あなたは霊を信じますか?
人は死んだらどうなるのか。
今回紹介する相沢沙呼さんの「medium 霊媒探偵 城塚翡翠」では霊能力者である城塚翡翠が出てくるミステリー小説でした。
ただの短編集かと思いきや最終章では見事に伏線回収が行われた一冊でした。
この記事では、そんな「medium 霊媒探偵 城塚翡翠」の書評と一部ネタバレありの要約・解説を行っていきます。
では、いってみましょう!
あらすじ
死者が視える霊媒師・城塚翡翠と推理小説家・香月史郎の二人が心霊と論理を組み合わせて、真実を導き出す。
城塚翡翠が心霊の力で知見した犯人を、論理的証拠を集めて裏付けする香月のコンビ。
数々の事件を解く中で連続死体遺棄事件に立ち向かうことになる。
証拠を残さない連続殺人鬼にたどり着くことができるのか。
証拠がない中、真相に辿り着く鍵は城塚翡翠の心霊の能力だけ。
しかし、彼女へと魔手が迫る…
短編かと思いきやしっかりと全ての事件が最終章で繋がる見事なミステリー。
果たして心霊の先に待つ真実とは。
連続殺人鬼の本当の目的とは。
本書の概要
ページ数
文庫サイズで解説含めず、474ページ、全482ページでした。
読むのにかかった時間
大体5時間ほどで読み切ることができました。
構成
プロローグ、エピローグを除き、4章構成になっていました。
1話、2話、3話、最終話という区切り方をして、一つの話ごとに一つの事件が起こり、謎を解くという構成です。
ただ最終話で全ての事件が繋がるので、読み飛ばして良い話はないので、短編集ではなく長編という位置付けの一冊になります。
基本、香月史郎の視点で三人称文体で書かれていました。
書評(ネタバレなし)
驚きは少ないけど、見事すぎる、これまでの常識がひっくり返る。。。というのが僕の感想でした。
短編集と見てもかなり面白いと思ったけれど、最終話に来て「そうくるのか。新しいし、すごい伏線だ」と思いました。
まず短編のような描かれ方をしていますが、短編集では決してないというのを注意してください。
ちょっとネタバレになりそうな雰囲気を醸し出してる言い方になっていますが、しっかりと一話一話を噛み締めて読んでほしいということです。
短編をしっかり読み込めばより最終話で、驚きと感動、作者の仕掛けたかったことがわかると思います。
正直、ここまで緻密に組み込まれたストーリーには圧巻です。
新しい。
ヒントとしては叙述トリックものではないということですね。
シンプルに上手い。考えられている。上手いミスディレクションでした。
伏線好きの僕としても非常に満足できるミステリーだったと思います。
若干、伏線ものを読み込んでいる方は途中「そうなるかと思った」という展開も散見されますが、とはいっても逆転劇を予想できる人は少ないでしょう。
それほど、見事に組み込まれた伏線と回収でした。
2023年読んだミステリー小説の中でも随一で伏線と伏線回収が見事な作品だと思います。
グロテスクな表現もないので、読みやすい点も評価したいですね。
シンプルな探偵もののミステリーにちょっと心霊というSF・ファンタジー要素がくっ付いただけかと思って舐めてかかると痛い目をみます。
見事なミステリー長編作品だと思いました。
あまりネタバレなしの部分では話の内部には組み込めないのでこのくらいにしたいと思います。
兎にも角にも、短編として面白いのにそれらが見事に伏線となって、最終話で回収されこれまで読んできた部分がひっくり返る展開は面白かったです。
おすすめ度
「medium 霊媒探偵 城塚翡翠」のおすすめ度は5点満点中4.5点です。
万人におすすめできる作品であり、伏線回収好きにも刺さると思ったので高得点になります。
グロテスクなシーンや叙述トリックで納得できないという点は全くなく、すっきりと騙される作品である点が高評価ポイントです。
個人的には鳥肌レベルの驚きはもう一つ欲しかったところですが、伏線なれしていない方には十分に驚いて鳥肌が立つレベルだと思います。
短編的に一つの事件が区切られている構成も読みやすいと思いました。
短編でありながら長編としての感情移入と伏線回収がある、見事な作品ですので、ぜひ読んでみてほしいです。
要約・あらすじ(ネタバレあり)
ここからは本書のネタバレを含みますので、ネタバレが嫌な方はまとめの章まで飛ぶようにしてください。
では、ネタバレありの要約・あらすじからやっていきます。
話ごとに簡単に事件紹介と真相への辿り着き方をまとめます。
1話:
香月の大学の元後輩・倉持に誘われ、霊媒師をやっている城塚翡翠の元を訪れる。
城塚翡翠は倉持に危険が迫っていると言い、後日倉持の自宅へ行きたいと言い出した。
倉持は了承し、その日がやってくるが待ち合わせした時間には香月と城塚翡翠しか現れない。
二人は倉持の自宅へ直接行くことにした。
するとそこには倉持の遺体が。。。
そして、城塚翡翠は心霊の力によって、「女が犯人」と言うのだった。
香月はその言葉を信じ、倉持の身辺で女の人を中心で探った方が良いと警察に助言し、ついには本当に倉持の友人である女性が犯人というところまで突き止める。
香月は城塚翡翠の言葉によって真実を明らかにできた最初の事件だった。
2話:
作家の友人である黒越に誘われ、黒越の別荘である水鏡荘にやってきた香月と城塚翡翠。
昼はバーベーキューを楽しみ、夜中は水鏡荘で起こる心霊現象について二人で調査をする流れとなっていた。
心霊現象は特に起こらない中次の日になり、黒越が殺されていることが判明する。
容疑者は3人。
城塚翡翠は能力によって意味不明な夢の話をし始める。
「一人目が私に触れそうになったと思ったら、突然眩暈がしていなくなった。二人目が現れたと思ったら、消えていった。三人目が現れたと思ったらまた突然眩暈がしていなくなった」
謎の夢を解読しつつ、香月はまたまた事件解決をした。
犯人を絞り切り、証拠を警察が発見することで解決することができた。
3話:
女子高生が連続して絞殺される事件が発生した。
香月は読者である菜月に頼まれ、事件の調査に動き出す。
城塚翡翠も調査に同行し、女子高生たちが殺された現場を調査していく。
そんな中、またまた城塚翡翠に異変が。
「先輩…」と言い残し突然倒れかける。なんとか香月は城塚翡翠を受け止めた。
先輩という言葉から被害者である女子高生の高校が怪しいと踏んだ香月は、警察とともに高校に乗り込んで事情を聞くことになった。
被害者の一人は写真部であることもあり、元写真サークルの香月も一緒になって話が盛り上がった。
犯人を絞れない中、事件が再び起こる。読者であった菜月まで殺されてしまったのだ。
許せない気持ちで、香月と城塚翡翠はより深く真実への追求に勤しむ。
そして、ついに被害者の共通点である写真館を突き止め、そこで容疑者に出会う。
容疑者は疑われることを察し、捕まる前に一人でも多くの人を殺そうと動き出す。
なんとか城塚翡翠の霊能力で犯人の居場所を突き止め、最後の被害は食い止めることができた。
最終話:
連続死体遺棄事件の謎解きを依頼された香月。
この事件ばかりは、遺体発見場所と殺害現場が異なる理由から城塚翡翠は得意の霊能力が使えなかった。
また、城塚翡翠の身が危ないと予見した香月は、城塚翡翠にこの事件から手を引くように進言する。
しかし、引かない城塚翡翠。そして覚悟を決め、二人は事件を追うことにする。
かと思いきや、なんと連続死体遺棄事件の真犯人は香月だったのだ。
城塚翡翠を殺そうと、別荘へ連れ込んだところで、判明した。
城塚翡翠はこれまでの香月の行動を信頼しており、愛情すらも芽生えていたタイミングだったからショックを受け、殺されるのを拒否で逃げようとするもあっさり捕まってしまう。
香月は城塚翡翠の霊能力で、死んだ姉が最後に思っていたことを降霊によって聞こうと考えていた。
もちろん降霊の後は殺そうという算段だ。
だが突然、城塚翡翠は笑い出す。ショックのあまり頭がおかしくなったかと思いきや城塚翡翠が霊能力など真っ赤な嘘だと言い始める。
これまでの事件も全て類稀な推理力によって導き出したヒントだったのだと言うのだ。
信じない香月に、城塚翡翠は1話から3話までの城塚翡翠の言葉が、どんな推理を元に言っていたかを種明かしした。
そして、これまで香月に見せていた姿は全て、連続死体遺棄事件の真犯人を見つけるための行動だったのだ。
香月が犯人として疑ったからこそ、あざとく接近し、自らを殺される場面へと誘導させることで証拠を掴むことができた。
全ての会話は通話として警察につながっていて、香月は最後には捕まってしまう。
城塚翡翠は霊媒師やなんかではなく、探偵だったのだ。
霊能力などなく、全てが論理的に考えられた推理だった。
これまでの事件も常人では考えられないスピードで事件の真相を見破り、香月に霊能力と称して助言をしただけだった。
最後の最後まで信じられない香月は捕まる最中もずっと、城塚翡翠は霊能力者である裏付けを思考していた。
本当の心の解説(ネタバレあり)
今回の解説では、城塚翡翠の本当の気持ちについて考察していきます。
城塚翡翠はラストで、自分の心霊は全て類い稀なる推理によるもので、香月に近づいたのも連続死体遺棄事件の真相のためだと明かしました。
また、香月とのやりとりも全て演技であり真実の気持ちはどこにもないと発言していました。
しかし、エピローグでもある通り城塚翡翠は事件解決後、部屋に閉じ籠り一人泣いていました。
城塚翡翠の本当の心はどうだったのか。
僕は城塚翡翠は香月に惚れていて、本当は犯人ではなくずっと一緒に探偵と助手として謎解きをしたかったのだと思います。
エピローグまでしっかり読んだ方には伝わるような書き方をしているのも理由ですが、城塚翡翠が香月とのやり取りで漏らした「私にもどれが嘘なのかわからなくなる」というニュアンスが引っかかり、やはり全てが演技だったとは思えないのです。
また、僕自身、城塚翡翠のようなあざとい系の女子が嫌いじゃないのも理由かもしれません。(単純にあざとい城塚翡翠を全部嘘だなんて認めたくない笑)
とはいえ、泣いていたのも、遊園地というイベントを懐かしいもので大切な思い出であったこと。
真が城塚翡翠は時として仮面を被るという表現をしていたことからも、城塚翡翠は本当は香月のことが好きになっていた。という考察をしたいと思います。
半分願いでもありますが、城塚翡翠はラストで見せるただの推理がバカすごい挑発的な女の子ではなく、素直で正直だからこそ信じたものに騙された時強く当たってしまう女の子なんだと思うのです。
まとめ
ここからはネタバレないので安心してください。
今回は、相沢沙呼さんの「medium 霊媒探偵 城塚翡翠」を紹介してきました。
相沢沙呼さん自身がアマチュアマジシャンということもあり、実にマジックを見ているような見事なミステリーでした。
全てが伏線というよりかは、全てがマジシャンの手の上といったところです。
万人におすすめできる内容かつ面白いので、ぜひ読んでみてください。
では、皆さんの読書ライフがより良いものになることを祈っています。
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