自分がもしも生まれなかったら世界はどうなっているのでしょうか?
もしかしたら、ウクライナ侵攻も起こらず、地球温暖化にもならなかったかもしれません。
今回紹介する米澤穂信さんの「ボトルネック」という小説はまさにそんな、もしかしたらを主軸としたミステリー小説になります。
ちょっと悲しく切ない話ですが、しっかりと向き合うべき小説でした。
SFが好きな方には特に刺さる内容だと思います。
この記事では、「ボトルネック」の内容を紹介し書評しつつ、一部ネタバレありの要約・解説を行っていきます。
では、行ってみましょう!
あらすじ
亡くなった恋人を追悼するため、東尋坊を訪れた嵯峨野リョウ。
何かに誘われるように断崖に吸い込まれる感覚に、全身を包まれる。
死を覚悟したリョウだったが、気がつくとそこは見慣れた金沢の街だった。
不可解な思い出自宅へ戻ったリョウ、自宅でリョウを迎えたのは見知らぬ女子高生。
女子高生と話をしていると、どうやらリョウは「自分が生まれなかった世界」に迷い込んでしまったらしいとわかる。
女子高生はリョウの前に生まれるはずだった、姉で…?
生まれるはずだった姉・サキと、自分が生まれなかった世界に迷い込んだリョウ。
二人はそれぞれの世界の違いを一つずつ見つけていく。
そこに隠された真実と、苦しく、悲しい結末とは。
本書の概要
ページ数
文庫サイズで解説含めず297ページ、全312ページでした。
読むのにかかった時間
だいたい3時間半ほどで読み切ることができました。
構成
主人公・リョウの一人称で書かれる構成で、章ごとに分かれていますが一連の流れの長編小説になります。
叙述トリックが仕掛けられているとかはなく、シンプルなSFミステリーとして楽しめる一冊です。
書評(ネタバレなし)
辛すぎるよ…。
というのが僕の「ボトルネック」を読んだ感想です。
ネガティブすぎる物語少し嫌気がさす方も出そうだなという感じでした。
自分が生まれなかった場合の世界に迷い込むというシンプルな設定から、ここまで作り込んだ物語の展開にできるのはすごいと感じました。
自分が悩んでいることが、自分の生まれなかった世界ではどうなっているのか、少しずつ紐解かれていく展開が読み応えとテンポを上げて読ませてくれるのです。
主人公の対比として出てくる姉・サキも良いキャラをしていて、主人公・リョウのコンプレックスを露わにしてくれるところは心が痛く感情移入をどんどんしてしまう設計になっていました。
亡くなった恋人も実は事故ではなく…という部分もミステリー要素があって面白いと感じました。
シンプルな話の中にどんどん引き込まれる部分を作るのは米澤穂信さんの真骨頂で、見事です。
話の掛け合いもテンポが良くて登場人物が基本的に、サキとリョウの二人だけなのに飽きることなく読み切ることができました。
最終的にネガティブな感情で心苦しくなる小説ではありますが、多くの方に読んでもらいたい一冊でした。
ボトルネックというタイトルの意味がわかるとき、辛い気持ちでいっぱいになることでしょう。
要約・あらすじ(ネタバレあり)
ここからは、ネタバレを含みますのでネタバレが嫌な方はまとめの章まで飛んでください。
では、ネタバレありの要約・あらすじからやっていきます。
リョウは東尋坊から落下したと思いきや気がつくと、金沢の市内にいました。
不思議な気持ちで自宅に帰ると、そこにいたのはリョウにはいないはずの姉・サキ。
リョウが生きていた世界では、サキは生まれることなく流産という形でしたが、リョウが迷い込んだ世界ではサキが生まれていたのです。
逆にリョウはサキが生まれたことで、母は子供は二人と決めていたこともあって生まれていませんでした。
二人の食い違いから徐々に状況を飲み込みつつあるリョウとサキ、生まれる違いによって世界もそれぞれ異なっていました。
リョウの世界では、両親はW不倫し仲は最悪、アクセサリー屋は潰れ、行きつけの定食屋も店主が倒れ潰れていました。
ところがサキの世界では、両親はサキの機転で仲を解消し、アクセサリー屋は営業を続け、行きつけの定食屋も今でも営業中でした。
さらに最も異なっていたのは死んだはずの恋人・ノゾミが生きていたことです。
ノゾミが死んだものと思っていたリョウは非常にショックで、しばらく放心状態になりつつも、再び自分の置かれた状況を整理するべく一番最初の地点、東尋坊に向かいます。
サキもリョウの様子が気になり、ついていく中で、それぞれの世界のノゾミについて話し合うことになりました。
そこで分かったのは、ノゾミは助けてもらった人によって性格が変わっていたということでした。
リョウの世界ではリョウの考え方の影響を受け、サキの世界ではサキの考え方の影響を受けていたのです。
どっちの考え方がいいとかではなく、とにかくサキの世界のノゾミは生きていた。
それにショックを受けつつも、二人は話し込んでいました。
すると、サキがノゾミの死には不可解な点があると言い出します。
サキの話では、ノゾミは単に事故で落ちたのではなく、一人の少女によって罠に嵌められて死んでしまったと言うのです。
そして、サキの世界のノゾミにもまた危険が迫っていると察します。
ノゾミの元を訪れ、サキは再びノゾミの危機を脱する形になりました。
リョウはそんなサキの様子を見て、分かってしまうのです。
世界に必要なのは、自分(リョウ)ではなく姉(サキ)であることに。
自分が生まれなければ、定食屋の店主も店を続けていられて、ノゾミも生きていられて、両親も仲が良い状態でいられたと思うリョウ。
もう、死んでしまいたい。そう願ったときリョウは奇しくも元の世界に戻ったのです。
自暴自棄になったリョウの目の前に、東尋坊の断崖がありました。
一通のメールがリョウの元に届き、物語は完結しました。
その後の考察・解説(ネタバレあり)
今後のリョウについて、ここでは解説していきます。
単純に読んでしまえば、リョウはこの後、サキの世界に絶望し自ら死を選ぶという結果が待っているのではないかと思ってしまいます。
ですが、僕はあえて違う予想をします。
リョウはこれから生まれ変わって、横浜で新しい人生を謳歌すると思うのです。
というのも、伏線が散りばめられていました。
横浜は良いところだ、とか
ノゾミが元々は横浜に住んでいた、とかです。
そして最後に母親から届いた一通のメール「恥をかかせるだけなら、二度と帰ってこなくて構いません」これが後押しになると考えます。
二度と帰ってこなくていいなら、今からでも飛び出してしまおう!という決意につながると思うんです。
実際、過去はもう変えられません。だからこそこれから、今を変えることに注力する。それしか結局やれることはないんです。
リョウはそのことに気づいて、新たな人生を歩み始めました。という方が話としてもポジティブで僕の好みになります。
もちろん、正確な部分は作者にしかわかりませんが、僕はこの横浜に最終的にリョウは行って、サキとは全く異なる人生を歩んで幸せになりました説を推したいと思います。
まとめ
ここからはネタバレないので、安心してください。
今回は米澤穂信さんの「ボトルネック」について紹介してきました。
SF系のミステリーで非常に心に刺さる内容でした。
自分が生まれなかったら世界はどうなっていたのかを、極限までネガティブに書き切ったという作品で、暗い気持ちになりながらも身を引き締めようという感情になる一冊でした。
想像力をくすぐってくれる見事な小説、ぜひ皆さんも自分の目でその物語を追ってみてください。
では、皆さんの世界がより良いものになることを祈っています。
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