夫のW不倫と不倫相手の自殺。
逃避行する母子を描いたストーリー。
今回紹介する辻村深月さんの「青空と逃げる」はそんなミステリー小説になっています。
夫が逃げる理由、逃げた先に待つ思いもよらない展開、結末に心温まるストーリーです。
この記事では、「青空と逃げる」のあらすじから、ページ数、一部ネタバレありの要約・解説を行っていきます。
では、いってみましょう!
あらすじ
元劇団員の早苗は深夜夫が交通事故にあった連絡を受ける。
病院に駆けつけた早苗と息子の力は、そこで夫が誰の運転で事故に巻き込まれたかを知る。
夫と一緒にいたのは、夫が次の舞台で共演する大女優だった。
W不倫で騒ぐ世間。
女優は事故により顔に傷が残ることを苦に自殺してしまう。
夫もまた、退院と当時に失踪してしまう。
事故の真相が明らかになる前に、早苗と力は世間の心のない言葉に傷ついていく。
そして、ついに東京から逃げることを決め、逃避行が始まる。
高知、兵庫、大分、仙台…
壊れてしまった家族がたどり着く場所とは。
本書の概要
ページ数
文庫サイズで解説含めず447ページ、全457ページでした。
読むのにかかった時間
だいたい5時間半ほどで読み切ることができました。
構成
早苗と力の視点をそれぞれ三人称視点で描く書き方をしていました。
交互に描かれるので、今がどっちの視点で書かれているのかが分かりやすかったです。
地名が多く出てくるので、地図と見比べたり自分のこれまでの旅行体験と重ねられると楽しさが倍増しそうな構成でした。
書評(ネタバレなし)
おっと、ただの逃避行系の小説じゃないぞ。おお~、この小説はミステリーだったのか。というのが僕の感想です。
どうして、母子が逃げているのかから段々と明らかになっていき、逃げている理由が明らかになったと思ったら次はもう一つ大きな謎が生まれてくる。
まさにミステリーの真骨頂が「青空と逃げる」には組み込まれていました。
母子がとにかく責められて、逃げて、最後に逆転する系ではない点は注意が必要です。
決して早苗と力の母子は、悪いことはしていません。
追ってくる側も決して早苗と力を殺そうとしているわけでもないのです。
なので、最初の方はふわっとした設定で、最後までこんな感じだったら面白くない小説だなと思いました。
しかし、そのふわっとした設定をちょっとした不可解な事実によって、小説の味が締まっていくのです。
力の隠していること、夫が隠していること、この二つによって物語はより面白くなっていきます。
逃げつつも真実に迫る感じはどきどきはしないものの、結末が気になる構図になっているのです。
ミステリーとして読むことで非常に面白く感じることができました。
伏線が一気に回収されることや、トリックによって鳥肌が立つということはないミステリーですが、人間模様が上手く描かれていて、現実的な謎がスパイスになっていました。
物語として抑揚もあって、飽きずに読める内容だったと思います。
スピード感があって、ハラハラどきどきする感じではないですが、真実がゆっくりと明るみになる感じは読んでいて面白かったです。
おすすめ度
おすすめ度は5点満点中3点です。
ちょっと辛めの判断になっています。
というのも、物語として結構面白いのですが、感動系にしてはそこまで感動しない。
ミステリーとしてみるともっと、不可解で逆転を味わえる作品は他にあるしな~と思ってしまったのです。
感動系で読みたいなら、同作者の「傲慢と善良」の方が感動しましたし、伏線回収などのミステリー要素なら同作者の「ぼくのメジャースプーン」の方が驚きのある結末でした。
そういった観点からおすすめ度を測ると、他の作品の方が先に読んでもらいたいという意図から3点というちょっと辛めの判断にしました。
とはいえ、すでに「傲慢と善良」「ぼくのメジャースプーン」などを読んでいる方は、「青空と逃げる」十分に楽しめると思います。
「傲慢と善良」で出てきた早苗と力が主人公の話なので、物語が交差しているのを楽しむこともできる点もお楽しみポイントです。
ワンポイントで傲慢と善良のキャラかどうか判別は難しいですけどね(二行くらいしか出てきません)
要約・あらすじ(ネタバレあり)
ここからはネタバレを含みますので、ネタバレが嫌な方はまとめの章まで飛ぶようにしてください。
では、ネタバレありの要約・あらすじからやっていきます。
早苗と力は四万十川(高知県)にやってきていました。
早苗の夫であり力の父である「拳(けん)」は、交通事故の後退院のタイミングで失踪していました。
交通事故により、拳と大女優の不倫騒動が明るみになり、さらに大女優が事故の怪我による精神的ダメージで自殺していました。
この自殺により、大女優側の事務所が激怒し、拳の行方を全力で追っていました。
拳の行方を追うために、執拗に早苗と力にも圧力をかけ(事務所は怖いお兄さんが多めの事務所だった)早苗と力は耐えきれず、東京から離れる決断をしました。
四万十川でようやく落ち着いた生活ができてきたかなと思ってきたタイミングで、事務所の人が早苗と力を追ってきたことがわかりました。
二人は再び逃げることにして、今度は家中(兵庫の島)に行くことにしました。
ただ、当初の予定であった力の夏休みの間だけ逃げようという期限が迫ってきました。
予定通り、夏休みが終わるので逃避行はやめ、東京に戻ろうとしたタイミングで力が学校に行きたくないと言い出すのです。
学校では、父・拳がやらかしたことで軽いいじめを受けていたと告白する力。
そのため、早苗も無理やり学校に行かせるより二人でこのままほとぼりが冷めるまで逃げることを決意します。
そして、今度は別府(大分県)にやってきました。
早苗は砂かけの仕事をしつつ、力は学校に行かずに自由奔放に生活をしていました。
早苗は力の行動で一つだけ気掛かりがありました。
実は、早苗は逃避行の前に力の部屋のクローゼットで、血まみれの包丁を見つけてしまったのです。
どうして、血まみれの包丁がクローゼットの中に隠すようにしまってあったのかを聞けないまま、逃避行を続けている形でした。
モヤモヤはあるものの、実は力が拳を刺したのではないか、と嫌な予感がしていました。
そんな時、自殺してしまった女優の息子が二人の前に現れます。
その息子は、テレビに映ってしまったのが原因で、事務所が二人の居場所を知ってしまいすぐに逃げた方が良いとのアドバイスをしてくれます。
そして、夫・拳が仙台(宮城県)にいることを教えてくれました。
早苗と力は仙台(宮城県)へと向かうのでした。
仙台(宮城県)では写真館にお世話になり、二人は生活をしていきます。
そんな中、早苗は決心して力に疑問をぶつけてみることにしました。
「お父さんの居場所知っているんでしょう?」
その言葉を聞いて、力は全てを白状することにしました。
血まみれの包丁は、最後に拳とあったときに父親が持っていたもので、父親の血であること。
女優の息子に刺されそうになったが、手のみの怪我で済んだこと。
怪我を隠すことで、女優の息子が責められるのを防ぐために逃げていることを話しました。
そして、今拳は北海道にいることもわかっていると言います。
早苗は全てを聞いて、今後どうしていくかも考え、とりあえずは拳に会いにいくことを決意します。
夫の不倫疑惑はあくまで疑惑であり、拳自身は何もなかったと言っている。
その言葉を信じるのか、今後3人家族で過ごしていけるのか、事務所との関係は良好に収まるのか。
それらは今後の3人の心に委ねられているのでした。
以上が、「青空と逃げる」の内容です。
3人が再会するというところで、物語は終わりでした。
結末のその先を考察(ネタバレ)
ここでは、3人が再会した後の展開について考察していきます。
僕の考察では、これから3人で東京に戻ったのち別府に引っ越すことになるのではと思います。
まず、3人が仲直りして家族として再び歩き出すという展開は、ストーリー的に見えやすいです。
早苗も決して夫に怒っているわけではなく、よくわかっていない信じたいのに信じられないジレンマのような感情を抱いていたからでした。
その感情が、力の告白によって明らかになった今、拳を許さない理由にはなりません。
たとえ、不倫がなかったと信じられないとしても息子のためにも離婚はしないという決断をすると思います。
そして、別府に引っ越すという考察については、早苗自身一番しっくりした働き口である点とこの物語で別府が非常に特別なものとして描かれている点からそう考察しました。
別府は早苗と拳にとって、劇団時代の思い出の地でした。
さらに、不倫の疑惑になった女優と息子についても別府での思い出が語られていました。
こんなに語られるのであれば、今後住み着いてもおかしくない伏線になりうるという考察です。
一点気になるのが、力のことですね。
力は東京の学校に通っていたわけですので、別府に移り住むとなると転校する必要があります。
力はそれを受け入れるのか、そこが疑問になってきますね。
僕としては、光流という力の友達にだけ会って、バイバイするという展開で問題ないと思うんですよね。
心機一転、力には新しい地で友人関係を築いていく。そんな流れになると思いました。
小学6年生での転校はちょっとタイミング的にアレなので、もしかしたら中学校から別府に引っ越す展開もありそうです。
とはいえ、全て小説には書かれていないことですし、今後描かれることがない僕の勝手な考察でした。
物語をあえて、再会まででとどめてくれるとその先を妄想できるので楽しいですよね。
皆さんは3人の今後どうなると思いますか?
まとめ
ここからはネタバレないので安心してください。
今回は辻村深月さんの「青空と逃げる」を紹介してきました。
のほほんとした逃避行の中、ピリッとひかるミステリー要素が面白かった一冊でした。
子供や親の感情が見事に表現されていて、めっちゃ気持ちわかる!ってなる場面も多くありました。
人間の心情の動きを書かせたら辻村深月さんは天下一品ですね。
リアルな人間模様ぜひ読んでみてください。
では、皆さんの逃避行がうまくいくことを祈っています?
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