銃を拾ったらあなたならどうしますか?
銃を拾った大学生というシンプルな設定を最大限に活かした一冊「銃」
今回紹介する「銃」は銃と大学生の心情変化の波を楽しめるミステリー小説です。
この記事ではそんな中村文則が書いた「銃」の書評とネタバレありの考察をしていきます。
では、行ってみましょう!
あらすじ
雨が降りしきる河原で大学生の西川が出会ったのは、動かなくなっていた男。
その傍らに落ちていたのは黒く圧倒的な美しさと存在感を放つ「銃」だった。
銃に魅せられた西川は銃を持って家に帰ることにする。
銃という魅力に取り憑かれてしまった西川は銃をただ眺めているだけでは収まらなくなっている自分の衝動に気づき始めた。
そして「いつか拳銃を撃つ」という確信を持つようになり、撃つ場所、人を探していく。
そんな中、テレビでは銃を拾った河原の事件の報道が、家には刑事が訪問してくるといったことが起こり、次第に追い詰められていく西川。
果たして銃の行方はどうなるのか。
その黒く美しい銃口が向かう先はどんな未来なのか。
西川が決めるのか、銃が決めるのか、最後まで読めない衝撃作品にきっとあなたは開いた口、いや銃口が塞がらないことだろう。
本の情報
ページ数
文庫本にして全178ページの作品です。
河出文庫から出ている本書では「銃」とは別に「火」というタイトルの短編小説(全32ページ)も載っています。
解説部には中村文則さんが「銃」と「火」についての当時の想いを書かれています(全3ページ)
読むのにかかった時間
毎日30分ほどの読書時間を費やして、トータル5日で読むことができました。
大体2時間30分くらいの時間を使って一冊丸ごと読み切ることができる内容です。
おすすめ度
大学生ならではのちょっと破廉恥な話も出てくるので、小学生や中学生にはちょっとおすすめできない内容でした。
しかし高校生から大学生は共感しつつ人の心の変化を体験できるおすすめの作品です。
主人公の心情変化を楽しむ作品なので、若干読みづらさ、話のスピード感は遅さがあるので、小説としての長さは短いですが、手放しでのおすすめはできない作品になります。
銃という圧倒的な武力を持った大学生が変わっていく姿を楽しむミステリーといったところです。
銃と大学生をうまく描いた心情小説
ストーリーを楽しむとともに西川という主人公の心の変化を楽しむ作品が「銃」です。
西川が銃を撃つのか撃たないのか、誰に向かって撃つのか。といった部分でワクワクする内容になっています。
短い内容だったので一気に読むことができましたが、仮にこの「銃」が200ページ越えの小説だったら僕は読みきれなかったかもしれません。
正直心情変化や描写は厨二病が入った大学生としてかなり面白いのですが、小説としてのワクワク感やめくる手がドキドキするというのは少なかったです。
大学生の生活としてもリアルに描かれていますが、決して突飛な部分はなく無難な日常を送っている大学生という感じでした。
最終的なオチは決して油断できないものになっていてかつ伏線が実は張り巡らされている作品でしたので、伏線が好きな方や衝撃的なラストが好きという方にはぜひおすすめしたい内容です。
事件を解決するというより、西川という大学生が銃によって揺れる様子、最終的な決定を楽しむ内容になっています。
ネタバレありの感想とオチ
ここからはネタバレがありますので、ネタバレが嫌な方はまとめ章まで飛んでください。
では、ネタバレしつつ、感想を書いていきます。
最終的に西川は隣の住人を撃つのをやめて、銃を捨てるという決断にしました。
薄々そうなるんじゃないかと思っていましたが、残り数ページで衝撃が走りました。
銃の意思か、西川の不運かわかりませんが銃から弾丸が出て男性の乗客を撃ってしまうという形になったのです。
えええー!という驚きは西川同様に僕の中にありました。
勝手に弾丸は三つだけという意識でしたので、絶対に撃たれることはないとたかを括っていたのです。
衝撃的すぎて一瞬訳がわからなくなったのも西川と同じでした。
僕はもちろん読み終わった後、自分の認識がおかしくなった部分を読み返すことをしました。
弾丸の数、どこで撃ったのか、電車に乗る前に弾丸を記念にポケットに入れたところ。と読み返すうちに一つの考察が出来ましたので、その考察は次の章に書いておきます。
かなりの衝撃的なラスト、西川はパニックになって自殺しようとして終わるという作品。
僕ももしかしたら西川と同じ選択をするのではないかと怖くなりました。
人を撃とうと思ってもいないタイミングで殺してしまったら、焦りに焦ってそんな選択をする可能性も十分にあると思います。
ネタバレありの考察
ネタバレ続きます。
最終的に西川は誤って拳銃を撃ってしまいました。
さて、どうしてこのようなことになってしまったのでしょうか。
ここではそこについて僕なりの考察をお話ししていきます。
まず大前提として拾った拳銃には4発の弾が入っていたと西川本人が確認しています。
さらに「銃」で出てくる拳銃はリボルバーという種類であるということも覚えておいてください。
正確に「銃」作品内で銃の種類を読み上げているシーンもあります。
さてここで問題になってくるのが、実際に撃つことができる弾は何発あったのかということです。
西川が銃を発見した時、一緒にいた死体は自殺という話でした。
ということは銃の中には確実に一発撃ち終わった空薬莢が入っていることになります。
リボルバーの場合、弾を撃った後は、そのままから薬莢がリボルバーのシリンダー部に残ったままになります。
ということは西川が拳銃の弾を確認した段階では4発の撃てる弾ではなく、3発の撃てる弾と一発の空薬莢が入っていたことになります。
ここで西川が勘違いした点があることに気づくと思います。
素人目には弾丸が撃てるかどうか空薬莢かの判断は難しいことが絡んでいると僕は考えます。
空薬莢かどうかの判断なんて普通できないと思います。
ましてや大学生が興奮した状態でそこまで気が回るわけもありません。
ということで西川は大きな勘違いをここでしてしまっているわけで、弾は4発ではなく、3発+空薬莢というわけです。
これがどう最後に絡んでくるか、最後がいかに残酷な最後かというところに繋がってくるのです。
誤って撃ってしまった西川はパニックになってしまい、一生懸命に自害しようとポケットから弾丸を出し、装填し自分の頭に撃とうとしています。
しかし、西川は猫に二発、電車内で男に一発、既に撃っているのです。
つまり、もう撃てる弾は残っていないのです。
最後の場面で電車に乗る前に西川は銃とのお別れ記念として弾丸を一発ポケットに入れていますが、実はこれ空薬莢だったと推察します。
ということは最後の最後、ポケットから弾丸を取り出し、なかなか装填できない、急がなければ、急いで死ななければ、という場面で物語は終わっていますがその後西川は弾丸を装填して引き金を引いた瞬間に空薬莢だったと気づくという結末がわかるのです。
ゾッとしませんか?
西川は自殺すら許されず狂っていくしか道は残されていなかったというオチが本当のオチだったのです。
以上は僕の考察なのでもしかしたら作者の意図とは異なる考えかもしれませんが、そういった観点からもう一度「銃」という作品を読んでみてください。
きっとまた違う味わい方ができるはずです。
まとめ
ネタバレ部を読んだ方も、そうでない方もお疲れ様でした。
ここからはネタバレなく今回の記事の内容をまとめていきます。
今回は中村文則さんの「銃」という作品について書評と内容について考察しました。
大学生の心情を追っただけの小説と言えばそのような小説ですが、ラストは衝撃的すぎて、久々に最初っから読み直すという行動を取っちゃいました。
僕が小説を読み返すってかなり少ないんですよ?
相当伏線がすごい小説でない限りなんとなく納得して終わりにすることが多いんです。
なので、伏線や衝撃ラストが好きな方には本当におすすめしたいと思います。
銃の怖さと人間の怖さと脆さがわかるそんな作品です。
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