時効差し迫る事件が一気に解けていく。
そんな切羽詰まった緊張感と快感のある小説が、今回紹介する横山秀夫さんの「ルパンの消息」です。
一見なんてことはない、学生の悪知恵かと思った行為から徐々に謎が生まれていき、最終的には見事に伏線を回収していく作品。
この記事では、そんな内容を一部ネタバレありで紹介していきます。
では、いってみましょう!

あらすじ

15年前、自殺とされた女性教師の転落死は実は殺人。
警察に入った一本の垂れ込みで事件が息を吹き返す。
当時、期末テスト奪取を計画した高校生3人が校舎内に忍び込んでいた。
高校生の計画と事件はどう結びついていくのか、捜査陣が辿っていく。
その先には、戦後最大の謎である三億円事件までもが絡んでくるのだった。
時効まで24時間。事件を解明することはできるのか?
本書の概要

ページ数
改稿後記を含めず439ページ、全441ページでした。
読むのにかかった時間
大体5時間半ほどで読み切ることができました。
構成
完全な三人称で書かれた文体で、警察サイド、当時高校生だった喜多を主軸として話は進んでいきました。
警察サイドは特に登場人物が多いものの、主軸となる当時の事件については関係者が少なく推理はしやすい構成となっていました。
おすすめ度

横山秀夫さんの「ルパンの消息」のおすすめ度は、5点満点中4点です。
多くの方におすすめしたい評価。
まず事件のシンプルさとそこに絡みつく人間模様と謎の動きや事柄が見事でした。
事件自体は、誰が女教師を殺したのかを追うものとなっていますが、そこに一見わからない謎をちょっとずつ散りばめていく。
そして最終的にはそれらが回収されるのは見事の一言に尽きます。
ミステリーを思う存分楽しみたい方にはぴったりの作品だと思いました。
ただ2009年に改稿されたという点から古さを感じる部分はあります。
考え方や捜査の仕方など、時代の進化によって今だと「どうして〇〇をしないの?」とか出てくるでしょう。
この点はどうしても最新の小説と比較すると推理を邪魔してしまいますね。
社会的メッセージもイマイチだったのが、今回若干評価を落としたところです。
「ルパンの消息」を読んで、考えが変わったというのがなかったというのが残念でした。
動機や事件の流れを楽しむのには最高だったのですが、そこにもう少し社会を小馬鹿にしつつも現実を射抜いている考えを持ってきて欲しかったと思います。
一応メッセージはあるものの、もうちょっと変わった意見を僕としては欲しかったです。
ミステリーとしてはピカイチでおすすめ、だけど万人が読むべき!ってほど社会的メッセージは強くないという作品だと思いました。
書評(ネタバレなし)

おすすめのところでも話しましたが、とにかくミステリーとしての完成度が高い。
徐々に散りばめられていっていた伏線が綺麗に回収されるさまは圧巻でした。
ほんの小さな疑問も最終的にはしっかりと回収されるのは、作者の完璧主義者な一面を感じてしまいます。
ストーリー展開も良くて、基本は15年前の事件について関係者が語っていくスタイルになっていました。
当事者の話なので若干の抜け漏れがあったりする中で、実はかなり当時の雰囲気を乗せて話していることが最後にわかっていくのはよかったですね。
なので、ネタバレなしで読む方へのヒントとしては、しっかりと喜多の言い回しには注意しておいた方がいいかもしれません。
もしかしたら、登場人物たちよりも早く真実に辿り着けるかもしれません?
時効というテーマを扱ったことで、ハラハラ感があったのもよかったです。
もちろん、「ハッピーエンドだから、どうせ時効は免れるんでしょう?」とか思ったりもしていましたがそれでもドキドキさせられました。
ドキドキしながら、きっちりとしたミステリーというのが「ルパンの消息」でした。
気になる方はぜひ、読んでみて下さい。
要約・あらすじ(ネタバレあり)
ここからはネタバレを含みますので、ネタバレが嫌な方はまとめの章まで飛ぶようにして下さい。

では、ネタバレありの内容要約、あらすじをやっていきます。
女教師である舞子は、15年前転落死しました。
遺書があったことと、遺体には同時についたと思われる打撲痕と頚椎骨折があったために校舎の屋上から自殺したのだろうと結論づけられていました。
しかし、殺人だとしたら時効となるその日に一件の垂れ込みが入ります。
女教師は殺害されたこと、そこには「ルパン作戦」が関連していること。
このことで、殺人として時効を迎える前に解決しなければならなくなりました。
まずはルパン作戦に関与したとされる喜多を引っ張ってきて事情を聞き出します。
喜多は女教師の殺人との関与は否定しつつ、「ルパン作戦」について語り出すのです。
不良だった喜多は毎日の平凡さに飽き飽きとしていました。
そんな時に、仲間である竜見と橘と次の期末試験のテストを盗み出そうと計画を立てます。
作戦名は行きつけの喫茶店である「ルパン」にちなんで、「ルパン作戦」
そうして、実行するべく作戦を立てていきます。
守衛が夜中は仮眠と称して寝ることを知り、職員室に入れる窓を用意、さらにテストは校長室の金庫に納められていることを知り、いよいよ作戦を実行します。
初日、二日目と作戦は成功し、最終日喜多たちは校長室に二つある金庫のうち、古い方を開けた時になんと舞子の遺体が転がり出てきたのです。
慌てた三人はとにかく逃げました。ただその際三人とは別に逃げる人の音を聞き、さらに喜多は校章を踏んでいたり、金庫を開けるときに光にも似た疑問を抱えていました。
次の日になると、舞子は自殺として事件は幕を引いており、疑問を持つ三人。
金庫に入っていたのに自殺とはどういうことかと、弔い合戦と称して、事件を追っていくことにしました。
事件を追う中で、友人の自殺を経験したり、恋人が実は舞子にレズビアンの関係を強要されていたことを知ったりしました。
結局、喜多たちには事件が解決できずいつの間にか三人とも疎遠となってしまったのです。
それを聞いた警察は、鮎美という人物が怪しいということを推理します。
鮎美は舞子と同じく教師で音楽を教えていました。
舞子と連れ立ってディスコに行ったりしているので、もしかしたら鮎美もまた舞子にレズビアンの関係を強要されていたのでは?その恨みで犯行に及んでしまったのではないかと推理するのです。
推理は的中しており、さらに金庫から舞子を外に突き出した共犯者が橘であったこともわかります。
二人の犯行によって事件は解決、元々殺意のなかった鮎美を今更罪に問うことは難しいだろうと全員が思った時に鑑識の一人がおかしいと疑問を持ちました。
死に至った時の傷と打撲痕はほぼ同時についていたのです。
そのことから、鮎美は突き飛ばしたのはただの気絶、金庫に一時的に保管した時に酸欠で仮死状態に、橘がその後職員室から突き落としたのも死には至っていたなかったのだとわかります。
真犯人がいるとし、判明したのが喫茶「ルパン」の店主でもあり、三億円事件の犯人だった内海でした。
内海は三億円事件の時に時効の快楽を知ってしまい、また時効がある殺人事件を犯してしまったのだということでした。
(三億円事件を完璧な犯罪にするという意図もありました)
最終的に内海が一時的に海外にいた時間によって時効が伸び、時効内で事件を解決することができたのでした。
伏線の内容を解説(ネタバレあり)

ネタバレ続きます。
ここでは、あらすじで端折った細かい謎の解説を行っていきます。
まず、喜多の語った光の正体。
喜多は自分の体験を語る中で、真相に近づくごとに光が発せられるという話で。
その正体は「古い金庫を先に開けた行動」でした。
これまで新しい金庫を開けていた行動から、最終日だけ古い金庫を先に開け、女教師の遺体を見つけるに至りました。
もしかしたら、橘は遺体があるのを知っていて古い金庫を開けたのでは?という疑問が実は心の中にあったというものです。
最終的には、これによって橘が遺体を移動させていることがわかりました。
続いて、校章です。
喜多が金庫を開けた際に踏んづけた校章で、現在の妻が舞子に関係を迫られて落としたのだろうと推理して心に封じた話でした。
ただ、実はただ単にそれは誰かが落とした交渉を鮎美が拾っており、舞子との場面で落としてしていました。
なので、特に喜多の妻は事件とは関係なかったのです。
最後に守衛の無音テープの謎。
これは、シンプルに盗聴しているという話でした。
守衛は盗聴器を仕掛けるのが趣味で、至る所に盗聴器を設置し、情報取集していたのです。
事件の日のことも盗聴しており、それを元に鮎美を脅し体の関係を求めました。
個人的にはこの守衛が一番気持ち悪くて許せない存在でした。
最後の最後に老人ホームでもまだ反省の色を一つも見せない様子に激昂です。
以上、他にも小さい謎は散りばめられていましたが、作中内でも解説されているのでこの記事ではここまでとします。
まとめ

ここからはネタバレないので、安心して下さい。
今回は、横山秀夫さんの「ルパンの消息」を紹介してきました。
ミステリーとして非常に完成度の高い作品で、ワクワクしながら伏線回収を味わえる作品でした。
鳥肌が立つほどの真相とはなりませんでしたが、十分に楽しむことができました。
ぜひ、一度お手に取ってみて下さい。
では、皆さんの読書ライフがより良いものになることを祈っています。

