障害を持っているからといって、夢を諦める理由にはなりません。
ベートーベンは、耳が聞こえない中、有名な運命という曲を作曲しました。
ただし、才能がある以上に、血反吐を吐くほどの努力がそこにはあるんです。
今回紹介する中山千里さんの「さよならドビュッシー」は、火事の被害に遭った女子高生ピアニストが大火傷を負いつつも、再起する青春&ミステリー小説になります。
この記事では、あらすじ紹介と書評、一部ネタバレありの要約、解説を行っていきます。
では、行ってみましょう!
あらすじ
ピアニストを目指す16歳の遙。
祖父と従兄弟のルシアの三人で、留守番をしていた時に火事が発生した。
一人だけ生き残ったものの、全身大火傷の大怪我を負ってしまう。
それでもピアニストになることを固く誓い、コンクール優勝を目指して猛レッスンに励む。
ところが、祖父の莫大な遺産の半分を相続した自分の命を狙う影が見え隠れし始める。
家族の中に犯人が?という疑心暗鬼の中、ついに殺人事件まで発生する。
果たしてコンクール優勝を果たすことができるのか?
殺人事件に隠された決して開けてはいけないパンドラの箱とは?
音楽ミステリーはここでしか読めない。
本書の概要
ページ数
解説含めず411ページ、全415ページです。
読むのにかかった時間
だいたい5時間半ほどで読み切ることができました。
構成
ピアニストを目指す遙の視点で書かれた一人称で進みます。
音楽ミステリーと呼ばれるにふさわしいほど、ピアノやクラシックがテーマになっている部分もあり、小説ならではの音楽表現を文章で楽しむことができる構成になっていました。
しっかりと前置きがあって、事件があって、そして最後には解決する、そして伏線もしっかり張ってあるという構成でミステリーとして楽しむことができる作品でした。
書評(ネタバレなし)
一言、こんな小説読んだことない、が僕の感想です。
音楽ミステリーということで音楽関係の話だろうなとは思いましたが、ここまでピアノのこと音楽のことを事細かく書かれているとは思いませんでした。
音楽の知識が全くない僕でも理解でき、音楽の楽しみ方がちょっとだけわかったような気がするのです。
文章では決して楽しめない音楽という分野をしっかりと、文章力という表現で、どういう音楽でどのような感情を呼び起こす響きを持っているのかが伝わってきます。
「さよならドビュッシー」に出てきた音楽を実際にYouTubeで聞いてみたりもしちゃいました。
そして、「さよならドビュッシー」に書かれている表現、なるほどなって感じました。
わかりやすい文章表現だけでなく、きちんと特徴を押さえられた話で、音楽好きにはたまらない小話なんかもふんだんに盛り込まれています。
成長物語としても非常に良くて、大火傷をした主人公が、指が動かない中コンクールに向け頑張るところは青春を感じました。
途中、挫折しかけるたびに主人公の先生である岬洋介が叱咤激励する姿もまた、心に響くものがありました。
音楽でも主人公の生き様でも心を動かしてくれる非常に魅力的な作品だと感じました。
さらに、ここにミステリー要素もしっかりと組み込まれているから、こんな小説読んだことないという感想になったのです。
殺人事件や奇妙なことが起こって、主人公が困惑する中、岬洋介が事件を鮮やかに解いてしまう姿は見事でした。
そして、最後に待ち受けている驚愕の真実は、「やっぱりな」と思いつつも伏線に気づいた時鳥肌が立って、すぐ読み返してみました。
見事な伏線に、結果は読めたとしても、過程に隠された作者からのトリックには気づきませんでした。
伏線のオチへの驚きは少ないものの、伏線は見事な作品だと思います。
ぜひとも、この先のネタバレを読まずに、伏線が何であるかをご自身の目で確かめて作者の凄さに感服して欲しい限りです。
音楽好きにも、音楽をよくわからない方でも楽しむことができる、青春・音楽ミステリーが「さよならドビュッシー」だと思いました。
おすすめ度
「さよならドビュッシー」のおすすめ度は、5点満点中 5点です。
万人どころか、日本人全員に読んでほしいくら素晴らしい作品という評価。
ピアニストとしえ再起する様子も感動しますし、それに加えてミステリー要素も充実している。
これで満足できない読者はいないと想うくらい濃密な一冊になっています。
メッセージ性もミステリーの謎解き要素も、次どうなるんだろう?というワクワク感も全てが揃った一冊で、ぜひとも読んでほしいです。
要約・あらすじ(ネタバレあり)
ここからはネタバレを含みますので、ネタバレが嫌な方はまとめの章まで飛ぶようにしてください。
では、ネタバレありの内容要約を行っていきます。
まず、遙が祖父と従兄弟のルシアとの火事によって大火傷して目覚めるところからです。
目覚めた時、全身大火傷で皮膚のほとんどを移植し、顔も整形して元の顔に戻していました。
壮絶なリハビリを経てようやく、松葉杖での生活ができるようになったところで、ピアノの先生として岬洋介が現れます。
洋介のおかげで大火傷の影響で2度とピアノは弾けないかと思われましたが、みるみるうちにピアノが元の状態まで弾けるようになっていくのです。
ですが、そんな中松葉杖が突然折れたり、道路に突き飛ばされたり(あわや轢かれるところだった)が発生します。
祖父が資産家で、遺言で莫大な遺産を遙が半分相続するという話になっていたので、それを狙った家族の誰かが犯人だろうと洋介は推理するのです。。
そんな中、遙の母親が階段から突き落とされて死んでいるところが発見されました。
ついに殺人事件にまで発展したことで、怯える遥でしたが、洋介が必ず事件を解決すると約束してくれることで、自分はピアノコンクールへ集中できるようになります。
そして、ピアノコンクールの日、緊張の中、最高の演奏をすることができるのです。
それは、岬洋介のおかげでもあり、彼が苦しい時に支えてくれたり、実は洋介自身ピアニストとして致命的な片耳が聞こえないという障害を持っていたのです。
障害に立ち向かっていく姿に勇気をもらい、遙はコンクールでの優勝を掴むことができました。
そして、事件の真相。
遙の命を狙っていたのは、遙の介護をしてくれていたお手伝いさんでした。
そして、遙の母を殺したのは、遙、いえ遙に入れ替わっていたルシアだったのです。
そうです。火事の現場で助かったのは遙ではなく、ルシアで、ルシアが整形によって遙の顔になりそのまま真実を明かせないまま遙としてずっと生活をしていました。
途中で人が入れ替わるありきたりなトリックであるものの、これによって母親を殺した動機が正体がバレそうになったからであるとわかるのです。
洋介は一回会っただけで遙が実はルシアであると暴いていて、真相にもいち早く辿り着けた形になります。
遙改めルシアは、全てがばれたことを逆に清々しい気持ちになり、遙の母を殺した際は正当防衛に近いために執行猶予がつくだろうという洋介の言葉に少し安堵して物語の幕が閉じられました。
遙になりすましていたルシアについて、もう少し解説していきます。
伏線の解説(ネタバレあり)
火事から目覚めた時に「あたし」と表現されていた一人称が遥ではなくルシアであったというのが「さよならドビュッシー」のトリックでした。
正直、怪しいとは思っていたトリックで、整形や背格好が似たような人が出てきた際はよく使われる入れ替えトリックだと思います。
ですが、中山千里さんは単なる入れ替えトリックだけでなく、しっかりと読者にも伝わる伏線を張り巡らしていたのです。
それが、一人称での文章では決してお母さんやお父さんという表現を使っていなかったというものになります。
話し言葉として呼ぶときは「お母さん」「お父さん」という表現は使うものの、読者が読んでいる一人称視点の文脈では一度もお母さん、お父さんと呼ぶことはなく、あの人などの表現がなされているのです。
これは、言われるまではわからない見事すぎる仕掛けだと思いました。
読み返してみると、確かにお父さんとわかる表現は使っているものの、決してお父さんとは呼ばないですし、お母さんに対しても同じでした。
読者にここまでヒントを与えながら、最後までバレない仕掛けというのは中山千里さんの文章力に脱帽する限りです。
どこかにルシアっぽい動作が隠れているんじゃないかと疑って読んでいたのですが、ここは完全に騙されたポイントでした。
伏線が見事にはまって最後に回収される形は負けたとしか言いようがありません。
まとめ
ここからはネタバレないので安心してください。
今回は、中山千里さんの「さよならドビュッシー」について紹介してきました。
青春であり音楽表現であり、伏線がすごいミステリーである本作は、見事としか言えません。
文章力がとにかく凄くて、それこそ魔法のような小説でした。
ぜひとも、伏線がどこであるのか、最後に驚くポイントを作者がどうやって隠しているのかに注目しながら読んでみてください。
作者の魔法がわかるはずです。
では、皆さんが魔法にかかることを祈っています。
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