悪人は全て罰すればいいのか?
ヒーローのやっていることはただの暴行行為なのか?
今回紹介する、あぎぬまXさんの「殺人鬼はご当地ヒーロー」ではご当地ヒーローに扮した殺人鬼が出てきます。
被害者は極悪誘拐犯というわかりやすい悪人。
果たして犯人は正義なのか。
この記事では、そんな「殺人鬼はご当地ヒーロー」のあらすじから、概要、一部ネタバレありの要約を行っていきます。
では、いってみましょう!
あらすじ
東京町田のご当地ヒーロー・マチダーマン。
その運営会社で働く志村は、ある日テレビのニュースを見て衝撃を受ける。
かつて志村自信がデザインしたヒーローの姿をした人物が、誘拐犯を殺害し少年を救出したとのことだった。
周囲は考えすぎだと言うが、志村は悶々としている中第二の事件が起きた。
身内に犯人がいることを確信した志村は動き出す。
果たして志村はヒーローの暴走を止めることができるのか?
ヒーローの姿をして殺人を犯す犯人の目的とは?
本書の概要
ページ数
解説含めず372ページ、全381ページでした。
読むのにかかった時間
だいたい4時間半ほどで読み切ることができました。
構成
主人公である志村視点で描かれる三人称の文体になっていました。
時々志村以外の視点に切り替わる場面もありますが、基本は志村視点での物語展開という構成でした。
書評(ネタバレなし)
起承転結が素晴らしすぎる王道ミステリー!というのが僕の感想です。
まず殺人鬼が明らかになっているにも関わらず覆面のご当地ヒーローという出立ちなので犯人の詳細がわからないものの、自分の会社から持ち出された衣装ということから身近に犯人がいるとわかる起。
犯人を頭の片隅に置きながら、日々の業務に追われ小さいところで名推理を発揮する承。
犯人と思った人物が検討外れで、新事実が明るみになるものの読者側にはうまくわからないように濁す転。
そして、最終的に犯人を追い詰めて論理的な推理でズバッと解決するという結。
綺麗にまとまった作品だったなという印象でした。
途中に入っている会社の小話やら何気ない描写も飽きることなく読めました。
一見無駄なシーンに見えるものの、発想の目新しさで飽きることなく読め、さらに実はそんなシーンがキーポイントになっている伏線だったというのだから驚きです。
伏線に震えることはないものの、しっかりと読み返すと確かに伏線として描かれていました。
物語の起承転結という面白いストーリーに流されているうちに、いつの間にか伏線を浴びて謎が一気に解決する。まさに王道のミステリーだと思いました。
犯人を当てる前にミスリードしてくる場面もあって、すっかり騙されちゃいましたし。
設定がとんでもないや、伏線回収がやばくて大どんでん返しの展開!というわけではない小説ですが、しっかりと王道のミステリーを踏襲しつつ途中を飽きさせない工夫がある小説でした。
登場人物が中々に多いので感情移入できないのが少しもったいない気がしました。
もう少し登場人物を減らしつつ、それぞれの人物の背景を知りたいと思いましたね。
おすすめ度
おすすめ度は5点満点中4点です。
ミステリー小説好きはもちろん、読書初心者の方にも是非とも読んでほしい作品でした。
グロテスクなシーンもお色気シーンもないので、多くの方が楽しめる内容だと思います。
一点、動機や人の感情系がうまく表現できていないかなという印象があり、感情移入や心動かされる場面は少ないかもしれません。
ただストーリーとしては非常に面白く、ミステリーといったらやっぱりストーリー構成と展開、スピード感、驚き!という方にはぴったりの作品だと思います。
伏線もしっかりと散りばめられていて、最後にあーあの場面はそういうことだったのか。
読み返して納得する展開になっていました。
トータル、ミステリーとして非常に良くできたストーリーで万人が楽しめる内容になっている。感情移入ができないのでそこだけはいまいちポイントかなという感じですね。
要約・あらすじ(ネタバレあり)
ここからはネタバレありの要約、あらすじを行いますのでネタバレが嫌な方はまとめの章まで飛ぶようにしてください。
では、ネタバレありの要約、あらすじからやっていきます。
ヒーローの格好をした人物が誘拐犯を殺し、少年を救ったというニュースを志村は見ました。
少年が見たというヒーローの絵も放映され、志村はかつて自分がデザインし、お蔵入りになったヒーローであると確信します。
しかし、周囲の人たちにその話をしても取り合ってもらえず月日は流れました。
そんなある日、河野という人物と待ち合わせをしていた志村。
そこへ行くとなんと河野が噴水の水に押さえつけられている場面でした。
押さえつけている人物は志村がデザインをしたヒーロー。そう誘拐犯を殺害した人物と同じでした。
第一発見者である志村はそのヒーローが確実に自分のデザインしているものであるとわかり、警察に事情を話しつつ自分でも調査を進めることにしました。
殺人ヒーローの衣装は会社の倉庫に置いてあるため、志村と同じ会社に出入りしている人物であると志村は推理します。
そして、ついに過去の事件や過去の特撮を見る中で一つの答えに辿り着くのです。
犯人に対してメールを送りある場所に来るように要求します。
犯人は半信半疑ながらも志村の前に現れ、志村の推理が披露されます。
犯人は一緒に働いたこともある脚本家でした。
脚本家は誘拐を企てた人物と幼馴染であり、過去にも同じ事件を起こしていました。
幼馴染は誘拐のたびに子供を殺しており、脚本家はそんな幼馴染を見てられず幼馴染自身を殺したのでした。
河野については自分が殺人鬼であることがバレそうになり殺したのこと。
実は過去に脚本した特撮の中に、今回の誘拐と全く同じ手法が描かれる場面があり、実は最初から誰かに罪を咎めて欲しかったと吐露します。
志村は無事事件の真相にたどり着き、物語は幕を閉じました。
犯人を推理する伏線(ネタバレあり)
犯人を推理する上で重要な伏線となったのが、メガネです。
志村は普段の仕事や生活ではメガネをしており、特撮のショーに出る時だけコンタクトという出立ちをしていました。
メガネをつけている姿とつけていない姿に違いが志村にはありました。
なので、初めてメガネをつけている姿からコンタクトの姿を見ると、一瞬「誰?」と反応されるのが志村の日常でした。
逆にコンタクトの姿しか見ていない人物にメガネの姿を見せると一瞬「誰?」となるのが当たり前でした。
実際にそういった場面が多々出てきています。
犯人は脚本家だったわけですが、彼は志村がコンタクトの姿である時しか見たことがありませんでした。
しかし、河野を殺した犯行現場で志村とあったときは志村はメガネをしていました。
なのでこの瞬間に初めてメガネ志村を目撃しました。
後日、脚本家とメガネ志村が初めて出くわす時、脚本家は志村のメガネに違和感を持ちませんでした。
なぜなら、犯行現場でメガネ志村を目撃しているのですから。
志村はこのことを忘れていませんでした。
初めてのメガネ姿のはずなのに、違和感なく接する脚本家に引っ掛かりを覚えていたのです。
そしてそこを糸口に情報を詰めていくことで犯人の確証を得るという構成でした。
メガネとコンタクトで姿が変わり、初めて会う人にその違和感が一瞬生まれるというのは本当にちゃんと表現されている伏線で見事でした。
隠れた表現も注意しないと見逃しちゃいますが、素晴らしい伏線だと思いました。
まとめ
ここからはネタバレないので安心してください。
今回は、あぎぬまXさんの「殺人鬼はご当地ヒーロー」を紹介してきました。
非常に起承転結が素晴らしく、読みやすいミステリー小説でした。
伏線もしっかりあって、万人受けしそうな内容だというのが僕の評価です。
もう少し感情移入したかった気持ちはありますが、ストーリーがとにかくテンポが良くて面白いのでおすすめです。
では、皆さんの読書ライフがより良いものになることを祈っています。
コメント