愛のあるミステリー小説はお好きでしょうか?
正直、僕はあんまり恋愛系は好きではないです。
なんとなく先が読めてしまう恋愛ものは特に好みではなく、見ていてため息を吐いちゃうくらいです。
しかし今回紹介する「そして扉が閉ざされた」は愛要素もあるのにも関わらず、最高に楽しむことができたのです。
トリックもさることながら、人間の感情、愛情をうまく表現したとても素晴らしいミステリーでした。
「そして扉が閉ざされた」に興味が出て、あなたの手で小説の扉を開けていただけたら嬉しいです。
では、基本ネタバレなしの書評行ってみましょう!
ネタバレがある章の前には注意書きがありますので、
未読で、読みたくなるかもしれない方も安心して読み進めていただければと思います。
あらすじ
目を覚ますとシェルターに閉じ込められていた。男女四人。
三ヶ月前、富豪の一人娘咲子が、別荘で不審な事故死を遂げていた。
そんな咲子の遊び相手で、当時同じ別荘にいた四人は
咲子の母親の手によって、地下のシェルターに閉じ込められたのだ。
「事故の真相、犯人はこの中にいる」というメモがシェルターの中から見つかり、
閉じ込められた精神にさらに追い込みがかかる。
自分以外全てが怪しい状況で、協力しながら脱出を試みるもうまくいかない。
焦りながらも、話し合い
徐々に真実、咲子が死んだ不審な事故が明らかになっていく。
果たして想定外の結末とは?
誰が咲子を殺したのか?
そして彼らは扉を開けることができるのか?
どうして、咲子の母はシェルターの扉を閉じたのか?
全ては「そして扉が閉ざされた」の中にある
全てはシェルターの中のこと
この一冊の一番凄いところは、深い内容なのにも関わらず、話全てがシェルターの中で行われていることだと思います。
一番最初にシェルターに閉じ込められた理由がわかるものの、脱出はできない。
精神的に追い込まれながら、昔を思い出し、一つ一つ謎を解明していくところが魅力になっています。
これまでのミステリーとは違って、記憶というのが今回の話の重要テーマになっていて
証拠というものが存在しないんです。
あくまで記憶を頼りに男女四人の話し合いという形でした。
記憶の齟齬を少しずつ埋めていき、真実にたどり着く様子はよくできた美しい小説だなと感じました。
脱出系の話ですが、その実謎解き要素はないので注意してほしいです。
どうすれば脱出できるかを考えるというよりも、閉じ込められた理由(事故の真相の解明)に重きを置いた作品なんです。
脱出ゲーム的な部分はなく、力技な脱出を試みるシーンだらけなのである意味ではリアルと言えますが
脱出ゲームのノリを求めて読む方にはがっかりするポイントだと思います。
僕ももし捕まったら同じように脱出を試みるに違いないと思いました。
よくあるソウ的なこともなく、ある意味で万人ウケする脱出ミステリーであると思います。
グロシーンもなく(エロシーンもない…)ので本当に誰にでもおすすめできる作品です。
読者は本という世界、主人公たちはシェルターという世界。
それぞれの密室の中で繰り広げられる真実を追い求めた世界に、ワクワクハラハラしっぱなしです。
きっちり謎は解けて爽快
謎がうやむやになる作品も多いミステリーですが(僕は割とそういうのも好き)
この作品に関してはそれはないので、安心して読み始めてほしいです。
きっちりと最後で、広げた風呂敷をきれいに畳む作品でした。
もちろん伏線も綺麗に張られているので、2度読んでみると新たな発見があって楽しめると思います。
また、作品の裏テーマである「愛」という部分にも意識を持って読んでもらいたいです。
僕は基本的に恋愛ものはあまり好きではないです。
というのもワンパターンが多い気がするからです。
主人公と意中の相手がなんだかんだ上手くいったり、最終的には別れるもののお互いを思っている。
というような二択というオチだと容易に想像できるからです。
ですが、「そして扉が閉ざされた」の「愛」というテーマは実にリアルかつ美しいものとなっているんです。
恋愛もの嫌いの僕ですら、心にグッとくるものがありました。
最後の最後でわかる真相と共に、最後の最後でわかる「愛」に感動してほしいと思います。
謎については、事故の真相が実は殺人だったのではないか系でありがちと言えばありがちな内容であります。
事実、真相自体も決して目新しいものではありませんでした。
きちんと論理立てて作るられているので、推理ものとしてしっかりまとまった「本格推理」と言って良いと思いましたが、
僕は何より人との繋がりがとても身にしみた作品でした。
ぜひ、一度読んでみて、「愛」の真相をあなたの目で楽しんでほしいです。
涙が出るかもしれませんが。
ネタバレ含む 感想
これから先の感想部には若干のネタバレがあるかもしれないので注意してください。
極力真相には迫らないつもりですが、
最後のまとめだけ読みたい人はこのリンクで「まとめ」まで飛んでください。
では、ちょっとネタバレを含む感想です!
事件の真相自体は正直、安易だなと思ってしまいました。
崖から落ちるトリックも想像できてしまったし、なんなら犯人も大体予想ができてしまいました。
というより、そもそも四人なので犯人を想像すれば1/4で当てられてしまうつくりなんです。
僕は読者裏切り系が好きなので、この想像の犯人が意外な人だといいなと思っていたので、少し残念な部分が大きかったです。
ですが、想像の犯人はあくまで実行犯、本当の真犯人は意外な人物であったところはとても良かったです。
それに気づく部分も文章の表現がとてもよく、ドキドキ感、ハラハラ感、顔面蒼白感がよく伝わってきました。
脱出方法が雑なのはちょっと、うーんと思ってしまう部分がありましたが、それはあくまで舞台の設定なので仕方ないかなと思います。
リアル脱出ゲーム好きな方にはもちろん納得いかない人が多数いそうな内容ですが、本当のリアル脱出では、この作品のような脱出方法になるだろうと思います。
結局扉をこじ開けるってのが手っ取り早いですし、そもそも脱出を前提とした謎を部屋に残すってのもおかしいと言えばおかしい話です。
捜索願いが出ず、警察が来ないってのもリアル脱出ゲームならではの設定と言ってしまえばそれまでということです。
脱出の残念感はあるものの事故の真相と「愛」による真実は必見なので
ぜひ、読んでみてほしいです。
まとめ
ミステリーを読んで、素晴らしい謎解きと「愛」を感じられる作品はこの「そして扉が閉ざされた」を抜いて他にはないと思います。
それほどミステリーと感動をうまく融合させた一冊でした。
伏線も見事で、鳥肌は立たないにしてもしっかり論理立てた推理ときっちり収まる終わり。
美しい作品とはこういうものをいうのだと思いました。
キャラも個性が強く。
嫌いなキャラはとことん嫌いになるので、ある意味リアル。
現実でも絶対嫌いになる人が出てきます。
笑えるシーンはないものの、
心にグッとくる本格ミステリーをお探しの方にはぜひ、読んでもらいたい。
扉が閉ざされた理由、閉ざされなければならなかった真実を
あなたの手で開けてみてください。
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