当防衛として河合しずかは諸岡を殺してしまう結末になったのです。
これが河合しずかが隠していた真実になります。
河合しずかは真実を暴かれてもなお、鶴見京介に対して、真実を明るみに出さずに弁護してほしいとお願いします。
カメラマンの娘が強姦をしたとの真実を明るみに出したくないというのです。
優しすぎる河合しずかの言葉を聞いて、鶴見京介はどうするのか。
ここで物語は終わっていました。
タイトルと3枚の絵の解説(ネタバレあり)
タイトルの「連鎖」とはまさに真実が連鎖のようにつながっていることを表現していました。
また、本書冒頭に出てくる3枚の絵というのも見事に伏線となっていたのです。
3枚の絵というのは河合しずか、枝川、諸岡(深田恭一郎)の3人を表していて、3人というのがキーワードであることを序盤から仄めかしていました。
3人が18年前の事件というキーワードで繋がったからこそ、真実に辿り着くこともできました。
まさに繋がりが「連鎖」のメインテーマであり、ミステリーを紐解く上での重要なワードになっていたのです。
3枚の絵というのもきちんと読み返すと3人のことをメタファーとしているのがわかり、序盤から伏線がしっかりと張り巡らされていることに気づきます。
ぜひとも、本書を読んでいない方も読んだ方も、絵のメタファーを意識しつつ読んでみてください。
まとめ
ここからはネタバレないので、安心してください。
今回は、小杉健治さんの「連鎖」を紹介してきました。
非常にバランスが取れた真実がとてもよかったです。
読みやすくもあるので、万人におすすめできる内容だと思いました。
グロ、エロ、恋愛がほとんどないので、子供でも読みやすいと感じました。
ぜひとも、河合しずかが何を守りたかったのかを意識して読んでみてください。
また、絵というキーワードを意識して、「連鎖」というタイトルと繋げて考えると本書の深みを味わえることでしょう。
では、皆さんとのつながりがより深くなることを祈っています。
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