ミステリーの絶対条件はなんだと思いますか?
ズバリ生きている人が登場すること。
そんなわかりきっている前提を平気で崩してきた作品が五条紀夫さんの「クローズドサスペンスヘブン」です。
登場人物全員がすでに死んでいて、天国が舞台の本作品。
ぶっ飛んだ設定なのにも関わらず、引き込まれ、そして最後に納得する終わりを迎えます。
この記事では、そんな「クローズドサスペンスヘブン」のあらすじ、書評、一部ネタバレありの要約を行っていきます。
では、いってみましょう!
あらすじ
俺は間違いなく殺された。なのに、ここはどこだ?
気がついたら目の前にはリゾートビーチと西洋館。
姿の見えない配達人から毎朝届く不思議な新聞によると、現世で惨殺された6人が記憶をなくした状態でこの場所にいるらしい。
全員が記憶をなくしているため、それぞれの見た目の特徴からあだ名をつけて呼び合うことに。
髭面をした主人公はヒゲオ。
ポーチをつけた男はポーチ、メイドの姿をしたメイド、お嬢様のような上品な態度をしているオジョウ、コックの姿をしたコック、小指がなくいかつい男のヤクザ。
誰に殺されたのか。
天国という不思議な空間で行われる謎解き。
その真実が分かった時、彼らは成仏することができるのか?
本書の概要
ページ数
あとがき・解説はなく、全260ページでした。
読むのにかかった時間
大体3時間ほどで読み切ることができました。
構成
全10の章に分かれていて、物語の区切りごとに分けられています。
短編集ではなく、あくまで長編です。
序盤はヒゲオの一人称の部分もありましたが、あだ名が決定した段階で三人称視点に変わる文体でした。
視点は常にヒゲオでヒゲオとともに事件の真相を解明していくという構成になっていました。
書評(ネタバレなし)
こんなミステリー面白くない!って思ったのにおもしろすぎんかっ!!というのが僕の感想です。
正直、前半部はありえないようなことばっかりの設定で、この設定でどうミステリーにして行くのか分からず、本当に面白くできるのかなぁと疑っていました。
しかし、見事に序盤の説明が終わるか否かの部分で面白さが一気に出てきました。
さらに謎が謎を呼ぶ展開で、探偵役であるはずのヒゲオ自身も記憶をなくしているのでミスリードしてくる展開。
そして最後には、全てが明らかになり伏線全てがつながりました。
天国という設定を全て紹介された理由がちゃんとわかりました。
矛盾がない、ツッコミどころがない見事な設定と回収。アンフェアがない見事なミステリーだったという感想です。
鳥肌が立つほどの伏線回収はないものの、のめり込んでいくストーリー展開と徐々に明らかになる謎。
見事の一言です。
社会の盲点をつくような最終的なトリックも良かった。
見事にその手があったか!と思いました。
ミステリー付きを名乗っているはずなのに、まだまだ真相には主人公より早く辿り着けたことはない。
これだからミステリーはやめられませんね。
こんなミステリー読んだことない!にふさわしい内容にあっぱれです。
おすすめ度
「クローズドサスペンスヘブン」のおすすめ度は5点満点中4点です。
ほぼ全ての人におすすめしたいミステリーだと思いました。
とにかくストーリー展開が良く、飽きずにテンポ良く読むことができます。
ユーモアな部分もありますが決して笑えないので、ギャグセンスとしてはイマイチだと思いました。
天国という架空の設定が見事にハマった作品で、矛盾や破綻がない姿は見事なミステリーと言わざるを得ません。
弱点としては、鳥肌が立つほどの伏線回収や大逆転がないこと、あとは天国という死んだ先にある世界というのが読者によっては受け入れられないかもしれない点です。
こういう死後の世界、天国があってもいいじゃん🎵と思える方にはぴったりだと思います。
天国は宗教が絡んでくる部分でもあるので、宗教が少しでも絡むなら読みたくない人がいるかもしれません。
要約・あらすじ(ネタバレあり)
ここからはネタバレを含みますので、ネタバレが嫌な方はまとめの章まで飛ぶようにしてください。
では、ネタバレありのあらすじ・要約からやっていきます。
ヒゲオは何者かに首を切られ、死を覚悟して目を開けるとビーチにいました。
近くには洋館があり、自分が何者かも分からない記憶喪失状態で洋館に向います。
洋館には5人の男女がおり、彼らもまた記憶喪失であると明かされるのです。
そして、事情を聞くとこの洋館は天国屋敷と言われる場所で、天国屋敷で殺された6人というのが自分たちであると聞きます。
信じられないものの、自分は確かにここで殺されたと自覚するようになり、さらに死んだ後の天国であることを理解するヒゲオ。
そしておそらく全員の望みである事件の真相を暴けば成仏されるだろうと、天国屋敷で殺された6人の真相を暴くことにします。
事件を追っている中で、ヤクザの悲鳴が。
ヤクザは天国でも殺されたのです。
しかし、ヤクザはすぐに生き返り、この天国では自分が死んだ瞬間を思い浮かべると実際に死に、気合を込めると生き返るという事実が明らかになります。
さらに奇妙なことはあり、毎朝新聞が届けられ新聞の内容は現実世界の天国屋敷で起こった事件についての進捗が1時間おきで書かれていました。
また、納屋には願ったらなんでも出現するという仕組みも見つけ、マグロやビーチボール、水着などを取り寄せて毎日を楽しむ6人。
そんな中、ヒゲオは新聞が誰が持ってきているかの謎を解くべく、考えぬきついには、この場にいない天国屋敷の持ち主が新聞配達人だと推理します。
そして、天国に来る条件は遺体が発見されること。という事実を利用して天国屋敷の持ち主の遺体を納屋に出現させることに成功したのです。
そして新聞配達人は確かに天国屋敷の持ち主だと判明しました。
しかし天国屋敷の持ち主もまた被害者であり、最後の新聞を届けると成仏してしまったのです。
新聞という現実世界の手がかりがなくなってしまったものの、ヒゲオは、天国では心によって生き返ったり姿を変えることができるという事実から推理をめぐらし事件の真相を明らかにしました。
ヒゲオ自身の顔が実はヒゲオではなかったという事実がわかり、記憶を取り戻すヒゲオ。
そして、誰に殺されたのかも思い出し、真相を5人の前で明らかにし犯人がコックであることがわかります。
コックはトランスジェンダーであるメイド(本当の体は男だった)との仲を壊されたことをきっかけだったという動機を明らかにし、コックとメイドは二人で成仏しました。
残された4人も残り少ない時間を過ごし、一人また一人と成仏し、最後にヒゲオがいなくなって物語は幕を閉じました。
結局何が言いたかったのか?(ネタバレあり)
「クローズドサスペンスヘブン」は結局何が言いたいのか。
人の心は表面を見ただけでは分からない。というのを言いたかったのだと思います。
最終的なトリックというのが、天国での体は心の姿によって若返ったり性別が変わったりするというものでした。
メイド自身トランスジェンダーで悩んでおり、現実世界では男の体だったわけです。
盲点をつく見事なトリックである反面、この可能性を読者はどれだけ考えられたことでしょうか。
考えられなかった分、僕たちは見た目に騙されている。見た目=中身と勝手に解釈してしまっているのです。
見た目が女性だから、女性。見た目が男だから、男性。と勝手に解釈してしまいました。
もしかしたら、心は違くて心の姿だけを見たら女性だったのかもしれないのに。
ミステリーというテーマの中に、見事にそういった先入観を突きつけられた気がします。
心と体は必ずしも一致しないという見事な裏テーマを僕は感じました。
まとめ
ここからはネタバレないので、安心してください。
今回は、五条紀夫さんの「クローズドサスペンスヘブン」を紹介してきました。
斬新な設定からの見事なミステリーへの帰着、素晴らしかったです。
天国という舞台で行われる謎解きは新鮮で、読んでいてずっと楽しかった。
こういう設定から面白さを醸し出すミステリーも悪くないですよね。
では、皆さんの読書ライフがより良いものになることを祈っています。
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