身近に潜むちょっとした謎。ミステリー。
見事に短編に落とした一冊を今回は紹介します。
米澤穂信さんの「満願」です。
全六遍の短編ミステリーで、その一つ一つのクオリティが高すぎる一冊でした。
この記事では、そんな「満願」のあらすじから、構成、一部ネタバレありの内容要約紹介を行っていきます。
では、いってみましょう!
あらすじ
全六遍の短編集が収録されたい一冊。
「もういいんです」人を殺めた女は控訴を取り下げ静かに刑に服したが、その裏には真の動機が…(満願)
恋人との復縁を望む主人公が訪れた宿は自殺志願者が泊まる宿で、遺書の下書きが見つかり主人公は自殺を止めようとするが?(死人宿)
美しい中学生姉妹の恐ろしき計画とその裏に潜む本当の狙い(柘榴)
ビジネスマンが自分の目的のために行った殺人を語る。そして…(万灯)
警察官が人質を守るために発砲し、命を落とした事件の真相は実に姑息な背景が…?(夜警)
都市伝説を調べに来た記者が訪れたドライブインで、近くの崖で起こる事故の話を聞いていると新事実が明らかになって?(関守)
全てが独立した物語なのに、全ての謎が身近かつ興味深いクオリティの高いものになっている。
あなたのお気に入りの話はどれ?
本書の概要
ページ数
文庫サイズで解説含めず415ページ、全422ページでした。
一編あたりだいたい60ページちょっとでした。
読むのにかかった時間
一編あたり40分弱で読むことができ、トータル4時間かからないくらいで読み切ることができました。
構成
一編ずつ完全に独立した短編集になっていて、それぞれ主人公が異なる構成でした。
書き方は一人称が多く、一編の中でも複数の視点で描かれることがありました。
書評(ネタバレなし)
短編集とは思えないクオリティの高さだった!というのが僕の感想です。
僕は正直短編集が好きではないのですが、「満願」はかなり楽しめたと思います。
短編集は盛り上がったところでどうしても終わってしまいますし、なんとなく謎がしょぼくて興味をそそられづらいと思っていました。
「満願」はとにかく一つ一つの謎が興味深くできているんです。
簡単なあらすじを上に書いていますが、面白そうでしょう?
実際全部面白かったです。
僕は特に関守がお気に入りで、最後の最後で徐々に怖さが出る演出。ラスト。最高でしたね。
謎としては決して大々的なものではないものの、しっかりと興味をそそる内容になりつつ全て納得できるオチがある。
意味深に終わるのではなく謎が読者には開示され、すげぇと毎回思わせてくれる短編が6つある状態です。
文体としても非常に読みやすく、短編だから主人公が変わるたびに登場人物が変わって混乱しそうなものですが、しっかりと書き分けができているおかげで混乱せずに全ての物語に没入することができました。
よくなかった点を挙げるなら、やはり短編であることですかね。
一つ一つのクオリティが高いのは確かなのですが、やはり短編でページ数が限られているために伏線がすごいってのがない。
大どんでん返しというのもないのは、伏線好きで驚かされ好きな僕としてはイマイチだなと感じてしまいました。
とはいえ、短編嫌いの僕ですら長編の如くストーリーを楽しめる「満願」は6つという数としてもミステリーを数多く一冊で楽しみたい方にはぴったりだと思いました。
おすすめ度
「満願」のおすすめ度は5点満点中3点です。
短編好きには手放しにおすすめできるのですが、長編が好きで伏線を堪能して大どんでん返しが好きという方にはおすすめできませんね。
短編なので、一回のオチがそれで終わってしまうので、驚きは一回だけでその驚きも決してありえない角度からの一撃ではないんです。
なので、読みやすさやクオリティの高いミステリーをコスパよく読みたいという方にはおすすめですが、そうではない方にとっては別のミステリーを読んでほしいと思いました。
完全に短編が単純に好きではない僕の感想ですので、一度本屋さんで一編くらい立ち読みしてみると判断材料になるかもしれませんね。
立ち読みする時は夢中になりすぎて、長居しすぎて怒られないようにしてください笑
要約・あらすじ(ネタバレあり)
ここからはネタバレを含みますので、ネタバレが嫌な方はまとめの章まで飛ぶようにしてください。
では、ネタバレありのあらすじ・要約をおこなっていきます。
六遍全てをやらずにここでは僕の一番お気に入りの話、「関守」についてのみ紹介します。
主人公はフリーライターで、ジャンルを問わず色々な記事を書いていました。
そんなある日、都市伝説の記事を書いてみないかというオファーがあり受けます。
受けるとは言ったものの、都市伝説のネタが思いつかない主人公は、大学の先輩(ライター)にアドバイスをもらいに行くことにしました。
先輩からは望んだ通りネタのアドバイスをもらい、その土地へと向かうことになったのです。
紹介された都市伝説というのが、「ある平凡なカーブの先の崖で車による転落事故が多発している」というものでした。
主人公はその問題となるカーブがある崖に向けて車を走らせて向かいました。
先輩はかなり入念に調べてはいたものの、実際に現地の人に話を聞きたいと思った主人公は、崖の近くにあるドライブインのお店に入りました。
お店はおばあさんが一人で切り盛りするカフェのようなところで、とりあえずコーヒーを頼みつつおばあちゃんにいろいろ話を聞くことにしました。
これまで起こった転落事故の被害者について聞いていると、平凡なカーブなのにどうして崖から落ちてしまったのかがわからないといういかにも都市伝説のような話が出てきました。
どういうふうに記事にしようか考えつつおばあさんの話を聞いていると、あることに気づきます。
被害者全員がこのドライブインに来ていることです。
不穏な空気が流れる中、都市伝説となる事件の最初の被害者である男の話を聞くとおばあさんが語り始めます。
その被害者というのはおばあさんの娘の元夫であったと。
娘はその夫に暴力を振るわれていて、逃げるようにこのドライブインがあるお店に来ておばあさんに助けを求めたのでした。
しかし、夫も娘を追いかけてドライブインまでやってきたのです。
娘は自分の子供を連れ去られそうになったところで、近場にあった石で夫を殴り殺したのでした。
犯行を隠すために遺体を車に乗せ、崖から突き落としたというのが事件の真相だったわけです。
そして、その後崖から転落していた人たちというのもこの事件が露見しそうになるたびに実はおばあさんが飲み物に睡眠薬を入れ、車に乗せ崖から落としていたと語られます。
主人公はそれを聞いているうちに眠くなっていることに気づくのです。
そう、今飲んでいるコーヒーもまた睡眠薬が入れられていました。
薄れ行く意識の中、おばあさんは前々からこの事件について嗅ぎ回っている男がいると思っていたが、ようやく会うことができて始末することができてよかったと語ります。
主人公は思います。自分は今日が初めてで、おばあさんが言っている前々から事件を追っていたのは先輩だった。自分ではないと最後の力を振り絞って声に出そうとするところで、物語は幕を閉じます。
関守のその後を考察!(ネタバレあり)
関守について僕なりのその後の考察をしていきます。
主人公はまず死ぬかどうか、僕は死んでしまうと思います。
これまで車に乗せて崖から落とされるという、現実では若干成功確率が低い殺し方ではあるものの4人の被害者全てをうまくやっているおばあさんですから、主人公に対してもうまくやることでしょう。
ただ、一点の望みとしては車が新しくなっているおかげでエアバックやらの性能向上によって主人公が助かるという展開です。
おばあさんの話から、関守の物語ではカーナビが当たり前に車についている時代ではないようでした。
なので、もしかしたらエアバックやらの生命を守る機能も古いままで、最近の車に乗っていた主人公は助かる可能性もあると思いました。
事件の真相については先輩が解き明かしてくれると思います。
先輩はこの事件は最初から手をつけるべきではないと主人公にも言っていますが、さすがに自分の紹介した事件で主人公が死んでしまったら動き出すことでしょう。
さらにおばあさん視点からは、事件を嗅ぎ回っていた人物は始末したと考えているため油断しているはずです。
また主人公はずっとボイスレコーダーで録音をしていました。
おばあさんに始末される前に捨てられてしまう可能性もありますが、おばあさんがボイスレコーダーという存在自体知らない可能性もあります。
ボイスレコーダーにおばあさんの犯行の一部始終が入っていれば事件を解明することが警察にもできてしまうでしょう。
そういう意味で関守は悲しそうな結末になるものの、明るいその後があるという読みです。
皆さんは関守を読んでどんなその後があると思いましたか?
まとめ
ここからはネタバレないので安心してください。
今回は米澤穂信さんの「満願」を紹介してきました。
短編集としては一つ一つのクオリティが高すぎる一冊で、どれを読んでも一定のレベルの面白さを感じることができると思いました。
僕のイチオシは関守で最後のダークな感じやラストは好みでした。
他にも興味深い事件やら真相が気になりすぎる話があるのでぜひとも読んでほしいです。
では、皆さんの読書ライフがより良いものになることを祈っています。
コメント