恐ろしい多重人格、解離性同一性障害のお話。
人間という存在が一番怖いとはよくいったものと言うべき作品です。
フィクションでなければ、安心して眠ることができなくなるお話になっているのが今回紹介する「十三番目の人格」になります。
興味深い入りから、どんどん怖くなっていき、恐ろしいのに読む手が止まらなく引き込まれる内容は凶悪です。
この記事ではそんな「十三番目の人格」の書評と概要、ネタバレ要約、解説を行なっていきます。
生半可の気持ちで読むと痛い目を見るかもしれません。。。笑
では、行ってみましょう!

あらすじ

人の強い感情を読み取ることができるエンパスという特殊な力を持った由香里。
彼女はその能力を生かして阪神大震災後、被災者の心のケアをボランティアで行なっていた。
そんな中、長期入院中の千尋という少女に出会う。
彼女もまた阪神大震災によって心に傷を負っていたということで話をすることになる。
しかし、千尋は普通じゃなかった。彼女の中には複数の人格が同居していたのだ。
千尋の過去を知り、心を痛める由香里だったが、徐々に心を通わせていけるようになってきた。
だが、やがて十三番目の人格「ISOLA」が顔を出し、事態は一変する。
多重人格の千尋は果たしてどうなるのか?由香里は千尋を救うことが、そして由香里自身の未来を守ることができるのか?
多重人格に潜む本当のメッセージに気づいた時、きっとあなたは戦慄する。
本書の概要

ページ数
文庫サイズにて、全401ページになります。
読むのにかかった時間
心理学用語が結構専門的ですが、読むのに支障はない程度で、会話ベースでした。
時間にしてだいたい、4時間くらいで読み切ることができました。
構成
由香里視点で三人称で書かれています。
感情や思っていることを全て言葉として書いている手法で、わかりやすく読みやすかったです。
心理学用語が難しい部分や絵についての言及がある場面が多々あるので、その部分で分かりづらさはありましたが、物語に関係はするものの理解できない内容ではありませんでした。
また難しい言葉には注釈や意味を聞く場面があるので、安心して読むことができる構成でした。
書評(ネタバレなし)

物語の筋道が素晴らしすぎるの一言です。
最後のオチまで見事に組み上げられた作品で、全ての行動に意味があって、全ての事象がラストにつながっている伏線ともいうべきしっかりとした筋道がありました。
ホラーテイストではあるものの、怖すぎずとにかく先が気になる構成と展開が良かったです。
エンパスという感情を読むことができる特殊能力や多重人格というフィクションらしい設定ではあるものの、リアルかつフィクションだからこそ震えあがれる書き方になっていました。
もしもこれがフィクションでなければ本当に眠るのが怖くなる作品です。
ホラーが極端に苦手という方は読むと眠れなくなるかもしれないです。
ただ、僕自身ホラーは苦手な方ですが、問題なく寝ることはできました。あくまでフィクションという安心感がありました。
心理学というところでめちゃくちゃリアルでありそうという雰囲気を出していました。
専門用語が本物で、フィクションの部分が少ないことによってこのリアルさとホラー要素を出せているんだと思います。
僕的にはラストが特にお気に入りで、貴志祐介さんらしいラストだと感じました。
スッキリとは終わらせない。
最後の最後まで背筋を凍らせる手法はまさに圧巻です。
ラストまでの展開も素晴らしく、読み終わってから冷静になって展開を思い出すと全てが作者の掌の上という感覚になるほど見事に組み上げられた芸術的プロットなのです。
ここまで計算して、読者の感情を操っているなんて見事としか言えません。
驚きという点は少なめですが、「十三番目の人格」も伏線がすごい小説として名が挙げて良いと思いました。
要約・あらすじ(ネタバレあり)
ここからはネタバレを含みますので、ネタバレが嫌な方はまとめの章まで飛ぶようにして下さい。

では、まずはネタバレありのあらすじ、要約から行っていきます。
ざっと「十三番目の人格」の内容をまとめると以下の内容になります。
・由香里と千尋が出会い、十三番目の磯良(いそら)という人格に出会い、由香里は恐怖する
・千尋の心理カウンセラーである医師に出会い、千尋の多重人格をなんとかしようと奮闘する
・千尋の多重人格の原因である叔父によって千尋が強制的に退院させられ、自宅で再び虐待される
・由香里はしばらくしてもう一度千尋に会うが千尋の様子や周りの様子が変わっていることに気づく
・千尋の周りで次々と心臓麻痺の不審死が起こっていることを知り、由香里は十三番目の磯良(いそら)という人格が黒幕だと暴く
・由香里は十三番目の磯良(いそら)という人格がどのように不審死を引き起こしているのか原因を突き止めるため千尋のことを熱心に調べていた大学の先生(弥生)のところへ行く
・目当ての先生(弥生)は大震災の時に亡くなっていて、代わりに真部という助教授に出会い弥生の話を聞きつつ仲良くなる
・十三番目の磯良(いそら)という人格の正体が、幽体離脱に成功した弥生であると判明する
・弥生は幽体離脱を研究していて、実験に成功し魂の形になり千尋の人格として入り込んだのだった
・十三番目の磯良(いそら)という人格改め、弥生は真部が震災の際に自分のことを見殺しにした恨みを晴らすべく命を狙っていることがわかる
・真部と由香里は恋に落ちつつ、二人で弥生から逃げることにする
(弥生は幽体離脱をすることで、人の中に入ることができ心臓麻痺にする力を持っていた)
・感情を読み取ることができる由香里はいち早く弥生の居場所を突き止めつつ、逆に弥生を追い詰めることに成功する
・ついに決着の時、真部は弥生の心を受け止める決断をする
・真部は自分の体に新しい人格として弥生を受け入れ一緒に生活することを提案する
・弥生は真部を恨んでいたのではなく真部と一緒になりたかった嫉妬心であったことがわかり間部の提案を受け入れる
・真部は弥生を自分の肉体にとどめたのち、飛び降り自殺をすることで弥生を永遠に葬ることに成功する
・千尋から弥生(十三番目の磯良(いそら)という人格)がいなくなり、丸く収まるかと思いきや。。。
最後の千尋の今後については、ぜひ本書で確かめてみて下さい。
以上が一通りの「十三番目の人格」の流れになります。
かなり端折っているので、わかりづらい部分もあるかと思いますので、ぜひ一度「十三番目の人格」をお手に取ってみて下さい。
見事すぎるプロットで、全てが素晴らしいラストに向けて書かれているのでとても読みやすかったです。
解説(ネタバレあり)

最後の真部が自殺を図った部分について解説して終わりにしたいと思います。
真部が自殺をした理由は、弥生を抹消するためでした。
弥生を自分の中に取り込めば、一緒に死ぬことができたのです。
単純に体を明け渡すと言っても、無意識の抵抗があるため真部自身も薬物を投与することで、半覚醒状態なりました。
半覚醒状態、トランス状態だと、魂状態の弥生が真部の中に入ることができ、見事に一つになることができたのです。
そして、真部はそのまま自殺をする。
真部は千尋に投与すると言っていた薬を取りに行った時点で、この結末までを予期していたのでしょう。
そのために半覚醒状態になれる薬も持っていったのです。
覚悟を決めていたからこそ、焦り、なんとしても今日中に弥生を見つけ出して始末をつけたかったんですね。
真部の心理的には見捨ててしまったというところが多かったのでしょう。
子供の頃冷蔵庫に閉じ込められたというトラウマがあり、弥生の肉体が死んでしまった時はその場に居合わせていながら、見捨てるという形を取ってしまいました。
トラウマによってパニック状態になってしまったのです。
真部はその弥生を見捨てたという事実が罪悪感としてずっと残っていました。
おそらく見捨てるという行為が、昔自分のことを冷蔵庫に閉じ込めた相手と重なってしまいさらに苦しくなってしまったのでしょう。
冷蔵庫に閉じ込められた時は、被害者でしたが、今度は加害者になってしまった。
その結果、弥生への反省を示すためにも一緒に死んでやるという選択肢を取ったのでしょう。
あくまで「十三番目の人格」の登場人物の一人ですが、感情移入してしまうとなかなか辛いラストでした。

まとめ

ここからはネタバレないので、安心して下さい。
今回は「十三番目の人格」について、書評、要約、解説を行ってきました。
ホラーでありながら、ラストという見事なオチに向かって綿密に組み上げられたストーリー展開は素晴らしかったです。
人間の心が一番恐ろしいというのを提言するような作品で、多くの方におすすめしたい一冊でした。
ぜひ、千尋のラストの姿に注目してみて下さい。
ゾッとするようなラストに背筋が凍るはずですから。
では、皆さんの読書ライフがより良いものになることを祈っています。

